生体機能科学
2002年前期(4月より8月まで)担当者 小嶋道之(食糧生産科学講座)
<授業内容>1.概要 2.生物の制御機構:酵素活性の調節、遺伝子の調節、ホルモンによる調節など 3.糖質代謝制御 4.アミノ酸代謝制御 5.核酸代謝制御 6.脂肪酸代謝制御 7.膜脂質代謝制御 8.膜輸送と膜のシグナル伝達 9.細胞周期 10.細胞融合 11.生体の防御システム など
<評価方法>課題レポート(毎回1〜2課題を提出する)1回目締め切り5月30日(14課題以上提出)2回目締め切り6月27日(残り9課題の提出)、試験(7月18日、課題レポートを提出していない学生は受けられません)、出席(提出物の時にチェックする)
<教科書・参考図書>図説生化学(第3版)丸善、演習で学ぶ生化学 三共出版、生化学の理論 三共出版
過去問
試験 2001年7月5日
1.生体機能を調節する機構について3つの観点を示し、それぞれの例をあげて説明せよ。(50点)
2.生体膜の機能を大きく3つに区別してそれぞれの例をあげて説明せよ。(50点)
追試 2001年7月12日
1.生体機能の制御機構について説明せよ。
2.カルシウムイオンによる生体機能について例をあげて説明せよ。
3.生体内の代謝機構について説明せよ。
4.タンパク質消化による生体内酵素の活性化機構について例をあげて説明せよ。
5.膜の機能を説明せよ。
6.HAT培地を用いたハイブリドーマ細胞の選別機構について説明せよ。
追試 2002年7月12日
1.生体機能を調節する機構について3つの観点を示し、それぞれの例をあげて説明せよ。(10点)
2.ぺントースリン酸経路を説明し、生理的役割を述べよ。(20点)
3.アミノ酸合成の中心的役割をするアミノトランスフェラーゼについて説明せよ。(20点)
4.カルバモイルリン酸合成反応の代謝的意義について説明せよ。(20点)
5.膜脂質の性質を決める因子は脂肪酸の長さと不飽和度である。アラキドン酸を例としてn-6系列の脂肪酸合成経路を説明せよ。(20点)
6.膜脂質の機能を大きく3つに区別して、それぞれ例をあげて説明せよ。(10点)
生体機能化学
1. 糖質代謝(解糖、TCAサイクル,電子伝達系)の概略を記し、その生化学的意義について 説明せよ。
2.脂肪酸代謝(β酸化、生合成)について説明せよ。
3.タンパク質代謝(生合成)について説明せよ。
4.語句の名称と機能について説明せよ。ATP、NAD、FAD、CoA、ACP
生体機能化学テスト1 (6/4)
1.光合成の明反応、暗反応を説明せよ。また、光リン酸化について説明せよ。
2.解糖系と基質レベルのリン酸化を説明せよ。
3.TCAサイクルについて説明せよ。
4.酸化的リン酸化について説明せよ。
5.脂肪酸のβ酸化を説明せよ。
生体機能化学 試験3 (平成11年9月10日)
以下からよく理解している4問を選び、化学構造および図を用いて説明せよ。
1. 主要な細胞内オルガネラの各機能についての概要を説明せよ。
2.生体での情報伝達機構について説明せよ。特に、ホルモン作用、神経伝達機構、オー タコイドにおいて生化学的な共通点を中心に述べよ。
3. 生体膜の構造と機能について説明せよ。また、膜輸送の概要とNa+,Ka+-ATPaseによる 能動輸送での生体機能について説明せよ。
4.タンパク質消化による生体内酵素活性化機構について例をあげ説明せよ。
5. 脱アミノ反応、アミノ基転移反応について説明せよ。
6.HAT培地を用いたハイブリドーマ細胞の選別機構について説明せよ。
7.脂質代謝に関する肝臓の機能を上げよ。また、肝臓の脂肪量を左右する因子を上げ説 明せよ。
8.デンプンおよびグリコーゲンの代謝(分解系および合成系)に関与する酵素の主な調 節機構について説明せよ。
生体機能化学試験U(1999年7月16日)
以下の中から、得意な部分で5問解答しなさい。
1.タンパク質の溶解性および結晶性、荷電および電気泳動について述べよ。
2.タンパク質の分類を示せ。
3.タンパク質のアミノ酸組成の意義とその分析法について述べよ。
4.タンパク質の構造とそれを保持している機構について記せ。
5.活性化エネルギー、自由エネルギー、高エネルギー結合とは何か。
6.補酵素の例を上げて説明せよ。助酵素とは何か。酸化還元助酵素、フラビン助酵素、 助酵素Aについて述べよ。
7.ピリドキサールリン酸およびチアミンピロリン酸について述べよ。
8.酵素の分類を挙げて簡単に説明せよ。
9.核酸のプリン塩基とピリミジン塩基、ヌクレオシドとヌクレオチドの構造と種類を説 明せよ。
10.タンパク質合成の開始、延長、終止機構について説明せよ。
課題レポート
<糖質と脂質の化学>
3.光合成の明反応、暗反応を説明せよ。また、光リン酸化について説明せよ。
光合成は大きく4つの反応系に分けることができる。
@ 光の吸収:チラコイド膜の膜タンパク質に結合した光の吸収である。クロロフィルはヘムに似た環状化合物であるが、中心にはMg2+があり、中央部の5員環以外にもう1つ5員環がある。吸収された光エネルギーによって、まず電子供与体(緑色植物の場合は水)から無理やり電子を奪い、酸素を発生させる。
2H2O→O2+4H++4e−
そして電子は一次受容体にわたされる。この反応は全てチラコイド膜にある光化学系(photo system)と呼ばれるタンパク質複合体で行われる。
A 電子伝達:電子はチラコイド膜にある様々な電子伝達物質を経て最終的な電子受容体通常はNADP+に渡されて、これを還元してNADPHとする。電子の移動と共役して水素イオンがストロマからチラコイド内腔へ輸送される。その結果チラコイド膜を挟んで水素イオン濃度勾配が形成される。
第1・2段階の化学反応をまとめると
2H2O+2NADP+→2H++2NADPH+O2 となる。
クロロフィルの分子構造
B ATPの生成:水素イオン濃度勾配に従って水素イオンはチラコイド内腔からストロマへ輸送タンパク質の複合体中を移動する。CF0CF1複合体は水素イオンの移動と共役してADPとPiからATPを生成する。(Piは無機リン酸HPO42− )
H++ADP3=+Pi2-→ATP4−+H2?O
C二酸化炭素の固定:光合成の第2段階と第3段階で生成されたNADPHとATP4−のエネルギーを利用してCO2とH2Oから6単糖合成される。
