生物化学
過去問
以下の構造を書きなさい。また説明しなさい。
{A}群
1. β−D−グルコースのHaworthの環状式
2.D−ガラクトースのFischerの投影式
3.β-D-フラクトシル-(2-1)-α-Dグルコピラノシド
4.18:1n-9
5.シトステロール
6.スフィンゴミエリン
7.20:4Δ8,11,14、17 8.グリシン
9.アスパラギン
10.リシン
11.システイン
12. D−リボース
13.プリンとピリミジン
{B}群
1.α−D−ガラクトースのHaworthの環状式 2. D−マンノースのFischerの投影式
3.マルトース4.18:3n-3
5.コレステロール
6.トリアシルグリセロール
7.22:6Δ4,7,10,13,16,19 8.トレオニン
9.フェニルアラニン
10.バリン
11.グルタミン
12. DNAの一次構造 13.RNAの一次構造
{C}群
1.D−グルコースのFischerの投影式
2.β−D−ガラクトースのHaworthの環状式 3.ショ糖 4.18:2n-6 5.コレステロールエステル
6.ホスファチジルコリン
7.20:4Δ5,8,11,14 8.メチオニン
9.トリプトファン
10.アルギニン
11.プロリン
12.DNAの一次構造
13.RNAの一次構造
{D}群 1.β−D−マンノースのHaworthの環状式
2.D−グルコースのFischerの投影式
3.乳糖
4.18:3n-6 5.シトステロール
6.ホスファチジルエタノールアミン
7.20:5Δ5,8,11,14、17 8.セリン
9.チロシン 10.ロイシン
11.ヒスチジン 12. 2−デオキシ−D−リボース 13.プリンとピリミジン
生物化学 小テスト2−1構造を書き簡単に説明せよ。
1.NAD、CoA、アミノ糖、リン脂質、ケトース
2.GTP、カルニチン、アルドース、トリアシルグリセロール、糖脂質
3.FAD、アミロース、ACP、ピラノース型、20:45,8,11,14 4.ATP、ビオチン、ウロン酸、セルロース、不可欠脂肪酸
生物化学本試験 2001年7月15日
A.生物の生体内エネルギーとして重要なATPは、(1)基質レベルのリン酸化(2)酸化的リン酸化(3)光リン酸化 によって合成される。(1)と(2)でのATP合成について以下の語句の中から必要な言葉を選び出して使い説明せよ。<語句>チラコイド膜、嫌気的、電子、電子伝達系、エネルギーレベル、ADP、GTP、グリコーゲン、ピルビン酸、アセチルCoA、NAD+、プラストキノン、FAD、ミトコンドリア内膜、光エネルギー、葉緑体、イソクエン酸、ホスホエノールピルビン酸、2-オキソグルタル酸、コハク酸、1,3−ビスホスホグリセリン酸、リンゴ酸、シトクロムc、細胞質、プロトンATPアーゼ、フェレドキシン
B.脂肪酸のβ酸化について、以下の語句を用いて説明せよ。また、パルミチン酸がβ酸化を受けたとき生じるATP量を、理由を示して導きなさい。<語句>アシルCoAアシルトランスフェラーゼ、エノイルCoAヒドラターゼ、デヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ、FAD、NAD+、CoA、ATP
C.アミノ酸の持っている化学的性質は、両性イオンであること。そのためにアミノ酸の実効電荷は、pHによって変化する。酸性アミノ酸である、アスパラギン酸を例として、実効電荷と電離について構造式の変化およびpK1=2、pI=4、pK2=9.5を用いて説明せよ。
D. 原核生物と真核生物の遺伝情報の発現と調節にはいくつかの違いが見られる。(1)原核と真核生物の転写機構の違いを示し、(2)真核生物のmRNAの構造上の特徴を図示して、かつ次の語句:RNAポリメラーゼ、エキソン、GTP、メチル化、ポリA、スプライシング、イントロン を用いて説明せよ。
E. 生物化学の授業を受講して興味を持ったことは何でしょうか?また、授業の点数を100点基準で書いてください。
生物化学試験12002年1月23日
1. 栄養物(糖質、脂質、タンパク質)は、生体エネルギー(ATP)に変換され利用されている。その代謝経路の概要を図示して示し、ATPの生成過程について説明せよ。その際、代謝上で重要なポイントとなる化合物の構造を図中に記入しなさい。(50点)
2. 真核生物の(A)遺伝子の複製、(B)遺伝子の転写と翻訳について説明せよ。(50点)
3. 以下の語句を説明せよ。(50点)1.アノマー 2.ヘミアセタール 3.リボゾーム 4.カルニチン 5.NAD 6.FAD 7.セントラルドグマ 8.エキソンとイントロン 9.必須脂肪酸 10. 必須アミノ酸
4. 現在興味を持っている生物化学に関連する内容を1つ示し、理由を説明せよ。(5点)
