バレイショ遺伝資源開発学講座

国立大学法人 帯広畜産大学
〒080-8555 北海道帯広市稲田町西2線11番地

PGEL便り(2015年)

Win Win Winter

氷点下の朝を迎えている十勝です。
今年の秋は写真を撮る間もなく過ぎ去り、瞬く間に並木が裸木になっていきました。 これから来る長い冬を熟知しているかのように、それに備え全ての生き物が心構えと下準備をしています。寂しい気分になっている生き物なんて人間以外にいません。

紅葉1紅葉2
紅葉 (いずれもK.O.さんからの提供)

先月末は東京へ赴き研究資金を寄附頂いておりますスポンサーの方々にご挨拶へ伺いました。一方的に押し掛けた状態でしたが、お時間を頂きました方々どうもありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。
今月から当研究室に新しいメンバーが増えました。ジャガイモ疫病の仕事を主に行ってくれる研究員のメキ君がエチオピアから来ました。と言っても彼はほとんどヨーロッパ人思考になっていますので、異文化に慣れるのは早いと思われます。最近の研究ではジャガイモシストセンチュウに対する強力な抵抗性遺伝子までも見つけているらしく、お互いのデータ、材料そして興味のある点を理解しながら早く存分に研究ができる体制を整え、病害虫抵抗性分野を強化してく予定です。
これで当研究室のメンバーは計5名となり、さらには全員が、実験室仕事ができかつ、植物の管理ができる状態になりました。もりもりデータが出てくるでしょう。
冬季は会議が多い時期ですが、それらに振り回されず自分のデータに向き合う時間を少しでも多く確保しなければ研究は進みませんね。勿論、外との意見交換、情報共有などは大切にしていきます。

では、楽しく凍てつく冬をお迎えしましょう。

“晩秋1"“晩秋2"
         晩秋を迎えた大学のグランド
(2015年11月8日 實友)



The autumn is leaving with fallen leaves.
大学のキノコ

空気の澄みきった秋晴れの季節を過ごしています。それもつかの間、すぐ後ろで冬が控えています。今朝は3℃まで下がりました。

9月に入って気温が下がり、雨も降ったので、疫病試験区の材料は最後の最後で疫病に感染し、何とか選抜することができました。今年選抜したのはS. demissumのBackcross 集団なのですが、周りが疫病にやられて枯れていても、全く無傷の個体もいくつかありました(ハムシには食べられています)。野生種由来のエグ味がどれだけ残っているのかが問題ですので、今月中にそれらを試食する予定です。こういった疫病にとても強い材料を中間育種に上手く利用していきたいと思います。

左は疫病感受性個体、右は抵抗性個体
感受性個体抵抗性個体

系統保存収穫が終わったと思いきや、温室はその2日後には、系統保存の材料で埋め尽くされました。種子で保存できる他の作物や園芸植物とは違い、バレイショは一年に一回の系統保存をしなければ材料が維持できません。労力、場所、土、暖房費、どれも軽視できない額と時間です。一度失えば永遠にこの世から消えるものばかりで簡単に手放せないですが、研究すればするほどそれらの材料が増えていきます。何かこの系統保存に関して抜本的な改変が将来必要ではないかと思うのですが、良い術はないのでしょうか・・・。 温室ができてから3年、色んな反省をふまえながら、秋シーズンスタートです。

ハロウィーンを待つ
パンプキン
(2015年10月5日 實友)



What is harvested?

バイクで走っていると前方のトラックからタマネギの皮が無尽蔵に振ってくるような、収穫の季節を迎えている十勝です。清々しい晴れの日も多くなり穏やかな天候が続いております(今日は久々の雨です)。

収穫を待つバレイショ畑
収穫待ち

今年の選抜個体私たちの中間育種材料の収穫、選抜もほぼ終わり少しほっとしています。今年は猛暑のせいか、全体的な収量が昨年度より低い値となりました。確かに植物形態も昨年のように通路をふさぐほど繁茂しなかったように記憶しています。しっかり潅水を行っている温室内であっても外気温にかなり影響されるのですね。