6CO2+18ATP4−+12NADPH+12H2O→C6H12O6+18ADP3−+18Pi2− +12NADP++6H+
@〜Bまでの反応は全てチラコイド膜のタンパク質によって進められ、直接光エネルギーに依存しているため明反応と呼ばれる。
Cの反応は葉緑体のストロマ可溶性画分に存在する酵素によって行われ、直接には光のエネルギーに依存していないため、暗反応と呼ばれる。
解糖系(glycolytic pathway)と基質レベルのリン酸化
グルコース代謝の最初の段階である解糖でグルコース1分子は3炭素化合物のピルビン酸C3H3O3―2分子に変えられる。これらの反応を解糖系と呼び、この化学反応は細胞質ゾル中で起こり、分子上酸素とは関与しない。解糖の作用は高度に調節されていて、細胞が必要とするATPにちょうど見合うグルコースが細胞内に輸送される。もとの炭水化物と最終産物のピルビン酸の間の代謝中間体の全ては、リン酸化合物である。
グルコース代謝の初期反応の全体の式は
C6H12O6+2NAD++2ADP3−+2Pi2−→2C3H4O3+2NADH+2ATP4− となる。
NAD+・NADP+
基質段階でのリン酸化(substrate-level phosphorylation )
細胞質ゾル中で可溶性酵素によって代謝物質が構造変化を受ける。このリン酸化には2つある。その第1はグリセルアルデヒド‐3‐リン酸デヒドロゲナーゼとホスホグリセリン酸キナーゼによって、触媒される一対の反応によって生じる。第2の反応は発エルゴン反応(exergonic reaction)で、ホスホグリセリン酸キナーゼによってADPに転移され、ATPは生成される。解糖前段階反応でフルクトース1,6‐ビスリン酸1分子は2分子グリセルアルデヒド‐3‐リン酸を生成した。そこでグルコース1分子の分解は2分子のATPを生成したことになる。
5.TCAサイクルと酸化的リン酸化
TCAサイクル(tricarboxylic acid cycle)
この反応系は9つの反応からなる。まずアセチルCoAの炭素2個のアセチル基が4炭素化合物のオキサロ酢酸と結合することから始まる。反応1の産物は炭素原子6個のくえんさんである。反応2と3では単一の酵素アコニターゼによってクエン酸は炭素原子6個のイソクエン酸に異性化される。反応4ではイソクエン酸は炭素原子5個の2‐オキソグルタル酸に酸化される。このとき1分子のCO2が生成され、1分子のNAD+がNADHに還元される。反応5では2‐オキソグルタル酸は炭素原子4個のスクニシルCoAに酸化され、第2のCO2を生じ、またNAD+をNADHに還元する。6〜9までの反応で、スクニシルCoAはオキサロ酢酸に酸化され、最初のアセチルCoAと縮合するのに用いられたのと同じ分子が再生されることになる。同時にFADとNAD+の還元が起こる。スクニシルCoAがコハク酸になるとき(反応6)でGTPの合成が共役する。
O
CH3‐C‐SCoA+3NAD++FAD+GDP3−+Pi2−+2H2O
↓
2CO2+3NADH+FADH2+GTP4−+2H++HSCoA
酸化的リン酸化(oxidative phosphorylation)
電子伝達系の酸化還元反応によって遊離されるエネルギーを用いてADPと無機リン酸からATPを合成する反応。真核細胞内のミトコンドリア内膜あるいは原核細胞の形質膜において見られる。この反応機構は化学浸透圧説で仮定されたように、電子伝達系によって膜の内外にプロトンの電気化学ポテンシャル差が形成され、これを利用してATP合成酵素がATPを合成する。栄養素の大部分は最終的にはTCAサイクルでその水素部分を主としてNADH2の形で電子伝達形に伝えられて酵素で酸化される。
H2O←電子伝達系(シトクロムなど)←O2
↓
電気化学ポテンシャル差(H+濃度勾配+膜電位)
?
ADP+Pi――――――――――――→ATP
↑ ATP合成酵素 ?
生体の活動(筋運動・合成など)
6.脂肪酸のβ酸化(β oxidation)
脂肪酸のβ位が酸化され、炭素数2の単位で脂肪酸の炭素鎖が切断される反応。
ミトコンドリアではまずアシルCoAがアシルCoAデヒドロゲナーゼによる脱水素反応が起き、続いてエノイルCoAデヒドロゲナーゼによる脱水素反応が、そしてエノイルCoAヒドラターゼによる水付加反応、3−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼによる脱水素反応、3−ケトルアシルCoAチオラーゼによるチオール開裂反応によってアセチルCoAと炭素数が2つ少ないアシルCoAとなる反応。
7.ケトン体生成についての代謝と意義
脂肪酸やピルビン酸の酸化に由来するアセチルCoAの一部を遊離のアセト酢酸やD-β-ヒドロキシ酪酸に転化する酵素系を持っている。遊離のアセト酢酸はアセトアセチルCoAから生じ、他のケトン体もアセト酢酸を前駆体する。
アセトアセチルCoAの一部はミトコンドリアのマトリクスで長鎖脂肪酸からアセチルCoA単位が順次酸化的に除去されたあとの4つの炭素原子から生じる。しかしアセトアセチルCoAの大部分は、脂肪酸化で生じたアセチルCoA2分子がアセチルCoAアセチルトランスファーゼにより縮合して生じる。
アセチルCoA+アセチルCoA⇔アセトアセチルCoA+CoA
この反応で生じたアセチルCoAは次いで脱アシル化されてCoAを失い、遊離のアセト酢酸を生じる。この過程はミトコンドリアのマトリクスにある特別な経路で起こる。この反応は結局、 アセチルCoA+H2O⇔アセト酢酸+CoA となる。
このようにして生じた遊離アセト酢酸はミトコンドリア内膜のNAD系D-β-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼにより、酵素的に還元されD-β-ヒドロキシ酪酸になる。
アセト酢酸+NADH+H+⇔D-β-ヒドロキシ酪酸+NAD+
この酵素は遊離のD立体異性体に特異的である。この酵素はD-β-ヒドロキシ酪酸CoAを還元しない。これらの反応で生じた遊離のアセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸の混合物は肝細胞から拡散して血液に入り、末梢組織に運ばれる。