5 タンパク質の一次構造決定法を、以下の順に従い@精製Aアミノ酸組成B分子量決定Cペプチド断片への分解Dエドマン分解E全アミノ酸配列の決定について説明せよ。
課題レポート1
1.主要な細胞内オルガネラの各機能に概要を説明せよ。
<動物、植物に共通なもの>
核…核の主な生理機能はRNAの合成を指揮することである。静止状態の細胞では、非活性状態であり、細胞を維持するための最小限のDNAとRNAの合成が起こるだけである。しかし成長途中の細胞の核では活発に代謝が行われている。核内にはさらに核小体と呼ばれるものがあり、これはリボソームRNA,リボソームを合成する。
細胞質基質…細胞小器官の間を埋めている粘性のある液状の物質で、その中に各種のタンパク質が微細な微細な繊維構造を作っている。代謝の解糖系が行われるのもこの細胞質基質である。解糖系ではグルコースを2分子のピルビン酸に分解している。この過程で2分子のATPを合成する。
ミトコンドリア…低分子物質を酸化して細胞内ATPのほとんどを生産する。グルコースを原料とした場合、細胞質基質で作られたピルビン酸からまずマトリクスでアセチルCoAに異化されてからクエン酸回路に入り2ATPが合成される。続いてクリステで解糖系とクエン酸回路で発生したNADH2とFADH2を原料として34ATPが合成される電子伝達系の反応が起こる。こうしてミトコンドリア内で合計36ATPが合成される。またミトコンドリアには独自のDNAが有り、ミトコンドリアが増殖するときはミトコンドリアから分裂して増殖する。ここで起こる反応を解糖系の反応と一緒に化学反応式にすると、C6H12O6+6H2O+6O2→6CO2+12H2O+38ATPとなる。
小胞体…リボソームに付着しているものと、していないものとがある。リボソームに付着しているものは、リボソームで合成されたタンパク質を取り込み、ゴルジ体へ輸送する。またリボソームに付着していないものは、細胞内に侵入する有害物質を酸化して無害なものにする働きをする。
リボソーム…核内にあるDNAの遺伝情報にもとづいてタンパク質の合成を行っている。小胞体に付着しているものと、していないものとがあり、後者は細胞質基質内にタンパク質を供給する。
ゴルジ体…膜の集合体で分泌タンパク質などを含んだ小胞を作り、物質の貯蔵・濃縮・分泌・輸送を行う器官である。また、リボソームの形成にも関与している。
ペルオキシソーム…過酸化水素を分解する酵素(カタラーゼ)や尿酸を酸化する酵素を持つ。ヒトでは見られるが尿酸を排泄物とする鳥類や爬虫類では尿酸を酸化する酵素群を持たない。
細胞膜…リン脂質の2分子の層の中にタンパク質がモザイク状にはめ込まれていると考えられている。細胞膜は半透性であり、溶媒は通すが溶質は通さない。しかし、細胞膜には選択透過性があり、カルシウムポンプやナトリウムポンプなどの能動輸送と、アミノ酸や糖を輸送する受動輸送とがあり、能動輸送はエネルギーを使うが受動輸送は使用しない
<動物細胞に特有なもの>
リソソーム…タンパク質、核酸、脂質などを細胞内消化する小胞で、食作用の結果生じるファゴソームと融合すると含まれていた加水分解酵素が活性化される。
中心体…9本の三つ組微小管から出来ており、細胞分裂時に紡錘体となり染色体分裂時に重要な役割を果たす。
<植物細胞に特有のもの>
葉緑体…袋状のチラコイドとそれ以外のストロマからなり、植物細胞内で光合成を行う。チラコイドには同化色素があり光エネルギーを吸収して水を励起し、水素イオンと酸素に分ける。ストロマでは、チラコイドで発生した水素イオンを利用して、炭酸同化を行い、グルコースを作り出す。ここで起こる反応を化学式にすると、6CO2+12H2O+光エネルギー→C6H12O6+6H2O+6O2 となる。
液胞…下等動物でも見られるが、植物でよく発達している。細胞液を含み、浸透圧の調節、糖やアントシアンなどの貯蔵を行う。
細胞壁…主にセルロースとペクチンからなる全透性の膜。リグニンが沈着すると木化し、スペリンを含むとコルク化する。表皮細胞ではくちクラを分泌してクチクラ化する場合が多い。植物細胞が低張液に入れても溶血しないのはこの細胞壁があるからである。
2.カルシウムイオンによる生体機能についての例をあげて説明せよ。
カルシウムイオンは多くの生命現象に関与しており、筋肉の収縮、白血球の活性化、血小板の活性化、リンパ球の活性化などがその例である。その中で筋収縮を説明しようと思う。
@神経からの刺激によって細胞膜に興奮が起こると、筋原繊維を取り囲む筋小胞体に伝えられ、カルシウムイオンが放出される。
Aカルシウムイオンはアクチンフィラメントに存在するトロポニン複合体に結合する。
Bカルシウムイオンが結合すると、トロポニンによる阻害作用がなくなり、ミオシンとアクチンが反応する。