話しは変わってここ一ヶ月、植物の病気について考えさせられています。
偶然、先日ある記事でおぞましい写真を目にしました。それはトウモロコシが黒穂病(Ustilago maydis)にかかり、エイリアン化した写真でした。黒穂病
筆者は数年前に海外でSynchytrium endobioticumによるジャガイモ癌腫病の研究に携わっていましたが、その病気がビジュアル的に最悪だと思っていましたが、さらに酷いものがありました。黒穂病にかかったトウモロコシはまるで化け物です。そして何にもっとショックを受けたかというと、それがなんと “珍・味”ということらしいです。メキシコ料理に昔から使われるようで ”ウイトラコチェ(Huitlacoche)”と言う名の食材だそうです。
というところまで記事を見て衝撃を受けた二日後、まったく思いもよらないことに、イモ掘りの最中・・・私たちのバレイショ温室前の野菜畑に、なんということか、タイムリーにエイリアンが出現しているじゃありませんか!! 右の写真のトウモロコシがそれです。あの記事さえ読まなければ即刻廃棄でしたが、知ってしまってはその後に残された道は一つ、顔をしかめながら収穫、調理するしかありませんでした(食後の急激な様態悪化を考えて日曜日に実施)。その味は濃厚でクリーミーでふわふわした食感でございまして、各国の人々がまるでトリュフと絶賛するのが何となく分かりました(右下写真 ウイトラコチェ作ってみました)。トリュフ?
メキシコではウイトラコチェは通常のトウモロコシの10倍の値段で取引されるとの記事もあり、わざと黒穂病に感染させる農家もあるそうです。(そんな農家と普通にトウモロコシを作りたい農家が隣接しておれば、ウイトラコチェ農家はきっと夜襲に遭うと思いますが。) よく考えてみると、貴腐葡萄なども似たような部類なのかもしれませんが、この経験を持って、作物、菌、ヒトの三角関係の新しい価値観を得ました。
また同時に健全な作物とは一体何かと疑問を抱き続けている昨今です。

(2015年9月2日 實友)



Make a base for the castle

北海道から涼しい夏のお便りを発信、できません!! 30度を超える湿度の高いじめじめした夏を過ごしています。
大学のカラスは昨日、暑すぎて芝生の上でオットセイのように口をめいっぱい開けて天を仰いでいました。その横ではカルガモがビオトープで泳ぎながら噴水に顔を突っ込んでお尻を振っていました。一年で最も人が溢れかえる土曜日のオープンキャンパスdayとはうって変わって、大変静かな日曜日でした。

夕暮れ時の季節限定、麦稈ロール
麦稈ロール

さて、十勝では小麦の収穫は雨に当たらず無事にほぼ終了したようですが、ジャガイモ畑は既に半分以上が干上がっています。高温と乾燥で疫病が全く発生しません(それでもバレイショ一般農家では毎週殺菌剤を撒いているのか?)。私たちの疫病試験区は何の選抜もできないまま終了してしまうのか、生育後半の残り2週間、疫病たちを待っています。来ないとなると、何をやっていたのか…という事になります。バレイショの仕事をしている以上、休眠、日照、温度などを人工的に全てコントロールすることは不可能です。いつでも播けばすぐ芽が出て大きくなる実験植物との違いはここですね。一年一期、勉強と反省の繰り返しですが貴重にしないと、どんどん年取るばかりでいつしかよぼよぼです、無駄にはしません。

羊蹄

先週はバレイショ奨励品種決定調査現地試験の視察のため全道(毎日300キロの行程)を巡ってきました(右の写真は羊蹄山麓バレイショ畑)。感想は多すぎてここでは書ききれませんが、改めて実感したことは、品種になるまで10年以上、それから普及するまで数年~10年掛かっていますので、私たちの中間育種の結果が世間へ広がるのはだいたい25年後になるということですね。スーパーで試食販売のアルバイトをしていた時は3分ごとに笑顔と達成感が得られましたが、25年間その達成感はお預けかもしれません。もちろん効率が上がるようにDNAマーカーの開発や有用遺伝子の探索も進めていきますが、出来上がったモノを利用する“頂上”にいる側の人と、モノを創造する“土台”にいる側の違いなので理解するしかありません。今回の視察で育種家の皆様だけでなく、普及員、技術員そして生産者の方々、色んな人たちが新しい品種づくりとその普及に力を注いでいることが分かりました。次へ繋がる仕事の責任感を感じます。この先どんな嵐がきても、旱魃がきても、病気がきても、崩れない城の土台作りに励みたいです。

十勝 美深
左はとある芽室町の男爵薯、右はとある美深町の男爵薯
(2015年8月3日 實友)



No sunshine, no rain, but only just cloudy days

開花中

一面ピンクや白のバレイショのお花畑を迎えている7月の十勝です。ですが、かなしい事に今年は雨が極端に少なく、一般の畑でも小ぶりの植物体が目立ちます。毎日九州でも関東でも大雨のニュースが続いていますが、こちらは完全に水不足です。昔からお天道様にお願いするのが日本人ですが、最近の日本列島の気候は人間の都合には合わせてくれないようです。水の国日本であっても、現実的に考えて、潅水設備などの水管理がこれからの農業の課題かもしれませんね。


2ヶ所の圃場を利用した疫病抵抗性選抜区の植物はまだ疫病の襲撃に遭っていませんので、全個体すくすくと育っています(無防除ですのでハムシにはやられています)。元気に育っている植物たちを見ながら、そろそろ疫病に襲われ始め、ぼろぼろになっていくのだと思うと大変複雑な心境になります。が、大事な試験です、強い子だけを残しましょう。