末梢組織でD-β-ヒドロキシ酪酸は酸化されてアセト酢酸を生じ、次いでサクシニルCoA(コハク酸CoA)からCoAをもらって、アセトアセチルCoAに活性化される。このサクシニルCoAはα-ケトグルタル酸の酸化(トリカルボン酸サイクル)に生じる。これらの反応で末梢組織内に生じたアセトアセチルCoAは次いでオリシス開裂してアセチルCoA2分子を生じ、トリカルボン酸サイクルに入る。
サクシニルCoA+Pi++GDP⇔コハク酸+GTP+CoA-SH
ケトン体生成の意義
β‐ヒドロキシ酪酸はこのようにして全ての組織のトリカルボン酸サイクルで消費されるが、ある条件下での脳での消費はことに著しい。正常化では脳はグルコースのみを消費するが、長時間の絶食時にはグルコースの供給が限られるので、脳は肝臓で生じたβ-ヒドロキシ酪酸を主な燃料源として利用する。これはアセチルCoAに転化し、次いでトリカルボン酸サイクルに入る。
〈タンパク質と酵素の化学〉
1.アミノ酸の一般にもっている化学的性質と化学構造。また一般的な分類。
同一分子内にカルボキシル基とアミノ基を共有する化合物。カルボキシル基が結合している炭素を基準にしてアミノ基が結合している炭素原子の位置により、α、β、γ…アミノ酸と区別する。αアミノ酸はタンパク質を構成する最も重要なアミノ酸で、
「R−CH(NH2)COOH」 の構造式で表される。構造の最も簡単なRがHであるグリシン以外の各アミノ酸は、少なくとも1つの不斉炭素原子をもち、光学的に活性である。グリセルアルデヒドのD,L型構造に準じて、D,L-アミノ酸を区別する。生体内のアミノ酸はほとんどがL型である。アミノ酸は少なくとも2種のイオン化可能な解離基をもつ両性電解質である。通常生理的pHの範囲ではカルボキシル基はプロトンを放出した形で存在し、アミノ基はプロトンを受容した形で存在する。
分類 |
アミノ酸 |
3文字記号 |
1文字記号 |
脂肪族 アミノ酸 |
グリシン |
Gly |
G |
アラニン |
Ala |
A |
|
分枝 アミノ酸 |
バリン |
Val |
V |
ロイシン |
Leu |
L |
|
イソロイシン |
Ile |
I |
|
ヒドロキシ アミノ酸 |
セリン |
Ser |
S |
トレオニン |
Thr |
T |
|
酸性 アミノ酸 |
アスパラギン酸 |
Asp |
D |
グルタミン酸 |
Glu |
E |
|
塩基性 アミノ酸 |
リシン |
Lys |
K |
アルギニン |
Arg |
R |
|
アミド型 アミノ酸 |
アスパラギン |
Asn |
N |
グルタミン |
Gln |
Q |
|
含硫 アミノ酸 |
システイン |
Cys |
C |
メチオニン |
Met |
M |
|
芳香族 アミノ酸 |
フェニルアラニン |
Phe |
F |
チロシン |
Tyr |
Y |
|
複素環式 アミノ酸 |
トリプトファン |
Trp |
W |
ヒスチジン |
His |
H |
|
イミノ酸 |
プロリン |
Pro |
P |
2.アミノ酸・タンパク質の荷電および電気泳動
アミノ酸やタンパク質など様々な粒子は水中にあっては、等電点と言われる特定のpH以外では、プラスあるいはマイナスの状態になっている。このことを荷電と言う。このようなプラスあるいはマイナスに荷電しているアミノ酸やタンパク質に電場をかけると荷電と反対符号の電極に向かって移動する。この現象を電気泳動と言う。問題の電荷は粒子と行動をともにする領域内でのイオンの分布に依存するので、電気泳動する速さは触媒の塩濃度・イオン組成によって大きく左右される。
3.タンパク質のアミノ組成の意義とその分析法
アミノ酸組成の分析法
アミノ酸組成を決めるにはまずタンパク質をアミノ酸まで完全に分解する。これには強酸で全てのペプチド結合を加水分解する。そしてシリカビーズのカラムにこの遊離アミノ酸の混合物を通す。これは液体クロマトグラフィーとして知られている方法である。それぞれのアミノ酸は特定の速さでカラムから流れ出る。カラムからの溶出物を調べればもとのタンパク質に含まれるアミノ酸の種類とその含量を計算することができる。
アミノ酸組成の意義
分子の元素分析と同じようにタンパク質のアミノ酸組成からおのおののアミノ酸がどれくらい含まれているかという情報は得られるが、どんな順序でアミノ酸が並んでいるかは分からない。これに対してタンパク質のアミノ酸配列は指紋のようなもので、タンパク質の個性つまりアミノ酸の並び方がはっきりする。アミノ酸の並び方が分かれば、人工的にタンパク質を生成できることになる。アミノ酸組成は、アミノ酸配列から簡単に計算できる。
4.タンパク質の構造とそれを保持している機構
4つの階層構造がタンパク質の形を決めている。
タンパク質の一次構造(primary structure)とは、ポリペプチドを構成するアミノ酸残基の直線状の並び方。つまり配列(sequence)をいう。タンパク質のアミノ酸配列決定では、タンパク質を構成しているアミノ酸残基の数や並び方、つまり一次構造を決める。
二次構造(secondary structure)はポリペプチド鎖の一部分の局所的な組織化のことを言う。1本のポリペプチド鎖は全てのタイプの二次構造を含みうる。安定化に寄与する相互作用が何もないと、ポリペプチドはランダムコイル(random coil)構造をとる。しかし安定化に寄与する水素結合が残基間にできると、ポリペプチドの骨格構造は、αヘリックス(α helix, らせん状ポリペプチド)かβ鎖(β stand, 引き伸ばされたポリペプチド)という。二つの幾何学的配置のどちらか一方の形に折りたたまれる。 β鎖は横に会合してβシート(β sheet)を形成する。最後にターン(turn)は4残基でできたU字型のこうぞうで、Uの腕の構造で、Uの腕の間の水素結合で安定化されている。ターンはタンパク質の表面にあって、ポリペプチド鎖の向きを転換させる。
次の階層は三次構造 (tertiary structure) で、アミノ酸残基の三次元的な配置をいう。水素結合で安定化されている二次構造に対して、三次構造は非極性側鎖の疎水相互作用で形成される。αへリックスやβ鎖、あるいはランダムコイルは疎水相互作用で集合して、堅く詰まったタンパク質内部を構成する。タンパク質の大きさや形は、アミノ酸配列だけでなく二次構造の数、大きさ、配置にもよる。1本のペプチド鎖からできているタンパク質、つまり単量体タンパク質 (monomeric protein) では三次構造が最も高次の階層構造である。