Cミオシン分子の頭部がATP分解酵素(ATPアーゼ)として働き、ATPを分解する。このとき遊離するエネルギーによってアクチンフィラメントがミオシンフィラメントの間に滑り込み、筋収縮が起こる。このためサルコメアの長さが短縮する。
D刺激がなくなるとカルシウムイオンが筋小胞体に吸収されて、ミオシンとアクチンの結合が離れる。このためアクチンフィラメントがもとの位置に戻り、筋肉は弛緩する。
3.生体での情報伝達機構について説明せよ。特にホルモン作用、神経伝達機構、オータコイドについて生化学的な共通点を中心に述べよ。
まずオータコイドについて説明したいと思う。オータコイドとは生体内で賛成され、微量で多種の薬理作用を示すが、生理的役割がなお十分に確立されていないため神経伝達物質やホルモンには分類されない数種の物質の総称。
生体内での情報伝達は、主に神経伝達物質によって担われている。神経伝達物質は、ニューロトランスミッター、神経化学伝達物質、化学伝達物質とも呼ばれる。ニューロンで生産され、化学的シナプスで放出され、標的細胞に興奮または抑制の応答反応を引き起こす低分子量の物質。確定しているものは10種ほどで、アミン類(アセチルコリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンなど)、アミノ酸類(γ-アミノ酪酸、ゲリシン、グルタミン酸など)、種々な小型分子(サプスタンスP、エンケファリンなど)がある。一般に生合成に必要な酵素は細胞体で作られる。上記の3種に共通点は、細胞体内で作られた伝達物質が特異なタンパク質(受容タンパク)に結合する。これが刺激となって、ホルモンをDNAから転写して作り出す。オータコイドや、神経伝達物質を作り出す機構も同様で、ある物質がレセプターに結合することによって次の物質が作り出される。また、過剰に作られたときもレセプターが反応して物質の製造を止める。また別の物質が作用しても、製造がとまる。この作用が連続して情報伝達が進んでいく。
4.生体膜の構造と機能について説明しろ。また、膜輸送の概要とNa+,Ca+‐ATPaseによる能動輸送での生体機能について説明せよ。
生体膜はリン脂質を主とする脂質とタンパク質が主に疎水結合で作り出した構造体で、水溶液中で特有の区画を形成するには脂質が不可欠の役割を果たしている。生体膜の基本構造は、脂質二重層モデルであるとされている。さらに重要なことは、生体膜に多くの反応系の因子が組織的に濃縮・配列されており、分散系(水溶液)では期待できない高い効率と特異性で、細胞の持つ重要な働きの多くを担っている。
生体膜はその区画に必要な物質を取り入れ、不要なものを排出する輸送の能力を持つ。膜の一方から他方への輸送に伴う自由エネルギー変化(ΔG)は、その溶質の濃度比、およびそれが電解質である場合は膜に生じている電位(電気化学ポテンシャル)の双方に依存する。ΔG<0で、溶質分子またはイオンを濃いほうから薄いほうへ輸送するものを受動輸送、その反対にΔG>0で溶質の濃度差と電気化学ポテンシャルに逆らう輸送では自由エネルギーの投入と共役しなければならず、能動輸送という。受動輸送は、さらに非特異的に膜を透過する単純拡散と、特異的キャリアタンパクまたはチャネルを介する仲介拡散に分類される。仲介拡散では膜両面の濃度差が小さい場合でも単純拡散に比べて輸送速度は著しく高く、濃度差が大きいと最高速度に達する。キャリアあるいはチャネルが透過物質に対して特異的で、その特異的な相互作用の形でのみ膜を通過するからである。
動物細胞で細胞内のK+濃度を高く、Na+濃度を低く保つ上で、重要なタンパクもATPのエネルギーを利用するので、Na+/K+輸送ATPaseと呼ばれる。動物細胞の形質膜で生じるイオン濃度勾配は、細胞容積を維持し、糖やアミノ酸などの能動輸送を可能にする。このATPaseはATPが酵素タンパクのアスパラギン酸残基をリン酸化することで、酵素分子の立体構造を変え、膜の内側から外側へNa+を3個排出し、逆に脱リン酸化による立体構造変化によりK+を取り込ませる。
5.語句説明
アロステリックタンパク質…アロステリックエフェクターによって機能の制御を受けるタンパク質の総称。代謝機能、転写調節、細胞運動、シグナル伝達など多彩な細胞機能に関与する。例をあげると解糖系を律速するホスホフルクトキナーゼは、触媒部位に結合した基質のフルクトース6-リン酸が対称位置のプロトマーと相互作用することでホモトロピックに安定化される。基質が離れると低親和性で安定な形状に変わるが、正のエフェクターのADPはこの変化を妨げる。
