JRA日本中央競馬会特別振興資金助成事業 障がい者乗用馬ならびに在来馬の生産法確立事業

研究計画の概要

達成目標(中間成果指標)

  • 平成31年までに障がい者乗馬を実施している現役乗用雌馬から、年2頭以上の子馬を生産する。

達成目標(最終成果指標)

  • 平成35年までに得られた成果を全国に普及し、乗用馬を含め、馬の人工授精、胚移植による生産体制を強化し、30頭以上の馬を生産する。

期待される成果

必要性の高い馬の生産率を300-500%とすることが可能。
目標生産頭数達成までの期間短縮が可能。
パフォーマンスホース(オリンピック級乗用馬等)への応用。




事業の内容

(1)研究開発事業の実施内容、マイルストーン

組織体制;

 平成29年度4-7月に、外部評価委員を委嘱し(4名)、平成29年度初頭(4-7月)、および平成29年~31年度の年度末(2-3月)に、外部評議委員会を開催する。
 H29年度事業開始とともに、障がい者乗用馬ならびに在来馬の生産法確立に関する事業推進委員会を設置する。

 
馬の購入と運営;

 研究開発用馬として、平成29年度にドナー乗用雌馬3頭(コネマラポニーまたは北海道和種、馬介在活動室活動フィールドにて飼養)およびレシピエント(北海道和種、3頭)を購入する。加えて、平成30年度にレシピエント馬(北海道和種、4頭)を購入し、レシピエント馬を7頭飼養する。これにより、胚の移植時期をドナーの発情周期に一致させることができる可能性が向上する。すべての研究開発事業に使用する馬を健康管理および実験等補助のために、馬取り扱い者を1名雇用する。
 研究開発用馬は衛生的かつ健康に管理する必要がある。そのため、軽種馬飼養標準を参考に、小格馬、在来馬に適した飼糧、とくに乾草を中心とした粗飼料を給与する。2か月毎の削蹄を実施し、状況により装蹄を行う。防疫プログラムに沿ったワクチン接種および駆虫を研究開発に関わる馬に対して実施し、馬の健康手帳を馬介在活動室にて管理する。帯広畜産大学では、馬の防疫管理および動物実験管理施設として認められた馬介在活動フィールドにおいて研究馬等を一括管理しており、学内規則に従って研究開発を実施する。
 飼糧はチモシー乾草を中心とする。飼養管理、検温、健康チェックを毎日実施するとともに、体重測定、健康診断、血液検査(一般性状およびホルモン測定)を毎週実施する。
事業概要の紹介(馬フォーラム2018) 本学は、帯広市連携事業として実施している「障がい者乗馬教室」、「適応指導教室、ふれあい乗馬教室」をそれぞれ14回、6回実施している(平成28年実績)。この活動に、実際の障がい者ご家族の同意を得たうえで、本研究開発事業で利用する研究用雌馬(3頭を予定)を乗用馬として週2-3回利用することにより、研究用馬が現役乗用馬として維持される状況を作成する。なお、帯広市との連携事業は本申請研究開発事業とは別予算で実施される事業である。事務手続き等の円滑な運営のために、事務補助係を1名雇用する。
 29年7月に障がい者乗用馬の生産法確立を目指すサポートメンバーを募集し、研究開発事業の馬管理をサポートするための体制を整える。勤務時間、勤務内容について研究補助等従事確認報告を実施する。上記の運用を3年間継続し、生殖補助技術による小格馬の生産方法への理解を促進させる。

研究開発;