多量体タンパク質 (multimeric protein) は、非共有結合で会合した幾つかのサブユニットをもつ。四次構造 (quaternary structure) は、多量体タンパク質中でのサブユニットの数(量比)やその相対位置を表す。赤血球凝集素は同一のサブユニット三つからなる三量体であるが、他の多量体タンパク質では、同一あるいは違ったサブユニットのいろいろな組み合わせが可能である。しばしば、サブユニットの配置は規則的、対称的である。例えば赤血球凝集素三量体は三回回転対称軸を持っている。
また保持する機構に、立体配置(コンフィギレーション)と立体配座とがある。立体配置とは、立体異性体の置換基の空間配置を指す。そのような構造体の相互転化には必ず1本以上の共有結合を切らなければならない。立体配座とは、分子内の単結合のまわりの回転のために、結合を切らずに自由にいくつもの異なった位置をとりうる置換基の空間は位置を指す。
5.酵素の本体は何か。また酵素の特異性、阻害剤、と阻害機構、酵素反応に及ぼす温度、pHの影響。
酵素とは、生物反応を触媒するために特殊化したタンパク質である。酵素は人工的な触媒剤よりもはるかに高い驚くべき特異性と触媒能を持つ。
酵素の特異性
酵素は基質を選り好みする。この性質を基質特異性という。この性質には程度の差があり、特異性が厳密な酵素はただ1つの物質しか基質にしない。グルコースオキシダ−ゼはグルコースにか作用しないが、へキソキナーゼはそれほど厳格ではなく、グルコース、マンノースなどの幾つかの単糖に作用する。へキソスオキシダ−ゼはさらに特異性がゆるく、単糖ばかりかマルトースなどの二糖にも作用する。また酵素は光学異性体をも識別することができる。このように酵素が光学異性体を識別できる理由は、酵素が基質分子上の少なくとも3個所と相互作用できるような構造を持っているためである。もしも2個所としか相互作用できなかったら、光学異性体を区別することはできない。
阻害剤と阻害機構
酵素に結合して、酵素の働きを抑える物質があり、阻害剤(inhibitor)とよび、結合したら離れない不可逆阻害剤と結合し離れたりする可逆阻害剤がある。可逆阻害剤にはさらに競合阻害剤と非競合阻害剤とがある。競合阻害剤は基質結合部位に結合して基質が酵素に結合するのを邪魔するのでMichaelis定数(Km)が大きくなる。基質が過剰にあると相対的に影響が小さくなるので、最大速度は変わらない。非競合阻害剤は基質結合部位に結合して酵素の効率を低下させるので、最大速度が低下してしまう。
酵素にもたらす温度・pHの影響
化学反応は温度が高くなればなるほど速く進む。しかし酵素で触媒される反応の場合は温度が上がりすぎるとかえって反応速度が低下するので、最大活性を示す温度があり、最適温度という。これを越えると酵素活性は急激に低下して、やがて全く活性が無くなる。これは酵素がタンパク質であるために、高温では立体構造が壊れて変性し、触媒作用が無くなってしまうからである。大半の酵素の最適温度は50℃付近である。また温度同様pHでも酵素の働きは大きく影響を受け、酵素の活性が最も高いpHを最適pHという。多くの酵素の最適pHは体内環境に適合した7付近で、10以上や4以下では活性が非常に低くなる。しかし例外もあり、胃で働くプロテアーゼであるペプシンは、塩酸を含んで酸性になった胃液の中で働くことができるように、最適pHが2付近である。
6.ミカエリス(Michaelis)定数の理論と測定法
ミカエリス定数(Km)とは反応速度vが最大速度Vの1/2になるような基質濃度(〔S〕)である。つまり基質がこれだけあるというときに、酵素は自己の能力の半分を出して働く。つまり1回働いて1回休むという状態にある。Kmが小さいということは基質が少ないうちからよく働くということであり、Kmが大きいということは基質が多くなければ一生懸命ないと働かないということになる。酵素と基質の組み合わせによりKm値は変わり、Km値が小さいほどその酵素と基質とは相性がよい。つまり酵素に適した基質ということになる。
ミカエリス定数は実験的に決められ、操作的に決められる定数である。つまり反応速度が半最大値のときの基準濃度である。よって理想化した条件ではKmは
Km=k−1+k+2/k+1 と表される。
しかし幾つかの酵素反応ではk−1はk+2と比べて非常に大きく、その場合k+2無視しうるほど小さくなるので、上の式は、
Km≒k−1/k+1 に簡略化される。
7.活性化エネルギー、自由エネルギー、高エネルギー結合
活性化エネルギー(activation energy)
活性化エネルギーとは、化学反応において反応物質(分子)中の(あるいは分子間の)特定の結合を切り、新しい状態に移る(新たな結合を生じる)ためには、当該分子がある量のエネルギーをもった不安定な遷移状態(活性化状態)になる必要がある。この状態と基底状態とのエネルギー差を活性化エネルギー[または活性化自由エネルギー(activation free energy)]という。一般に反応速度が温度の上昇とともに速くなるのは、熱の形でこのエネルギーをえる分子の数が増すからである。触媒は、活性化エネルギーを低下させることにより反応を促進する。
自由エネルギー(free energy)
自由エネルギーとは、熱力学の状態関数の一つ。通常の実験条件下における熱力学的平衡の基準を表す。状態が変化可能な系は平衡に近づくにしたがってエントロピーは極大に、内部エネルギーは極小の方向へと変化していき、系が平衡状態になった時に自由エネルギーが極小値になる。すなはち系の自発的変化は自由エネルギーの極小の方向へと変化する。化学反応においても同様で、化学平衡状態では系の自由エネルギーが極小となる。定圧過程に適したギブズの自由エネルギーと、定容過程に適したヘルムホルツの自由エネルギーがある。
高エネルギー結合(high-energy bond)
生体分子の特定の結合の加水分解反応における標準自由エネルギー変化が大きい場合にその結合を高エネルギー結合と呼ぶ。F.Lipmann によりATPのピロリン酸結合やホスホクレアチンのリン酸結合に対して使われたが、今ではリン酸結合以外にも拡張されている。化学構造としては、ピロリン酸やホスホグアニジン酸以外にアシルリン酸やホスホ硫酸などの混合酸無水物、エノールリン酸エステル、チオエステル、スルホニウムがこの結合を含む。