アイソザイム…イソ酵素とも言う。同一個体中に同一化学反応を触媒する酵素が複数存在する時、それらを当該酵素のアイソザイムと定義する。例をあげると動物の乳酸デヒドロゲナーゼは、2種類のサブユニット(M型、H型)からなる4量体酵素であるためM4、M3H、M2H2、MH3、H4の組成を持つ5種類のアイソザイムを生成する。これらの量比は組織によって異なり、骨格筋ではM4、心筋ではH4がそれぞれ大部分を占める。一般にアイソザイムは基質との反応性、生産物阻害やアロステリックエフェクターの作用に対する感受性などの点で相互に異なり、細胞や組織ごとに異なる生理的条件にもとづく代謝上および代謝調節上の要求を満たすことが出来るようにその量比が調節されている。
フィードバック阻害…一連の酵素反応系でこの代謝系の最終産物がはじめの段階を触媒する酵素を阻害し、全体の反応を抑制すること。代表例は、大腸菌でイソロイシンやトリプトファンの合成系オペロンの転写がこれらのアミノ酸で抑制され、その前に合成されたmRNAが崩壊しても、合成酵素群は存在していてアミノ酸を作り続ける。このような過剰生産を阻止するためにイソロイシンがトレオニンデヒドラターゼを阻害し、ソレオニン→2-オキソ酪酸反応が停止して、それに続くイソロイシン合成の4反応も進行しなくなる。トリプトファンもコリスミ酸→トリプトファン合成経路のフィードバック阻害する。
ヒートショックプロテイン…細胞が産出するストレスタンパク質の1種で、筋細胞に熱ストレスを加えるタンパク質。このタンパク質が増加すると筋繊維の損傷が抑制され、筋肉痛が抑制される可能性があると考えられている。
免疫と抗体抗原反応…免疫とは体内に侵入した外界に由来するタンパクや糖など外来異物を排除する反応とされている。生体が外来異物の侵入を拒む機構は、自然免疫と獲得免疫とがある。自然免疫は生体が本来持っている皮膚のような物理的機構や食細胞や体液中の種々の分子によるもので、獲得免疫とはそれを誘導または活性化した物質に特異的なもので、異物にさらされることによって誘導または活性化される機構である。
抗原抗体反応とは、抗原と特異的抗体間の相互作用で、抗原決定基と抗体活性基との間には結合親和性がある。抗体分子は2価または多価の結合基を持ち、多価の抗原と結合して複合体を作り、可溶性抗原では抗体との混合比が最適であれば沈降反応となり、細菌、赤血球など粒子状抗原では凝集反応となって観察される。
筋肉収縮…アクチンとミオシンの両フィラメントの相対的な滑り運動である。ミオシンがモーターであり、アクチンがレールである。すべりの方向はアクチンフィラメントの方向性によって規定されている。骨格筋や心筋では筋原繊維内のアクチンとミオシンフィラメントが一定の空間的配置をとっている。サルコメアの中央に位置するミオシンフィラメントへその両側からアクチンフィラメントが滑り込む。そのためサルコメアノ長さが短縮する。エネルギーはミオシン頭部のATP分解反応によってまかなわれる。筋細胞膜が興奮すると筋小胞体からカルシウムイオンが放出され、トロポニンと結合してアクチンを活性化してミオシン頭部との反応を開始させ、滑り運動が起こる。カルシウムイオンが小胞体に回収されるとアクチンは不活性化し、弛緩する。
ドリコールリン酸…主として動物細胞に分布している微量膜リン脂質の1つで、ドリコールの末端アルコール基がリン酸化されたもの。単糖類がエステル結合したドリコールリン酸マンノースならびにドリコールリン酸グルコースは、糖タンパク質のアスパラギン結合型糖鎖生合成の糖脂質中間体であるドリコールリン酸オリゴ糖に、粗面小胞体内腔においてマンノースやグルコースを転移する際の糖供与体基質となっている。
モノクローナル抗体…単クローン抗体とも言う。単一クローン抗体産生細胞が分泌する抗体。ただ1つの抗原決定基を認識する抗体であり、一次構造が均一である。
UDP-糖…ヌクレオシド二リン酸の一種で、糖の合成反応での主役である。グルコース-1リン酸とUTPの反応で作られるUDPグルコースは、グリコーゲン合成の基質だが、デヒドロゲナーゼの作用で酸化されると、UDPグルクロン酸を生じる。
CDP-DG…シチジン5’-二リン酸(CDP)に1,2-グリセロールが結合したもの。動物細胞膜リン脂質合成に関与している。
GTP…グアノシンのリボースの5’位ヒドロキシル基に3分子のリン酸が連続してエステル結合したヌクレオチド。GTPはGTP結合タンパク質に結合して細胞外からのシグナル伝達に寄与する。真核細胞内チューブリンが重合して微小管を形成する際、GTPの結合が必要である。ピルビン酸からグルコースを生合成する糖新生の際にも利用される。
6.タンパク質消化による生体内酵素の活性化機能について例をあげて説明せよ。
分泌されてすぐのタンパク質分解酵素は、チモーゲンという活性のない前駆体状態で分泌されるが、水素イオンやタンパク質分解酵素による限定分解によって立体構造が変化し、活性のあるタンパク質分解酵素になる。
胃でタンパク質を分解するペプシンはペプシノーゲンという活性のない状態で分泌されるが、胃酸に含まれる水素イオンによってN末端から6番目のLysと7番目のIleの間を切り、立体構造を変化させて活性のあるペプシンになる。
