研究計画の概要
得られた胚をガラス化凍結技術により半永久的に凍結保存し、必要な時期に融解してレシピエント馬に移植する方法を確立することができれば、必要とされる馬の安定的な提供、希少在来馬の種の保存ひいては生物多様性の確保に繋がり、また乗用馬の生産効率改善方法として画期的な手法確立の礎となり、極めて先導性の高い研究事業となりうる。

2 達成目標
(1)成果目標
障がい者乗馬等、特殊な資質を有する馬を効率的に生産するために、人工授精、胚移植の生殖補助技術を現役乗用雌馬に対して実施し、乗用や観光の用途を継続したまま、当該雌馬から受精卵を回収し、遠隔地への鉄路・空路・道路輸送の後、代理母馬(レシピエント)の子宮に移植し、子馬を生産する。令和8年には、国内の障がい者乗用馬や日本在来馬等30頭に対して、受精卵の遠隔輸送後の移植による生産が可能となるように技術者の養成、受精卵移植の実施、および受精卵の凍結保存法の確立を目指す。北海道和種等あるいはサラブレッド種をレシピエントとして利用した体制を整えることができれば、生殖補助医療による日本在来種や乗用馬の生産法に関するシステマチックな生産体制・馬生産技術が確立され、新たな獣医畜産業の発展ならびに人と馬との関係を重視した社会福祉活動が可能となる。
(2)直接目標
障がい者乗用馬に適した馬の確保が困難であり、加えて日本在来馬の登録頭数が減少する状況を鑑み、ドナー馬および代理母馬(レシピエント)に対する凍結精液を用いた人工授精法、排卵誘発法、胚移植技術等の多角的な繁殖管理法、受精卵回収方法、ならびに受精卵移植方法の一連の知識・技術を国内各地において普及する。また、受精卵の回収後に、同期化された代理母馬が遠隔地に繋養されている状況に対応するため、受精卵の耐久時間確認試験、および全国各地から岩手および帯広への輸送試験を実施し、将来的な産業としてのモデルケースを示す。さらに、適当な代理母馬が準備できない、あるいは発情の同期化が失敗する状況が考えられることから、受精卵を凍結保存し、融解後に移植することにより子馬の生産を目指す。併せて、ホームページによる事業紹介、年1回以上の座学講習会開催(東京、帯広)、技術講習会(岩手、長野、十勝)、成果の学会・論文発表(令和3年度以降)、馬の生殖補助医療の手引き(仮)の執筆・配布(最終年度)を目標とする。
3 達成指標
(1)成果指標
項 目 | 単位 | 現状(基準)値 (令和元年度) |
目標値 (令和8年度) |
---|---|---|---|
受精卵の遠隔輸送による馬生産 | 頭 | 過去5年間の生産頭数 0頭 | 過去5年間の生産頭数 10頭以上 |
受精卵の凍結保存による障がい者乗用馬・在来馬等の生産 | 頭 | 過去5年間の生産頭数 0頭 | 過去5年間の生産頭数 5頭以上 |
目標設定根拠
ア)受精卵の遠隔輸送による生産
本研究開発事業が終了し、その後本技術を応用して、全国の獣医診療施設および馬飼養施設おいて、競走馬個人生産牧場等がサラブレッド代理母馬(レシピエント)の委託管理業務を実施することにより、持続可能な受精卵移植による生産が実施されることで可能となる。そのためのモデルとして、遠野馬の里など、その適切な飼養施設において、サラブレッドを飼養管理し、受精卵を遠隔輸送し移植することが有用である。馬の受精卵移植において、受精卵を輸送して移植した例は、日本の現状において皆無であり、実施されていない。本事業において、現状値の0に対して令和8年度までに10頭以上の受精卵の遠隔輸送による馬生産となることを最終成果指標とした。その根拠として、受精卵移植による生産馬は令和2年度までに帯広畜産大学で合計7頭が生産される予定であり、本技術を他場により技術移管することができれば、平均4頭/年のペースで無理なく受精卵移植による生産が可能であると想定でき、令和8年度には累計31頭の生産が可能であると見積もることができる。本研究事業を実施するに至った背景として、ドナーが本州にある乗馬施設に繋養され、レシピエントが岩手や北海道などの生産地に飼養されるケースが多い我が国独特の生産事情を鑑みるに、受精卵の遠隔輸送による移植の需要は高く、産業が成熟するについて、効率的な多数の受精卵の輸送が想定される。全体の約30%以上が、空路や陸路により受精卵を遠隔輸送し移植されることが、我が国における安定的な乗馬生産に寄与するという算出根拠の下、受精卵の輸送を伴う移植により生産される頭数を31頭×30%≒10頭を下限とし、それ以上の生産を目指すものである。発情周期をコントロールされたレシピエント馬を豊富に飼養する環境が整えば、受精卵移植の技術普及によりさらなる障がい者乗用馬、セラピーホース、スポーツホースの生産増数が期待される。