8.補酵素の例をあげて、ビタミンとの構造上の関連とその役割の説明
補酵素の例として、チアミン二リン酸(TPP)を例にあげてビタミンとの関係とその役割をあげる。TPPはビタミンB1(チアミン)ピロリン酸エステルで、チアミンのチアゾール環が脱炭素酸酵素の補酵素作用を営む。ビタミンB1の欠乏は、糖の代謝異常を引き起こし、血中ピルビン酸濃度が上昇して脚気となる。
この補酵素はピルビン酸をアセチルCoAに脱炭素する反応で利用されるピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の3つの酵素の酵素Tの補因子である。この酵素Tがピルビン酸を脱炭酸する。
9.酵素の分類
簡単な多細胞生物でも、体内ではおそらく数千種以上の酵素が働いている。これらの酵素を分類整理するために、触媒する反応を基準として、大きく6つのグループに分ける。そしてそれぞれをさらに中分類、小分類してゆき最終的に全てのここの酵素を4つの数字コードで区別できるようにしている。
酵素の分類表
酵素の分類名 |
酵素の働き |
酵素の種類の例 |
酸化還元酵素 |
水素、酸素、電子などの移動 |
脱水素酵素 酸化酵素 |
転移酵素 |
基(原子団)の移動 |
アミノ基転移酵素 |
加水分解酵素 |
加水分解 |
核酸分解酵素
|
脱離酵素 |
化合物を二重結合を残した状態で分解 |
脱炭酸酵素 |
異性化酵素 |
異性化反応 |
|
合成酵素 |
ATPの分解によるエネルギーを利用して2分子を結合 |
デンプン合成酵素 |
〈核酸の化学〉
1. 核酸のプリン塩基とピリミジン塩基、ヌクレオシドとヌクレオチドの構造と種類の説明
プリン塩基とピリミジン塩基
プリン、ピリミジンはともに塩基性の含窒素複素環式化合物で、プリン塩基はC5H4N4 の構造を持ち、ピリミジン塩基は C4H4N2の構造を持つ。通常構造式では環のC原子とそれに結合したH原子は、省略する。アデニン(A)は6-アミノプリン、グアニン(G)は2-アミノ-6-オキソプリンの構造を持つプリン誘導体である。一方シトシン(C)は4-アミノ-2-オキソピリミジン、チミン(T)は5-メチル-2,4-ジオキソピリミジン、ウラシルは2,4-ジオキソピリミジンの構造を持つピリミジン誘導体である。
プリン ピリミジン
ヌクレオシド
ヌクレオシドとは、有機塩基成分と糖成分が結合したものである。リボヌクレオシンは、プリン誘導体の9位またはピリミジン誘導体の1位のN原子がリボースの1位原子とβ-グリコシド結合を形成することにより結合した化合物である。プリンのリボヌクレオシドにはアデニントリボースが結合したアデノシン(Ado,A)と、グアニントリボースが結合したグアノシン(Guo,G)があり、オシンで終わる名称をもつ。これに対しピリミジンヌクレオシドには、シトシントリボースが結合したシチジン(Cyt,C)と、ウラシルとリボースが結合したウリジン(Urd,U)があり、イジンで終わる名称をもつ。デオキシリボースを含むヌクレオシドには、デオキシという接頭語を付け、例えばデオキシアデノシン(dAdo,dA)のように呼ばれる。ただしチミンとデオキシリボースの結合で生じるデオキシヌクレオシドのことは、例外的にチミジンと呼んでよい。ヌクレオシド中のC原子の位置番号は糖のものには’をつけ有機塩基成分の原子と区別する。天然の核酸中には、通常のA,G,C,T,Uのほかに、構造の違った修飾ヌクレオシドが微量に含まれている。例えば、グリコシド結合がG−NではなくC−C結合になったものや、糖部分や塩基部分にメチル化を受けたものなどがある。
ヌクレオチド
ヌクレオチドとは、ヌクレオシドの糖成分のOH基とリン酸基がエステル結合したものである。したがって、リン酸基が1個結合したリボヌクレオチドでは、2’、3’、5’の3種の異性体が、デオキシリボヌクレオチドでは3’と5’の2種の異性体が存在する。ヌクレオチドを略号で書くときには、リン酸基が5’基に結合したもの(5’-ヌクレオチド)はヌクレオシド略号の左側に、3’位に結合したもの(3’-ヌクレオチド)は右側にpをつけて示すことに決められている。例えば、アデニンの5’-ヌクレオチドには、AMPのほかにpAという略し方もある。ATPはアデノシンの5’位にリン酸が3個結合したものなのでpppAと略してもよい。
2. 語句説明
セントラルドグマ(central dogma)…遺伝情報の一般原理として唱えられた考え方。すなわちDNAによって担われた遺伝情報は、DNA自身の複製によって、子孫へと維持、伝達されてゆく。その一方で遺伝情報はDNAからRNA、そしてRNAからタンパク質へと伝達、発現していくが、その流れは一方通行であり、いったんタンパク質として発現されると、その情報が核酸に戻されることもなければ、RNAからDNAに戻されることもない。つまり遺伝情報の流れは一方向のみで、逆流することはない。しかし逆転写酵素が存在すると、RNAからDNAという流れが存在する。
DNAポリメラーゼ(DNA polymerase)…EC2.7.7.7.DNA複製においてDNA鎖の伸長を行う酵素。DNAポリメラーゼは5’→3’の方向にのみDNA鎖を伸長するという一般的性質を持つ。大腸菌ではDNAポリメラーゼT・U・Vの3種(真核生物では5種)がある。これらの酵素はいずれもデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)を基質とし、延長しているDNA鎖の3’末端の−OH基にヌクレオチドを結合させる。どのヌクレオチドを結合させるかは鋳型DNAが決める。DNA鎖の延長は5’→3’方向に起き、またすでに合成された鎖の末端にヌクレオチドを付加するが、それ自身でDNA鎖の伸長を開始できず、必ずプライマーを必要とする。この性質をプライマー要求性という。