トリプシンの場合は、初め活性のないトリプシノーゲンという形で分泌されるが、十二指腸でエンテロペプチダーゼのさようで限定分解され、N末端から7番目のペプチド結合が切断され、活性のあるペプシンになる。 この他キモトリプシンやエラスターゼ、カルボキシペプチダーゼはトリプシンによる限定分解で、活性状態になる。
チモーゲン |
作用物質 |
活性型 |
ペプシノーゲン |
水素イオン |
ペプシン |
トリプシノーゲン |
エンテロペプチダーゼ |
トリプシン |
キモトリプシノーゲン |
トリプシン |
キモトリプシン |
プロエラスターゼ |
トリプシン |
エラスターゼ |
プロカルボキシペプチダーゼ |
トリプシン |
カルボキシペプチダーゼ |
7.遺伝子の転写レベル及び翻訳レベルでの制御機構を説明せよ。
転写制御…遺伝子の転写レベルが状況に応じて必要な水準に調節されること。原核生物、真核生物ともに転写量の違いはプロモーター構造の違いと転写調節配列の種類とその組み合わせの違いにより起こる。転写の調節はそれら転写のシスエレメントに結合する因子の活性の強弱により決定される。転写調節因子は基本転写装置と相互作用することができ、基本転写因子の活性化やRNAポリメラーゼの安定化というステップを経て、転写効率の調節を行う。真核生物では遺伝子が発現するかどうかの第一歩は、クロマチン構造が解放されているかどうかで決められると考えられる。転写調節は転写の伸長過程でも起こり、伸長因子がRNAポリメラーゼに結合して機能を発揮する。転写調節に関連する因子は他の因子と結合したり、あるいはシグナル伝達経路の標的となり、リン酸化などの修飾を受けることによってその活性を変化させている。以上のように遺伝子の転写レベルは複数の段階、複数の因子によって調節されている。
翻訳調節…ある遺伝子の発現がmRNAからタンパク質へ翻訳される段階で調節されること。質的な調節と量的な調節がある。〔1〕質的な調節として3つのものがある。1)リボソームフレームシフト:リボソームが翻訳の途中で異なるフレームにある遺伝子にシフトして翻訳を続ける。その結果2つのフレームの融合タンパク質が作られることになる。フレームシフトの頻度はmRNAのもつフレームシフトの塩基配列とその後に続くRNAの二次構造に左右される。HTLV-1の逆転写酵素のようにリボソームフレームシフトを2回行って初めて作用するような翻訳調節もある。フレームのシフト方向はレトロウィルスでは−1、細菌では+1のシフトが多い。2)翻訳抑制:サプレッサーtRNAによる調節が知られている。この場合翻訳調節を受ける遺伝子は翻訳調節を受ける遺伝子は翻訳途上にある遺伝子のmRNAとフレームは同じで、終止コドンにサプレッサーtRNAが働いて両者の融合タンパク質が翻訳する。マウスのレトロウィルスが逆転写酵素を生成する際の翻訳小説で見つかった。3)IRES:キャップ構造を持たないmRNAでは5’側に近いコドン(AUG)は必ずしも翻訳の開始コドンにならない。IRESと呼ばれる複雑な二次構造をもつRNAとなり、その後のAUGが開始コドンになって翻訳される。ポリオウィルス、植物ウィルスなどのウィルスのほか、熱ショックタンパク質、ショウジョウバエの分化に関するmRNAなどで見られる翻訳機構である。〔2〕量的な翻訳調節としては、次のような例が知られている。原核細胞ではRRFが翻訳量を規制している。またポリシストロン遺伝子ではtRNAにより後部シストロンの翻訳量が規制される。一方真核細胞ではフェリチンmRNAのように鉄イオンの増加によって翻訳抑制タンパク質が鉄と結合して翻訳量が増加する例も知られている。受精卵内のmRNAの翻訳量はカルシウムウェーブに依存している。酵母のGCN4遺伝子ではmRNAに翻訳のエンハンサー部位があり、ここにタンパク質が結合して下流の翻訳量が促進される。より上流で翻訳されたペプチド量も完全遺伝子産物量に影響する。また3’非翻訳領域の塩基配列によってmRNAの安定性が規制されており、特にこの部位のAUに富むmRNAは不安定でその結果として翻訳量が限られる。
8.酸素障害、光障害、薬物障害の防御について説明せよ。
酸素障害防御…好気生物にとって酸素は生きていく上に不可欠だが、非常に危険な物質である。例えば多不飽和脂肪酸は非酸素的にヒドロペルオキシ脂質に酸化され、さらに分解して、スーパーオキシドというラジカルイオンを生じる。そのほか様々な過程でスーパーオキシドが発生する。これを防ぐために生体にスーパーオキシドジムスターゼがあり、速やかにスーパーオキシドを過酸化水素に分解する。過酸化水素はカタラーゼの作用で完全に無毒化される。
スーパーオキシドジムスターゼ
2O2−+2H+→H2O2+O2