 研究開発を効率的に推進するために、平成29年度に馬の生産、生殖補助医療に精通している国内または国外の学位取得者または獣医学学士取得者を対象に、博士研究員あるいはそれに準ずる研究員を1名募集・雇用し、研究開発に従事する。研究開発担当者を中心に、以下の研究を実施する。
 平成29年度は主として、障がい者乗用雌馬の直腸検査、超音波画像検査による発情周期の検討、人工授精適期の査定、排卵誘発剤の効果検討、人工授精の実施、子宮洗浄による胚回収、レシピエント雌馬の発情周期同期化試験を主な研究開発事業とする。
ブルーライトマスク装着の様子 在来馬は飼養状況によっては繁殖期が6-8月に限定されることもあり、自然な飼養管理では研究の実施期間が限定され、研究開発に支障を来たすことも考えられる。本研究開発を実施するにあたり、これまでサラブレッドを中心に実施されてきた長日処理法(ライトコントロール)や、発情周期制御を目的としたホルモン治療法を検討し、繁殖期(発情周期が回帰する時期)を通常より2か月延長させることを目標数値とする。評価には卵巣から分泌されるホルモン動態をもって判断する。
 平成30年度は、平成29年度に実施した検討項目に加え、排卵後144~192時間に乗用雌馬3頭から胚を回収し、発情周期を同期化されたレシピエントの子宮に移植し、妊娠を確認することを研究の中間成果指標とする。
 平成31年度は、引き続き、平成29年度、30年度に実施した検討項目を実施するとともに、前年度に胚移植により受胎したレシピエント馬の妊娠管理、分娩管理を「JRA育成牧場管理指針―生産編―」(JRA馬事部生産育成対策室、他)および「競走馬ハンドブック」(日本ウマ科学会編)に倣い、同様の手法が利用可能か検討する。
得られた採血は、一般血液性状を測定の後、血清、血漿を分離し、ELISA法により、血中ホルモンの測定を実施するとともに、小格馬、在来馬の交配、妊娠、分娩前後の血中動態を解析することにより、将来的な検査法確立のためのデータを資する。
 副次的な教育効果として、人工授精から胚移植、妊娠維持、分娩管理、新生子管理にわたる一連の馬生産獣医療について、産業動物獣医療学におけるクリニカルローテーションとして教育に利用する。将来的には、共同獣医学課程(各学年40名)を対象とした必須科目として「馬臨床学」の新設を学内関連組織と連携して推進・検討する。

(2)研究開発事業を実施する上での課題と対応

 本研究事業を実施するにあたり、障がい者乗馬に適した品種としてコネマラポニーまたは北海道和種をモデルとして取り入れる予定である。ドナーとなる乗用馬は、本来、10歳を超える円熟味の増した馬が多いものであるが、本研究開発ではより若い雌馬を利用することから着手する必要がある。一方、コネマラポニーについては、障がい者乗馬として優秀であるが、国内の飼養はほとんどなく、輸入の可能性について早急に準備・検討しなければならない。コネマラポニーは、原産国アイルランドでは登録協会が存在し、血統管理がなされており、日本馬事協会と協力して推進する必要がある。かりにコネマラポニーの輸入が極めて困難である場合は、障がい者乗用馬として調教段階にある北海道和種を用い、同種間の胚移植による生産性向上を目指した研究事業とすることで、目的を達成する。
受精卵回収の様子 また、コネマラポニーの冷凍精液を、日本と2国間の衛生協定を締結している国から輸入できるか可能性を模索することが最重要である。牛凍結精液の輸入に関わる業者等と協力して馬凍結精液を輸入することができれば、研究開発が順調に推移し、可能性が一段と向上する。馬の凍結精液の輸入が拡大されれば、自ずと乗用馬生産が盛んとなるものと考えられるが、現状では大きな課題となっている。事業開始当初の時点で凍結精液輸入が難しいと判断された場合は、北海道和種の冷蔵精液作製を並行して実施する。

事業の目標等

(1)研究開発事業が目指す目標および成果

 本研究開発事業が目指す最終的な目標は、胚移植等の生殖補助技術により障がい者乗用馬および在来馬を効率的に生産する方法を確立し、その成果を乗用馬の畜産現場に普及することである。そのため、本研究開発事業では、3年間の事業期間の中で、現役で利活用されている障がい者乗用馬や日本在来馬の雌馬に人工授精を実施し、胚を他の雌馬に移植することによって、1頭の雌馬の子馬を1年間で2頭以上生産することを目標としている。競走馬生産が主要な産業として確立している我が国の産業界において、障がい者乗用馬に傾注した生産効率の向上は、研究開発なくして発展が見込めない分野であると考えられる。本研究開発事業は、競馬先進国としての立場に置かれる我が国において、畜産科学技術を応用した生産物を社会福祉の向上に役立てるものであり、広く社会に貢献する事業になりうるものと考えられる。

(2)成果の畜産現場への普及の展望・波及効果

 本研究開発事業によって、コネマラポニーあるいは北海道和種に代表される小格馬の生産が成功すれば、同様の技術を全国に普及させることにより、木曽馬などのより希少な在来馬の生産に変革をもたらすことが期待される。併せて、北海道和種がレシピエント馬として適していることが証明できれば、全国に8種類存在する在来馬の胚移植について、北海道和種をレシピエント馬として利用することにより、新しい活路が見出され、他の日本在来馬の生産性向上を北海道和種が支えるという新しい構図の創出が期待される。さらに、これまでの馬生産産業にとらわれず、若者が創出する新しい地域産業の拡大と社会福祉や環境保護への貢献が大いに期待される。