研究業績

トキソプラズマ原虫感染症に関する研究

 トキソプラズマ原虫 (Toxoplasma gondii) は、猫科動物を終宿主とし、人および殆どの動物を中間宿主とする細胞内寄生性原虫である。感染猫などの糞便とともに排泄されるオーシスト(虫卵)は通常の消毒薬に抵抗性が強く、食物や砂場など環境を汚染し、経口で人や他の動物に伝播していく。人では特に妊婦が感染した場合、流・死産、水頭症や脈絡網膜炎などの先天性トキソプラズマ原虫感染症を引き起こす。また、トキソプラズマ性脳炎はエイズ患者や免疫抑制剤の投与を受けている患者の主要な死因の一つでもある。豚、羊、牛などへの感染は、直接的損耗から経済的損害になるだけでなく、シストを含む食肉が人への感染源になるために、公衆衛生、家畜衛生上の大きな問題になっている。しかしながら、いまだにトキソプラズマ原虫感染症に対する有効なワクチン或いは治療薬は開発されていないのが現状である。その主な理由として、本原虫の感染機構がまだ解明されていなく、そのワクチン或いは薬剤標的分子が同定されていないことを挙げられる。そこで、我々はトキソプラズマ原虫の細胞侵入機構の解明、ワクチン・薬剤標的分子の探索、および組換えワクチン・治療薬の開発を目指し、以下のような研究を進めている。

1)ゲノム・プロテオーム解析による新規ワクチン・薬剤 標的候補分子の探索

2)原虫の宿主細胞侵入機構の解明

3)宿主の感染防御機構の解明

4)原虫特有の代謝機構の解明

5)ネコヘルペスウイルスをベクターとする猫用組換えワクチンの開発

6)トランスジェニック魚を用いた経口ワクチンの開発

7)異種抗原発現用トキソプラズマ原虫ベクターの開発

 

ネオスポラ原虫感染症に関する研究

 ネオスポラ原虫(Neospora caninum)は、犬科動物を終宿主とし、牛、羊、山羊などを中間宿主とする細胞内寄生性原虫である。終宿主の糞便中に排出されるオーシストによる水平感染や中間宿主における垂直感染により伝搬される。特に牛には流産、死産或いは子牛の神経症状を主徴とする異常産を高率に引き起こす。我々は犬および牛のネオスポラ感染症の制圧を目指し、以下のような研究を進めている。

1)ゲノム・プロテオーム解析による新規ワクチン・薬剤 標的候補分子の探索

2)原虫の宿主細胞侵入機構の解明

3)宿主の感染防御機構の解明

4)原虫垂直感染機構の解明

5)イヌヘルペスウイルスベクターを用いた犬用組換えワクチンの開発

6)ウシヘルペスウイルスベクターを用いた牛用組換えワクチンの開発

7)異種抗原発現用ネオスポラ原虫ベクターの開発

 

犬バベシア原虫感染症に関する研究

 犬バベシア原虫(Babesia gibsoni)はマダニによって媒介される赤血球内寄生性原虫である。アジア地域 を中心に世界中に広く流行している。日本では、沖縄から北海道に至るまで全国各地で発生例が報告されているが、特に関西以西地域での流行が深刻である。臨床の現場からは有効な診断・予防法の開発が強く求められている。そこで、我々は以下のような研究に取り組んでいる。

1)ゲノムワイドの新規診断・ワクチン候補遺伝子の探索

2)組換え抗原を用いた迅速診断法の開発

3)ウイルスベクター用いた組換えワクチンの開発

4)原虫ベクターを用いた組換えワクチンの開発

5)バベシア原虫垂直感染機構の解明

 

クリプトスポリジウム原虫感染症に関する研究

 クリプトスポリジウム原虫(Cryptosporidium parvum)は人や牛など数多くの動物の消化管に寄生する人獣共通感染症の病原性原虫である。感染した人や動物の糞便中には、ピーク時には一日約億単位のオーシストが排泄される。このオーシストは塩素など通常の消毒では死滅 しないため、一旦水源を汚染すると人の集団感染を引き起こす恐れがある。本原虫による水源の汚染源の一つとして感染牛の排泄物が注目されている。近年日本各地で牛クリプトスポリジウム感染症の散発的発生例が報告されており、河川への汚染が非常に危惧されている。したがって、牛クリプトスポリジウム感染症を制圧することは公衆衛生上の重大な課題となっている。そこで、以下のような研究を行っている。

1)ゲノムワイドの新規ワクチン候補遺伝子の探索

2)ウシヘルペスウイルスベクター用いた組換えワクチンの開発

3)原虫ベクターを用いた組換えワクチンの開発

4)卵黄抗体を用いた受動免疫療法の開発