カタラーゼ
2H2O2→2H2O+O2
光障害防御…DNAが紫外線に照射されるとチミン二量体が形成され、これはその部位でのDNA合成を妨げる。このとき特異的なエンドヌクレア−ゼがチミン二量体を認識して、その付近のDNAを切断する。するとDNAポリメラーゼTが5’→3’エキソヌクレア−ゼとして働き、障害を受けた部位を取り除くと同時にDNA鎖を延長させ、もとの塩基対を復活させる。最後にDNAリガーゼがギャップを埋めれば、元通りのDNAとなる。
薬物障害防御…細胞にとって薬品は異物であり、長期間残存していては有害である。蓄積させないよう少しずつ排出させる必要があり、排出しやすい分子に変えるのは肝臓である。肝ミクロソームのシトクロムP450と総称される一連の酵素によりヒドロキシ化される。P450はヘムタンパクで、ミクロソーム電子伝達系でNADPHから供給される電子を使い、基質(RH)をO2でヒドロキシ化する。この電子伝達ではミトコンドリアとは違いATP生産と共役しない。
RH+NADPH+H++O2→ROH+NADP++H2O
基質の種類に応じてP450がある。例えば睡眠薬フェノバルビタールを服用すると、これをヒドロキシ化するアリールヒドロキシラーゼが誘導される。ヒドロキシ化された誘導体は水溶性のグルクロン酸抱合体や硫酸エステルに変えられ、尿より排泄される。グルクロン酸抱合体はUDPグルクロン酸からの転移反応で作られる。しかしベンゾ〔α〕ピレンはP450系でエポキシ化されると、解毒の逆で発がん物質に変身する。
9.窒素サイクルの概要を説明せよ。また生体内の尿素合成経路を説明せよ。
窒素サイクル…生物が死ぬと細胞成分は分解する。タンパク質はアミノ酸に分解され、さらにグルタミン酸デヒドロゲナーゼやアミノ酸オキシダーゼなどの作用でNH3またはNH4+を遊離する。土壌にはNH4+を亜硝酸イオンに酸化するNitrosomonas、亜硝酸イオンを硝酸イオンに酸化するNitrobactorが活躍し、NH4+は速やかに硝酸イオンになる。これを硝化という。
NH4++3/2O2→NO2−+H2O+2H+ G0′=−275kj/mol
NO2−+1/2O2→NO3− G0′=−74kj/mol
これらの菌はCO2から糖を、糖から生体成分を合成する。糖の合成経路はカルビン‐ベンソン回路と大差ないが、エネルギーは光ではなくNH4+の酸化反応で供給される。このようにこれらは簡単な炭素源や窒素源から体成分を合成する独立栄養生物である。植物や微生物が硝酸イオンや亜硝酸イオンを吸収すれば、再びアンモニアに還元した後体成分の合成に使う。これを同化的硝酸還元という。またある種の土壌細菌は酸素の変わりに硝酸イオンや亜硝酸イオンを酸化剤として有機分子を酸化してアンモニアを生じてATPを生産する。これを異化的硝酸還元または硝酸呼吸という。ある種の細菌は亜硝酸の還元で窒素を生じ、大気に戻す。これを脱窒という。こうして窒素原子は地球を循環する。これが窒素サイクルである。
尿素サイクル…アミノ酸などの窒素酸化物が分解されると、アミノ基から有毒なアンモニアが生成する。アンモニアの一部はグルタミン酸デヒドロゲナーゼの作用で2‐オキソグルタル酸に移り、グルタミン酸として再利用されるが、残りは肝臓の尿素サイクルという代謝経路で毒性の低い尿素に変えられてから血液で腎臓に送られ、尿中に排泄される。尿素サイクルはサイドゾルとミトコンドリアの共同作業で、最初に@アンモニアがミトコンドリアで2個のATPを消費して二酸化炭素と結合し、カルバモイルリン酸となる。 Aオルニチンと結合してシトルリンになってサイドゾルに抜け出す Bもう1個のATPを消費してアスパラギン酸と反応する Cアルギニンに姿を変えてから Dあるギナーゼの作用で尿素になる。このときオルニチンが再生され、オルニチンはミトコンドリア膜上の輸送タンパクにより、ミトコンドリア内に戻る。アンモニアの廃棄の方法は動物の生活環境(特に水の量)に反応しており、陸上動物は尿素、水の少ない環境に住む陸上ハ虫類や鳥類は水に溶けにくい尿酸、水に住む魚類はアンモニアのままで排出する。
10.生体内におけるオリゴペプチドおよびタンパク質の生成機構を説明せよ。