イ)受精卵の凍結保存による障がい者乗用馬・在来馬の生産
「受精卵の凍結保存による障がい者乗用馬・在来馬の生産」については本研究開発事業において複数頭の凍結受精卵が作成され、また本凍結技術が応用されるように帯広畜産大学が全国の獣医系大学および馬生産者団体と協力して凍結保存の委託を受けることにより、継続的に実施することで可能となる。凍結受精卵は必要に応じて、代理母馬(レシピエント)に移植され、生産される。令和4年度の完了年度、および令和5-8年まで、障がい者乗用馬に適した馬、または純血の北海道和種などに対する凍結受精卵を毎年1頭ずつ移植によって生産すると仮定すると、5頭の生産が成果として現れるものと算出される。
項 目 | 単位 | 現状(基準)値 (令和元年度) |
目標値 (令和4年度) |
---|---|---|---|
受精卵の遠隔輸送による移植・生産 | 頭/年 | 0頭 | 3頭以上 |
障がい者乗用馬・在来馬の凍結保存受精卵作出 | 個/積算年 | 0個 | 凍結受精卵として18個 |
障がい者乗用馬・在来馬の凍結受精卵による生産 | 頭/年 | 0頭 | 凍結受精卵による生産頭数として1頭以上 |
目標設定根拠
ア)受精卵の遠隔輸送による移植・生産
馬の受精卵移植において、受精卵を輸送して移植した例は、現状において皆無であり、実施されていない。本申請研究では、日本在来馬である木曽馬由来受精卵の長野から帯広への輸送、十勝あるいは全国各地から遠野馬の里への輸送、その他適切な受精卵回収と移植が可能な機関において実施する予定である。遠野馬の里での代理母馬は、競走引退または軽種馬生産を引退したサラブレッド種を用い、スポーツホースの生産をモデルとする。令和4年度において、帯広畜産大学にて木曽馬1頭以上、遠野馬の里にてスポーツホース2頭以上の妊娠確認・生産を目途に、3頭以上の受精卵遠隔輸送による生産を目標設定根拠としている。
イ)障がい者乗用馬・在来馬の凍結保存受精卵作出
障がい者乗用馬・在来馬の受精卵移植研究を実施する中で、牛と同じように凍結受精卵としての輸送が可能となれば、産業の発展上、極めて有効である。受精卵の回収技術はすでに申請者の研究グループにより手法が確認されている。本研究開発事業では、6頭の北海道和種に対して年間平均5回人工授精を実施し、合計30回の受精卵回収を試み、その受精卵回収率を40%とすると、12個の受精卵回収が可能となる。その中で、受精卵グレードが「最良」および「良」と判定される割合が66%(約3分の2)であるとすると、年間8個の凍結受精卵を作出するチャンスに遭遇する。技術担当者の不在や凍結処置過程における不具合を考慮すると、年間6個の凍結受精卵を作出が可能と算出され、3年間で18個の凍結受精卵作出を最低限の目標とする。
ウ)障がい者乗用馬・在来馬の凍結受精卵による生産
イ)によって作出された凍結受精卵は、障がい者乗用馬に適した馬、または純血の北海道和種の凍結受精卵として、繁殖シーズンの後半となる8月に移植試験を行うことにより、凍結受精卵による妊娠の成立を確認する。凍結受精卵の融解後の妊娠率の改善については、世界中の研究において苦慮しており、本研究ではとくに胚盤胞まで発育した、直径300μm以上の受精卵を主な対象としているため、本研究開発期間中に1例以上の生産を達成目標とする。
(2)直接指標
項 目 | 単位 | 現状(基準)値 (令和元年度) |
目標値 (令和4年度) |
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ホームページによる研究事業紹介 | 回 | なし | 4-6回/年の更新 |
馬受精卵移植・凍結・生産に関する研究の発展 | 編・回 | 過去5年間の投稿論文2編・学会発表3回 | 過去5年間の投稿論文4編・学会発表6回 |
馬受精卵移植技術講習会の開催 | 回 | 過去3年間の実施回数0回 | 過去3年間の実施回数4回以上 |
馬受精卵遠隔輸送・受精卵凍結保存の手引きの執筆・配布 | 部 | 0部 | 1000部またはHP閲覧整備 |
最終成果報告書作成 | 件 | - | 1 |