RNAポリメラーゼ…原核生物のRNAポリメラーゼは1種類で、4個のサブユニットα2ββ’からなるコア酵素と、DNAの転写開始点に結合するσ因子からなる。RNAポリメラーゼがDNAに結合する部位はプロモータ領域である。プロモータは2ヶ所あり、転写開始点の約10塩基上流の−10配列(TATAAT;Pribnowボクッス)と、約35塩基上流の−35配列(TTGACA)である。プロモータ配列が少し変わったり、プロモータ間の距離が変化すると転写効率が変わる。強いプロモータでは2sに1回の割合で転写されるのに対し、弱いものでは10minに1回程度となる。RNAポリメラーゼがDNAに沿って移動、プロモータを認識し、その上のDNA二本鎖をほどく。その数塩基下流のプリン(AまたはG)から合成を開始する。合成されるRNA鎖の5’末端は三リン酸がついたままのpppAまたはpppGである。大腸菌を高温で培養すると異なるσ因子が働き、熱ショックプロモータからの転写で熱ショックタンパク(hsp)がつくられる。
鎖延長が開始するとσ因子はRNAポリメラーゼから離れ、RNA合成はコア酵素により進行する。RNA延長反応では進行方向にDNA鎖をほどきながら進行するが、後ろのDNA鎖は再び巻戻され二本鎖となる。局所的に二本鎖がほどけた部分に転写バルブというRNAポリメラーゼとRNA−DNA混合鎖が複合した構造を形成する。ほどかれるDNA領域は、約17bp、延長反応の速さは約50塩基/sである。RNA合成のエラー頻度は104〜105に1回程度である。RNA合成の終結はRNA−DNA混合鎖が解離し、RNAポリメラーゼガDNAから離れることによって行われる。これはきわめて精密に調節されるが、転写終結にはもっとも単純なGCに富んだ回文領域(ヘアピン構造)に続く数個のU残基による鋳型DNAの配列制御で終結する場合と、ATP分解酵素の1つである終結因子ρ(ロー)因子(タンパク)により終結する場合とがある。
真核生物では3種のRNAポリメラーゼが存在する。RNAポリメラーゼTは核小体に存在し18s、5.8S、28SrRNAの合成を行う。RNAポリメラーゼUとVは核質内に存在する。RNAポリメラーゼUはhnRNAといわれるmRNA前駆体をRNAポリメラーゼVは、snRNA(核内定分子RNA)、tRNA、および5SrRNAの合成を触媒する。転写を開始するためのプロモータ配列は原核細胞と異なり、さらにプロモータ近傍には転写を促進するエンハンサ領域が存在する。
RNAのプロセッシング…tRNAとrRNAのプロセッシング:大腸菌RNAのプロセッシングでは、合成された30SRNAから16S,23S,5SrRNAおよび数種類のtRNAがRNアーゼVの働きによって切り出される。16SrRNAは30Sリボソームサブユニットをつくり、さらに2つのサブユニットが複合し70Sリボソームができる。またtRNAは30SRNA以外にもtRNA前駆体より切断酵素で切り出される。切断酵素の1つは触媒作用を持つRNAを含むRNアーゼPpである。切断後、さらに特定部位のヌクレオシド例えばUはリボチミジンやシュードウリジンなどに修飾される。真核細胞の場合、合成されたtRNAおよびrRNAには、イントロンが含まれ、スプライシング、切り出し、修飾過程を経て成熟型となる。
mRNAプロセッシング:mRNAプロセッシングにはmRNA前駆体のスプライシング(イントロンの除去とその前後のエキソンの再結合反応)、mRNAの5’末端への7-メチルグアノシンキャップ構造の付加、3’末端へのポリ(A)配列の付加、メチル化などの塩基修飾反応が含まれる。狭義のmRNAプロセシングとして、mRNA前駆体のスプライシング反応のみをさす場合がある。
エキソンとイントロン
エキソン:分断された遺伝子で、最終的な成熟RNAとなる部分のDNA配列(RNAにも用いられる)をいう。一次転写産物からイントロン部分が取り除かれ、エキソン部分がつなぎ合わさることにより、タンパク質合成の鋳型となる機能的な成熟mRNAが完成する。
イントロン:真核生物の遺伝子DNA中に存在する介在配列で、一次転写産物には含まれるが最終の機能的な成熟RNAには含まれず、スプライシングにより取り除かれる遺伝子領域をいう(RNAにも用いられる)。植物やテトラヒメナのイントロン中にはそのRNA自体で自己スプライシング機能を持つものもあり、グアノシン要求性からグループT型とグループU型イントロンに分けられる。T型イントロンの除去にはMg2+とグアノシン(GMP,GDP,GTPでも可)要求性がある。U型イントロンの除去にはMg2+とスペルミジンが必要であり、グアノシン要求性はない。U型イントロンの除去には、イントロン中のアデニン残基と2’-5’結合による投げ縄状構造が形成され、高等生物のスプライシング機構に類似している。
核酸分解酵素(ヌクレアーゼ)・・・核酸やポリヌクレオチドのヌクレオチド間を連結するホスホジエチルエステル結合を開裂する酵素、ヌクレオホスホジエステラーゼの総称として用いられる。基質の糖部分に対する特異性でわけるとDNAだけを分解するデオキシリボヌクレアーゼ(DNアーゼ)、RNAに作用するリボヌクレアーゼ(RNアーゼ)、糖部分を識別せずDNAにもRNAにも作用する酵素の3種類に分類される。狭義には単にこの第三の酵素をヌクレアーゼということもある。分解様式で分類するとポリヌクレオチド鎖内部の3’、5’-ホスホジエチル結合を切断するエンドヌクレアーゼと鎖の5’末端または3’末端からヌクレオチドを順次1個ずつ切断していくエキソヌクレアーゼに分けられる。エンドヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼともに分解産物からは5’末端からリン酸基を持つヌクレオチドを生成する5’-p生成酵素と、3’末端にリン酸基を持つヌクレオチドを生成する3’-p生成酵素に分類する。ホスホジエステル結合が加水分解されるときには、酵素の特異性によって5’位にリン酸基が残り3’位にヒドロキシ基が生じる場合と、逆に3’位にリン酸基が残り5’位にヒドロキシ基が生じる場合がある。エキソヌクレアーゼにはほとんど塩基特異性がないが、エンドヌクラーゼには、塩基に非特異的なヌクレアーゼと、ある塩基または塩基配列を認識して核酸中の特異的部分のみを切断するヌクレアーゼの2種類がある。例えばRNアーゼT1はグアニル酸の3’側のみで切断するもので、生じたオリゴヌクレオチドの3’末端はGpである。RNAそれ自身でRNアーゼ活性を持つものもが見出された。
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酵素名 |