タンパク質の生合成は多数の因子関与のもとに保存されているDNA情報を正確に翻訳して所定のタンパク質として表現する。細胞内では膜結合型あるいは遊離型リボソーム上で行われている。 1)反応の第一段階はアミノ酸の活性化段階であり、20種のアミノ酸が各アミノ酸に特異的に対応するtRNAの3’末端のリボースにエステル結合で結合し、アミノアシルtRNAとなる段階である。 2)第2段階はDNAのもつ情報を転写することにより生じたmRNAがリボソームと結合し、開始複合体を形成する。この段階にはメチオニルtRNA、あるいは多くのポリペプチド鎖開始因子、GTP,Mg2+などが関与し、さらにATPも関与する。 3)第3段階はmRNAのコードする遺伝暗号にしたがってペプチド鎖が伸びていく段階であり、ポリペプチド鎖延長因子、GTP,Mg2+の存在下に遺伝暗号はアミノアシルtRNAの示すアンチコドンの塩基対を介してアミノ酸の配列順序に翻訳され、リボソームサブユニット中に存在するペプチジルトランスフェラーゼの作用でペプチド結合を形成し、ペプチド鎖が順次結合していく。この段階で、ペプチドが数個結合したオリゴペプチドが形成される。 4)第4段階はペプチド鎖合成が終了する段階である。第3段階でペプチド鎖が順次延長し、mRNAの示す暗号が終止コドンに達するとポリペプチド鎖終結因子の作用で新生ポリペプチド鎖はtRNAから切離され、リボソームから遊離する。 1)〜4)の過程を通じてmRNAは5’→3’方向に読み取られ、またペプチド鎖はN末端→C末端の方向に合成されている。リボソームから遊離した新生ポリペプチド鎖は種々の修飾を受け、完成したタンパク質になるが、これにはN末端の何個かのアミノ酸の除去およびN末端アミノ酸のブロック、S‐S結合の新生による分子架橋、リン酸化、メチル化、グリコシル化、さらには特異的ペプチダーゼによる分解、他のポリペプチド鎖との会合などが含まれる。
11.脱アミノ反応、アミノ基転移反応について説明せよ。
脱アミノ反応…アミノ基の切断を伴う生化学反応。酸化的反応と非酸化的反応に大別され、主な様式は、〔1〕酸化的反応:アミノ基が酵素的に脱水素されて生じたイミノ基の加水分解によるアンモニアの生成。(例;グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、モノアミンオキシダーゼ) 〔2〕非酸化的反応:1)脱離反応によるアンモニアの有利と二重結合の生成。(例;ヒスチジンアンモニア‐リアーゼ)、 2)アミノ基加水分解反応(例;アデノシンデアミナーゼ、グルタミナーゼ)、 3)酵素的脱離反応で生じた中間体イミノ基の加水分解(例;L-セリンデヒドラターゼ)、 4)アミノ基転移反応における供与体からのアミノ基切断(例;アラニンアミノトランスフェラーゼ)。
アミノ基転移反応…一般的にアミノ酸のアミノ基をケト酸に転移する反応で、炭素骨格はエネルギー源に、アミノ基は尿素に代謝される中心的な反応である。多くのアミノ酸のアミノ基はこうしてグルタミン酸に集められる。また逆にケト酸にアミノ基を供与し種々の非必須アミノ酸を形成することもできる。これらのアミノ酸形成と分解はアミノトランスフェラーゼによって行われ、これら酵素量はタンパク質摂取量、ホルモンにより変動する。
12.可欠アミノ酸と不可欠アミノ酸の構造と意味を詳記せよ。
不可欠アミノ酸…動物の正常な成長や窒素平衡の維持に必要な量が生合成されないため、食物などの形で外界から摂取する必要のあるL-アミノ酸。成人では、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリンの8種類。乳児や成熟ラットではヒスチジンが加わり、成長期のラットにはさらにアルギニンが必要とされる。フェニルアラニンやメチオニンは代謝経路より、それぞれの需要の一部をチロシン、システインによって代用できる。タンパク質栄養の観点からは摂取量とともに、各必須アミノ酸の摂取割合が重要となる。
可欠アミノ酸…不可欠アミノ酸とは異なり、アミのトランスファーゼによるアミノ酸の生合性で必要量がまかなえるアミノ酸。成人では不可欠アミノ酸の残りの12種類のアミノ酸。
13.DNAとRNAの分解機構について述べよ。
核酸の分解はヌクレアーゼと呼ばれる酵素によって行われる。ヌクレアーゼのうち核酸を分解するときに、鎖の途中を切断する酵素をエンドヌクレアーゼ、端から1個づつ切り離していく酵素をエキソヌクレアーゼと呼ぶ。これらのヌクレアーゼのうち、DNAだけを加水分解するものをデオキシリボヌクレアーゼ(DNアーゼ)、RNAだけを加水分解するものをリボヌクレアーゼ(RNアーゼ)という。DNAとRNAの両者を分解するものは単にヌクレアーゼと呼ばれる。ホスホジエステル結合が加水分解するときには酵素の特異性によって5’位にリン酸基が残り3’位にヒドロキシ基が生じる場合と、逆に3’位にリン酸基が残り5’位にヒドロキシ基が生じる場合がる。エキソヌクレアーゼにはほとんど塩基特異性がないが、エンドヌクレアーゼには塩基に非特異的なヌクレアーゼと、ある塩基あるいは塩基配列を認識して核酸中の特異的な部位のみを切断するヌクレアーゼの2種類がある。例えば、RNアーゼT1はグアニル酸の3’側のみで切断するので、生じたオリゴヌクレオチドの3’末端はGpである。RNAそれ自身でRNアーゼ活性をもつものも見出された。
14.DNAとRNAの合成機構について述べよ。
