本セルユニットでは、先進国の高泌乳牛が抱える深刻な健康と繁殖の問題に、ゲノム遺伝学と栄養・生殖生理学を基盤として切り込み、50年後の健常で長命、繁殖性に優れた高泌乳牛を担保するための新しい育種戦略を明示する事を目指します。現代の高泌乳牛では、過去30年間における乳生産能力に重点化した育種改良の大成功によって、摂取したエネルギーを大量の乳生産に優先して回す生理機構になっており、分娩後の母体回復が従来に比べて大きく遅れる状況にあります。その結果、周産期の疾病発生や繁殖機能障害が多発し、2.5産程度で淘汰されており、その潜在的能力の半分に満たないような超短命な飼養管理が主流です。そのため、疾病・障害牛の治療代や乳生産のための成牛作成コストから酪農家の大きな経済損失を招いています。本セルユニットでは、1)乳生産、繁殖性、耐病性、代謝性の各機能発現の要因を遺伝学と生理学的な解析から明らかにし、2)これらの機能発現を制御する気候、飼養管理(人為的要因)等の環境要因を整理します。これらのゲノムと生理的指標を取り込んだデータベースから、生産性と健康性(長命連産性、頑健性、繁殖性)を保証する応用性に富んだ高泌乳牛の新しい育種改良モデルを提案したいと思います。 これらの目的のために、1)乳生産と健康性の中心的役割を担う肝機能、繁殖性の中核である卵巣・子宮機能に関わる生理的指標を、これまで自ら集積してきた結果を中心にデータベースを構築します。2)生理的指標のデータベースの遺伝的分析を進め、遺伝的寄与が高い要因を抽出します。3)これをモデルとして、国際連携クラスター(欧州:ドイツ、スイス; アジア:タイ、ベトナム、スリランカ)で、抽出した要因群について高泌乳牛と低泌乳牛のデータベース構築を共同で進め、遺伝的解析をおこないます。4)データベースは関わる国際連携クラスターで共有し、1年に1回のペースで「国際ジョイントワークショップ:Animal Health and Reproduction」を持ち回りで開催し、先進国、途上国の実情に合った育種モデルを共同で構築していきます。5)以上の情報は、リアルタイムで各国の大学院教育に活用します。
We aim to find out a new strategy to overcome the current serious problem of high-producing dairy cattle in which the occurrence of production diseases and the drop in reproductive function have become evident, that gives a strong negative economical impact on dairy farmers in advanced countries. To develop a new breeding model to ensure “the health, milk production and reproduction” in the next 50 years, we try to establish a complex analysis model using physiological phenotypes including milk production, reproduction and health, based on the own database obtained from dairy cattle in Hokkaido as well as Europe and Asia.