基質 |
生成物 |
エ ン ド ヌ ク レ ア T ゼ |
膵臓DNアーゼT |
一本鎖および二本鎖のDNA |
5’-p、3’-OHをもつオリゴヌクレオチド |
膵臓DNアーゼU |
一本鎖および二本鎖のDNA |
3’-p、5’-OHをもつオリゴヌクレオチド |
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ヌクレアーゼP1 |
一本鎖および二本鎖のDNA,RNA |
5’-モノヌクレオチド(3’-位のリン酸も分解する) |
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ヌクレアーゼS1 |
一本鎖のDNA |
5’-p、3’-OHをもつ二本鎖DNA.一本鎖部分からは5’-モノおよびジヌクレオチド |
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膵臓RNアーゼA |
一本鎖および二本鎖RNA |
3’末端にピリミジンヌクレオチドをもつ5’-OH、3’-pオリゴヌクレオチド |
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RNアーゼT1 |
一本鎖および二本鎖RNA |
3’末端にグアニンヌクレオチドをもつ5’-OH、3’-pオリゴヌクレオチド |
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RNアーゼU2 |
一本鎖および二本鎖RNA |
3’-末端にプリンヌクレオチドをもつ5’-OH、3’-pオリゴヌクレオチド |
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RNアーゼT2 |
一本鎖および二本鎖RNA |
3’-モノヌクレオチド |
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制限酵素 |
二本鎖DNA |
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エ キ ソ ヌ ク レ ア T ゼ |
ヘビ毒ホスホジエステラーゼ |
一本鎖のDNA,RNA |
3’-末端から分解して5’-モノヌクレオチド |
脾臓ホスホジエステラーゼ |
一本鎖のDNA,RNA |
5’-末端から分解して3’-モノヌクレオチド |
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大腸菌エキソヌクレアーゼT |
一本鎖のDNA |
3’-末端から分解して5’-モノヌクレオチド |
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大腸菌エキソヌクレアーゼU |
二本鎖のDNA |
3’末端から分解して5’モノヌクレオチドが生成し、一本鎖DNAが残る |
遺伝子の組換え・・・相同性のある1組の遺伝子群、または相同性のない遺伝子の間で乗換えが起こり、新しい組み合わせの遺伝子群を生じること。試験管内でDNAリガーゼの作用により外来のDNA配列をファージやプラスミドなどのベクター分子を組み込んだDNA標本が生じる。外来DNA配列はベクターの助けを借りて適当な細胞に導入されさらにタンパク質として発現される。
ベクター・・・宿主細胞の中で複製可能なDNA分子で、外来DNA配列の運搬体の役割を果たす。自己複製能力のあるプラスミド、ファージ、ウイルス、YACを改良して作られる。DNAが染色体に組み込まれると染色体そのものがベクターとなる。ベクターの条件は、@細胞内で複製し、娘細胞に安定して分配され、A制限酵素部位を持ち、Bその存在やクローニングの成否をモニターできる選択マーカーを持つことだが、この他C細胞から容易に回収できるということもよいベクターの条件である。
クローニング・・・クローンを得ること。@細胞の場合は1個の細胞に由来する均一な細胞集団を得ることをさす。A遺伝子の場合は、特定のDNA配列を分離することをいう。それがcDNAの場合はcDNAクローニングと呼ぶ。遺伝子のクローニングは、ベクターに組み込んだDNA断片を宿主細菌に導入し、目的とするDNA断片を含むコロニーあるいはプラークの分離による。
遺伝暗号・・・mRNAの塩基配列とタンパク質のアミノ酸配列の対応関係を遺伝暗号といい、コドンと呼ばれるmRNA上の連続した三つのヌクレオチド(トリプレット)が一つのアミノ酸を規定する。4しゅるいの塩基に可能な64個のコドンのうち61個はアミノ酸に対応するコドンで残りの3個は対応するアミノ酸がなく、タンパク質合成を終止するコドンである。メチオニンとトリプトファンはそれぞれ1つしかコドンがないがそれ以外のアミノ酸に対応するコドンは縮重していて、複数個存在し同義コドンという。タンパク質合成は通常メチオニンのコドンAUG(まれにGUG)から始まりじいのコドンに対応するアミノ酸がペプチド結合で順次結合することにより進行する。コドンは5→’3’の方向に3塩基ずつ区切って読まれ、塩基が重複して読まれたりコドン間に余分な塩基が存在することはない。
遺伝暗号表
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U |
C |
A |
G |
U |
UUU Phe UUC Phe UUA Leu UUG Leu |
UCU Ser UCC Ser UCA Ser UCG Ser |
UAU Tyr UAC Tyr UAA 終止 UAG 終止 |
UGU Cys UGC Cys UGA 終止 UGG Trp |
C |
CUU Leu CUC Leu CUA Leu CUG Leu |
CCU Pro CCC Pro CCA Pro CCG Pro |
CAU His CAC His CAA Gln CAG Gln |
CGU Arg CGC Arg CGA Arg CGG Arg |
A |
AUU Ile AUC Ile AUA Ile AUG Met |
ACU Thr ACC Thr ACA Thr ACG Thr |
AAU Asn AAC Asn AAA Lys AAG Lys |
