応用生物学特論

応用生物化学特論 担当者:小嶋道之

(平成13年度)課題レポート(以下の中から1題を選択して具体的な例を示してレポートにしなさい。締め切りは、8月9日1時までです。)

1.細胞内情報伝達に関与する膜脂質シグナリングシステムについて

2.生理活性脂質について

3.膜脂質の過酸化と動脈硬化について

(平成14年度) 応用生物化学特論 

時間:木曜日115分から230分まで

場所:2階セミナー室

内容:論文紹介と討論を中心に行う。

評価:出席,論文紹介内容,毎回の質問(討論への参加,1回は質問がノルマです)を総合して評価する。

・出席は8割以上とする。

・論文は事前に小嶋と相談する(1週間前の木曜日までに)。

・紹介方法は任せるが,40分程度で紹介をして,3040分を討議の時間とする。

・論文紹介のために準備したものを提出する。また、質問とその回答も印刷し、翌々週の木曜日には提出する。

論文は,自分の興味を盛った最新(2000年から2002年のもの)の論文から探すこと。

ワープロで打ったものを提出する。

話題提供の内容について事前に小嶋に相談してください。また、当日はプリントでも,パワーポイントを使っても良いが,最低人数分は要旨などを印刷してください。

(平成16年度)応用生物化学特論 課題レポート 
レポートは受講者の行為により掲載しています。

応用生物化学特論 レポート

畜産管理学専攻 西本博美 (学籍No. 16287)

北海道産果実の食品機能性ということで、発表があった。プルーン及びブルーベリー、ハスカップに豊富に含まれるポリフェノールの食品機能性の評価を目的としている。ポリフェノールはマスメディアでも取り上げられ、健康にいいということで広く世に知れ渡っているのではないかと思われる。その機能として、抗酸化活性、抗癌作用といった生体防御や、血圧上昇抑制など、成人病にも効果を現すという。そこで、まず初めに、今回の発表内容で着目されていたクロロゲン酸について調べた。

主にコーヒーに含まれている水溶性の芳香成分で、ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸は薬理作用を有しており、それには、(1)筋肉収れん作用、(2)活性酸素を捕捉し除去する抗酸化作用、(3)抗変異原性(発ガン予防)、(4)アンギオテンシンI変換酵素阻害活性(血圧に関与)、(5)メラニン生成抑制、(6)糖の吸収を抑え、血糖値の安定化を促す効果などがある。これらの他にも、抗ウイルス、ロイコトリエン阻害、リポキシゲナーゼ阻害、肝臓保護作用、金属キレート作用なども言われている。

発表に用いられた文献中では、これら、数ある薬理作用のうち、血糖値安定化促進についての研究がなされていた。結果および考察は発表中でまとめられてあったので、省略する。この文献の中で、興味を持ったのは、血漿中マグネシウム濃度の変化と血糖との関係である。自身の研究内容と繋がっているであろう箇所でもあったので、それについてレポートする。

マグネシウムは糖の分解をはじめとして、さまざまな物質代謝に関係があり、マグネシウムの慢性的不足は糖尿病を悪化させる要因のひとつとなるといわれている。実際に、糖尿病患者では、正常な血糖値を示す人に比べ、血中マグネシウム濃度が低い。このこととは逆に、インスリン非依存型糖尿病の治療薬で、インスリン増感剤であるメトフォルミンという薬剤の使用により、血糖値が正常になるのだが、その時、肝臓でマグネシウム濃度が上昇することも分かっている。他にも、マグネシウムはインスリンの分泌、標的細胞での反応にも関わっている。そして、発表では、クロロゲン酸処理をしたラットは血漿中および脾臓、肝臓におけるマグネシウム濃度が有意に上昇した結果を受け、インスリン増感剤であるメトフォルミンと同様の作用がある可能性が示されたとまとめられた。

さらに、前述のメトフォルミンについて調べていくうちに、ヒトの不妊治療に行き着いたので紹介する。現在、ヒトにおける不妊の原因の一つとして、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)という病気がある。これは、卵胞発育障害のことで、ある程度までは卵胞の発育は進むが、排卵には至れないという症状を指す。病因は、卵巣内アンドロゲン過剰分泌によるアンドロゲン濃度の上昇であると理解されている。卵巣内のアンドロゲン産生は、脳からの黄体ホルモンによって刺激されるが、インスリンによっても刺激される。PCOS患者がメトフォルミン使用すると、細胞のインスリン感受性が上がり、フィードバック機構によって、インスリンの分泌が減少する。その結果、卵巣内のアンドロゲンが減少し、PCOSが改善されるのだという。