実生個体

Pre-breeding の材料も温室1で順調に育っており、病気もなく今が青々しく一番見栄えがいいときです。(右の写真は温室1の様子です。もうすぐ花が咲きその後、植物は倒れてしまいます。) 温室2では、4週間前にじゃがいもYウイルスの接種をして先日葉っぱを採取しました。さてうまくいったのか、近日中にRNAを抽出してウイルスチェックします。
来週から月末までの間に北海道全域に渡って行われる現地試験周りに初参加します。どんなバレイショと出会えるのか、ワクワクドキドキで全道を見てきます。

キタキツネA fox family near the potato breeding field!!
(2015年7月5日 實友)



The completion of potato planting!!

二輪草

6月1日と2日、帯広では2日続けて最高気温が30度を超え、校内のカラスも暑すぎて口を開けてヨタヨタしていました。4月から見守っていた可愛いカラスのヒナは、なんと、ガックし、普通のカラスになってしまったではありませんか(当たり前なんですけど)。もうどれがヒナか分かりません。泣”

 

(右の写真 大学内で二輪草咲きました)

今期のpre-breedingのほうは、先週の金曜日にすべての実生の移植が完了し、ほっとしているところです。温室1は今年もびっしり中間育種の材料で埋まりました。今年はMother of the cultivated species (栽培種の母)と言われるS. tarijense × Andigenaの集団が入っています。どんな塊茎をつけるのか楽しみです。
田植えが終わったことを神戸大学では「早苗餐(さなぼり)」、鳥取大学では「代満て(しろみて)」といっていました。帯広では作物を植えつけ終わったことを「播きつけた」と言っています。うちでは、「イモ満て?」、「true potato seedling餐 (TPSぼり?)」 なんと言うか検討中です。とにかくイモの神様ありがとう、そして収穫までよろしく。
それともうひとつ、今年から疫病抵抗性素材の選抜を2ヶ所の無防除畑で行うことになりました。一箇所は幕別町の折笠農場、二箇所目は学部2年生の学生実習の畑です。皆様のご協力に大変感謝いたします。シーズンが終わるまで除草作業に精を出します。全滅しないことを祈り、良い選抜ができることを期待しましょう。

十勝幌尻岳の麓でカルビーポテトの育種材料の植え付けに参加
育種畑

(2015年6月3日 實友)



The Spring Passes by Speeding!!

駆け足で過ぎゆく春。草花がこぞって咲き乱れ、鳥たちも繁殖や餌集めに大慌てしているようです。そして虫たちも・・・温室で発生した農薬耐性アブラムシを潰しつづけて三日間、目を閉じるとアブラムシ、ふりかけのゴマも、ごはんのおコゲも、卵焼きの上のコショウも何もかもアブラムシに見える病気にかかっています。しかし今日も明日も戦い続けなければウイルス接種試験ができなくなるばかりか、塊茎の維持にも警告アラームです。
昨シーズンの交配の残りとS. stoloniferumへの交配をしている最中ではありますが、今週から種まきが始まります。明日から種子にジベレリン処理をします。いよいよ今シーズンスタートです!
今年も温室と畑と両方を使ってフル稼働で栽培・評価試験・選抜を行う予定です。いい結果が出るように気合入れてがんばります。
(その前にアブラムシを何とかします!)

写真は今日の構内の様子
ムスカリキャンパス

(2015年5月3日 實友)



Melting and Blooming!!

本年度から頑張って月に1回更新の月報を目安に日々の研究室の様子をこの“PGEL便り”に記載していこうと思います。
雪に閉ざされた長い冬が終わり十勝にもようやく春がやって来ました。
クロッカスや福寿草が一斉に咲きはじめ、キツネもカラスもヒトもイソイソと活発に活動を始めました。 PGELでは今年度に温室に植える材料や実験計画を練っている最中です。第一回目のラボミーティングも開催予定です。
昨シーズン、萌芽の遅れた個体は交配も遅れ、まだ植物体に実がぶら下がっていて、今シーズンの播種に間に合わない様子です。この冬は4ヶ月以上も交配を続けていました?! Andigenaの休眠はバラつきが大きく、交配母本と開花のタイミングを合わせるのは至難の業でありますが、来期はこの経験を忘れず策を考えます。

写真は雪解けとともに飛び起きた校内の福寿草。
福寿草福寿草
それからストロンがお隣に侵入中の研究材料です。隣のポットに押し入ってイモをつけています…。 コンタミ厳禁デス!
Contamination
春になったからといってセカセカするのはうっかりミスの元ですね。十分気をつけて今シーズンに望みます。

(2015年4月5日 實友)