AGU Ser AGC Ser AGA Arg AGG Arg |
G
G |
GUU Val GUC Val GUA Val GUG Val |
GCU Ala GCC Ala GCA Ala GCG Ala |
GAU Asp GAC Asp GAA Glu GAG Glu |
GGU Gly GGC Gly GGA Gly GGG Gly |
ヒストン・・・真核細胞の核内に広く存在し、DNAとイオンを結合している塩基性タンパク質。DNAはヒストンとの規則的な結合により折りたたまれる。その複合体の基本構造単位はヌクレオソームと呼ばれる。ヒストンは通常5種の成分H1,H2A,H2B,H3,H4からなり、H1以外は重量比でほぼ等量存在する。ヒストンの特定のアミノ酸鎖にはメチル化、アセチル化、ADPリボシル化、リン酸化などの多様な修飾が起こることが知られており、クロマチンの高次構造形成や、遺伝子発現調節、細胞周期調節などと深く関わっていることが知られている。
クロマチン・・・染色質ともいう。真核生物の核内で塩基性色素で濃く染色される物質。本来は顕微鏡下で核内に分散して存在する構造体と定義され、分裂期における凝縮した構造体である染色体として区別されていたが、現在では生化学的な解析DNAとからヒストンを主成分とし、加えて非ヒストンタンパク質、RNAを含む複合体を指す語として用いる。細胞周期および遺伝子の活性化、不活性化に対応して構造的に著しい変化を遂げる。
3. タンパク質の合成の開始、延長、終始機構の説明
原核生物のタンパク質の合成の開始には、mRNA、N-ホルミルメチオニル-tRNAMetと大小のリボソームサブユニットが開始複合体を形成する必要があり、この際3種の構成因子(IF1,IF2,IF3)が不可欠である。はじめに、IF1,IF2,IF3と30sサブユニットが複合体をつくり、続いてIF2とGTPの結合、さらにmRNAとN-ホルミルメチオニル-tRNAMetが加わり、IF3が解離し、30Sタンパク合成開始体となる。このときIF2の役割は、N-ホルミルメチオニル-tRNAMetの認識であり、tRNA中央部のアンチコドングループのCAU配列(アンチコドン)が開始コドンAUGと逆方向に塩基対を形成して、mRNAと結合する。つまりtRNAのアンチコドンがmRNAのコドンと相補的な塩基対を作ることで対応するアミノ酸が正確に決定される。30Sタンパク合成複合体は50Sサブユニットと結合し、IF2中に含まれるGTPアーゼが作用し、GTPがGDPと無機リン酸に加水分解され、その結果IF1とIF2も解離して70S開始複合体が完成、タンパク質合成の準備が整う。このときリボソーム上にtRNAが結合する部位はA部位(アミノアシル部位)とP部位(ペプシジル部位)の2ヶ所で、N-ホスミルメチオニル-tRNAMetはP部位に、次のコドンに対応するアミノアシルtRNAはA部位にくる。このようにタンパク質の合成開始には開始複合体の形成が必要である。
真核生物の翻訳開始は基本的に原核生物と同じでA部位、P部位などの役割も変わりない。しかしより複雑で10種の開始因子(真核開始因子、eIF)が必要である。はじめにMet-tRNAMet・eIFとGTPとが結合した後、40Sサブユニットと結合し、さらにキャップ構造タンパクと結合したmRNAと開始複合体を形成する。この際複合体をまとめるためのeIF3と開始コドンのAUGを探すための駆動エンジンとして働く4種のeIFが必要である。またこの段階で原核生物では見られないATPの加水分解が行われる。次にeIF2と結合したGTPをeIF5が加水分解することを引き金に60Sサブユニットが加わり、80Sタンパク合成複合体が完成。タンパク質合成を開始する。複合体形成後、解離した開始因子は次の開始複合体形成に用いられ、1本のmRNAには幾つものリボソーム複合体が形成され、ポリソームを形成する。
ペプチド鎖の延長では、アミノ酸が1個ずつN末端からC末端の方向につながる。数個のタンパク性延長因子(EF)が関与し、GTPの加水分解がこれに共役する。延長サイクルには、mRNAの次のコドンが指定するアミノ酸を結合したアミノアシル-tRNAがA部位につくことで始まる。子ドンがUGG(トリプトファンコドン)ならばTrp-tRNAがEFTu・GTP複合体と結合して、tRNA・EFTu・GTP複合体をつくり、これが70SリボソームのA部位に結合する。するとEFTuのGTPアーゼ作用によりGTPが加水分解され、EFTuとともにリボソームから離れる。ここでリボソーム自身のもつペプチジルトランスファーゼ作用が働き、P部位のfMet-tRNAのN-ホルミルメチオニル残基がA部位のTrp-tRNAとペプチド結合を形成し、fMet-Trp-tRNAを生じる。こうしてペプチド鎖は、tRNAに乗ったままN末端からC末端の方向に合成されていく。
N-ホルミルメチオニル基をはずしたtRNAをリボソームからはずすためのエネルギーは、延長因子EFGとGTPがリボソームに結合し、EFGのGTPアーゼの作用でGTPがGDPに分解して供給する。それとともにA部位で合成されたばかりのペプチジル-tRNAがP部位に移り、同時にmRNAも1コドン分だけ位置がずれる。この段階をトランスロケーションという。こうして1サイクルが回る。次は空いたA部位にその次のコドンによって指定されたアミノアシル-tRNAが付き、P部位のペプチジル-tRNAからペプチドを受け取って、ペプチド鎖の延長を繰り返す。長いmRNAでは多数のリボソームがついてポリソームを形成し、同時に何本ものペプチド鎖の合成を起こす。ペプチド結合を1個形成するのに、高エネルギーリン酸結合は4個も消費される。
真核延長サイクルは、原核延長サイクルと実質同じで、eEF1がEFTuとEFTsの機能をもち、eEF2がEFGの代わりに働く。
ペプチド終止構造・・・mRNAのコドンがUAG,UAA,UGAの場所にくるとこれらのコドンアミノ酸が対応せず、対応するアミノシル-tRNAが存在しない。すると終結因子(原核細胞ではRF1とRF2)が働いてペプチドとtRNAの間の結合が切断され、ペプチドがリボソームから遊離する。RF1はUAG,UAAに、RF2はUGA,UAAに働く。遊離したペプチド鎖のホルミル基をはずせばタンパク合成が完了する。真核生物ではeRFが全終止コドンを認識する。