ここで、私自身の修士論文内容と照らし合わせてみる。修論の中でインスリンといえば、インスリンによって細胞膜上に発現するGLUT4である。この糖輸送担体は、普段は細胞内部で待機をしているが、インスリンが細胞の受容体に結合することによって、初めて膜上へと移動し、その役割を果たすという特徴を持っている。今までの実験の結果では、GLUT4は卵胞の卵胞膜に存在するらしいということが分かっていた。しかし、そのことは、「過剰なアンドロゲンは、排卵に障害をきたす」という事実に反するように思える。つまりはこういうことである。GLUT4はインスリン無しでは存在意義がないが、しかし、GLUT4が働くためのインスリンが卵胞に多量にくることは、排卵障害をもたらすということである。しかしながら、ここで考えておかなければならないのが、「多量のアンドロゲンが」ということであろう。アンドロゲンは、卵胞で産生される性ステロイドホルモンの最終産物であるエストロゲンの基質となる。適量のアンドロゲンは、卵巣が正常に働くためには必要不可欠である。つまり、適量が最善なのである。

あらゆる問題や事象を考えるとき、最終的に行き着く先は、「適量」であることが多い。今私が取り組んでいる、蔓延している繁殖障害についても、行き過ぎた生産性の追及、ウシ本来の生態を無視した飼養形態が、問題の端を発していることは明らかである。今回の論文の背景となっている糖尿病も、遺伝的要素による部分はあるが、それにしても、食料にあふれすぎた現代病であるといえる。ヒトもウシも、何事にも適度適量であることが、これらの問題を解決できる妙薬であると思えてならない。

応用生物化学特論レポート

 食品栄養科学研究室 宮下淳一

緒言 私は植物界に広く分布しているクロロゲン酸の食品機能性について報告した。クロロゲン酸は抗酸化活性、抗変異原性などの他に血糖値上昇抑制効果のあることがわかっている。血糖値上昇にインスリンが関与していることは周知のことである。今回のもう一人の発表である西本博美さんは、インシュリン分泌の際、筋肉あるいは脂肪組織への糖輸送体に関連するGLUT4について発表した。これは動物を使用した機能性評価(特に血糖値上昇抑制効果)の指標に利用できると考えた。

GLUT4について インスリン感受性組織である筋肉や脂肪組織にはGLUT1GLUT3GLUT4の3つのアイソフォームの発現が認められている。GLUT1GLUT3はインスリンの有無に関わらず大半が細胞膜上に存在し、細胞の維持に必要な基礎状態のグルコース取り込みを行っている。これに対しGLUT4は、インスリン非存在下では、ほとんど細胞内に局在していてグルコースの取り込みには役立っていない。ところが、インスリン刺激が加わるとGLUT4は細胞内から細胞表面に急激に移動し、グルコース取り込み活性を持つようになる。この細胞内局在の変化はGLUT4translocationと呼ばれている。筋肉や脂肪組織において、インスリンによるグルコース取り込みの顕著な増加が見られる主な原因はGLUT4translocationによると考えられている。

GLUT4の有用性 米国では、成人の約8%が2型糖尿病であると言われ、我が国でも食生活の欧米化や飽食化に伴い糖尿病患者が増加し、その潜在的な人も含めると、国民の1割以上が該当するのではないかとも言われている。そこで、原因の分子的な理解に基づいた。新しい有効な予防・治療法を開発することが急務である。 糖尿病を防ぐために糖分の過剰摂取を避け、適度な運動を併用して血糖値の過度な上昇を抑えるように指導される。しかし、日常生活の中で厳しい食事制限をしたり、運動を行ったりすることは、様々な理由からなかなか難しい。特に運動療法は、その有効性が認められているにもかかわらず、合併症等の理由から、その実施が不可能な場合が多い。本研究により運動療法の科学的究明が行われ、GLUT4発現量を増加する薬物が開発されれば、運動のできない糖尿病患者でも、薬物治療により運動と同じ効果の得られることが期待される。 筋肉および脂肪組織に特異的に発現している糖輸送体GLUT4は、末梢組織での糖代謝の律速段階となっている。近年の脂肪摂取量の増加により、肥満、糖尿病、高脂血症のいわゆる生活習慣病が増加してきているが、高脂肪食は脂肪組織におけるGLUT4mRNA発現量を低下させ、インスリン抵抗性(インスリンによる糖取り込み促進作用の阻害)および高血糖をもたらし、糖尿病を引き起こす。 高脂肪食による糖尿病の発症は、GLUT4をマウスの筋肉組織で通常の2倍程度過剰発現させることにより完全に防止できる。また、遺伝的に糖尿病を発症するモデルマウスの筋肉にGLUT4を過剰発現させると、糖尿病が発症しなくなる。このような知見から、筋肉におけるGLUT4の発現量を増加させる新しい糖尿病治療法の開発が期待される。


考察 GLUT4発現量を増加させることによる糖尿病予防あるいはその治療が期待されている。現在、リンゴの絞りかすやグアバジュースなどには、血糖値上昇抑制効果のあることが報告され特定保健用食品の認可を受けている。これらの効果は、主に腸管での糖の吸収阻害などが原因であると報告されているが、GLUT4の発現量に関する知見は報告されていない。今後、GLUT4発現量を増加させる薬剤の開発により糖尿病の改善効果が期待される。私の研究は、薬剤としての利用ではなく、血糖値上昇抑制効果のある食品・食材を見つけることを目的としている。

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