DNAの合成…DNAの合成には多くの酵素が必要である。大腸菌の場合では20種もの酵素が見つかっている。複製の開始や鎖の延長反応において、ちょうど複製が起こっている複製フォーク部位では二重らせんがほどける必要があり、そのためにはその部位で鎖の回転が起きなければならない。これにはDNAトポイソメラーゼという酵素が関与する。その1つであるスウィペラーゼはその部分のDNAの巻ほぐしを触媒するが、それにはDNAのホスホジエステル結合の切断と再合成が共役して起こることが必要で、37℃で4000〜5000回/minも回転が起こる。DNAジャイレースという酵素はATPの分解と共役して、完全に閉環してスーパーコイル構造をとるDNAにねじれを入れることを触媒する。のボビオシンという抗生物質はこの酵素を特異的に阻害し、同時に複製も阻害するので、DNAのスーパーコイル構造が複製に重要な働きをしていることが示されている。
RNAの合成…RNAの合成はRNAポリメラーゼという酵素によって行われる。原核生物のRNAポリメラーゼは、RNA合成を担うコア酵素と、プロモーターを認識するσサブユニットからなる。コア酵素とσサブユニットの複合体をホロ酵素と呼び、ホロ酵素だけがプロモーターからの正しい転写をする。コア酵素はα2ββ’のサブユニット構造をもち、RNA合成の触媒活性中心はβサブユニットにある。サブユニットはα2→α2β→α2ββ’(非活性未熟コア酵素)→活性コア酵素の経路で集合する。一方σサブユニットには、プロモーター認識特性の異なる多型成分がある。一群の遺伝子の転写は転写因子によって亢進または抑制され、正の調節または負の調節と呼ばれる。転写因子はDNAに結合し、その構造変換を介して転写を制御するか、またはRNAポリメラーゼに直接作用し、その活性やプロモーター認識特性を制御する
15.HAT培地を用いたハイブリドーマ細胞の選別機構について説明せよ。
ハイブリドーマ細胞とは雑種細胞のことであり、基礎的な解析上で有用なものであるが、出現頻度が低い。その取得方法の1つが多くの細胞の中から雑種細胞を選び出す方法で、ヌクレオチド生合成系酵素の突然変異を利用する。プリン合成サルベージ経路の酵素HGPRTをもち、チミジンをリン酸化する酵素TKをもたない細胞と、逆にTKをもち、HGPRTをもたない細胞が、それぞれ単独ではHAT培地に生育できないが、雑種細胞になれば生育できることを応用する。
16.脂肪酸の合成系、リン脂質とTGの合成系について説明せよ。
脂肪酸の合成系…脂肪酸の合成系では多くのステップを繰り返すが、動物組織では脂肪酸シンターゼという多酵素複合体の中に必要な全酵素と補因子がセットされている。@アセチル-CoAのアセチル基が脂肪酸シンターゼ複合体(E)のACPに結合した後、A同じ複合体のSys側鎖SH基に移ってアセチル‐S‐Cys‐Eを形成する。ACPはCoAと同様にホスホパンテテイン基もち、アシル基を結合する小タンパクだが、独立タンパクではなく脂肪酸シンターゼ複合体の一部をなす。Bマロニル‐CoAのマロニル基がACPに乗り換えて、マロニル‐ACPを作ると、Cアセチル‐S‐Sys‐Eのアセチル基がマロニル‐ACPのCO2を飛ばし、縮合してアセトアセチル‐ACPを形成する。DNADPHによる還元で3‐ヒドロキシブチリル‐ACPを作り、E脱水反応で二重結合を持つブテノイル‐ACPとする。Fこれを再度NADPで還元しブチリル‐ACPとする。Gここでブチリル基が複合体のSH基に移ってブチリル‐S‐Sys‐EすなわちC4‐脂肪酸の誘導体を作るのが1サイクルである。この先は再びBマロニル‐ACPの形成Cブチリル基とマロニル‐ACPの脱炭酸を伴う縮合、D還元、E脱水、F再還元に続き、G複合体のSH基に乗り換えてC鎖を2個延ばし、C6のヘキサノイル‐S‐Sys‐Eを作る。同様の反応サイクルを繰り返し、C16のパルミトイル‐ACPまで鎖長が延びると、加水分解でパルミチン酸を生じる。こうして原料のアセチル‐CoAとマロニル‐CoAを与えれば、パルミチン酸ができる。
17.脂質代謝に関する肝臓の機能を上げよ。また肝臓の脂肪量を左右する因子を上げ説明せよ。
心筋や骨格筋はエネルギー源としてグルコースのほかにアセト酢酸や3-ヒドロキシ酪酸も利用する。脳もグルコースの供給が不足すると3-ヒドロキシ酪酸を利用する。肝臓はこれらの酸を合成するが、代謝はしない。アセト酢酸は、アセトアセチルCoAからできる。アセトアセチルCoAは脂肪酸のβ酸化とは別に肝ミトコンドリアのマトリクスにあるアセチルCoAアセチルトランスフェラーゼの作用で2個のアセチルCoAが頭と尾で縮合して合成される。肝ミトコンドリアにはアセトアセチルCoAを3-ヒドロキシ-3メチルグルタリル‐CoA(HMG−CoA)を経て、アセト酢酸に変える酵素やアセト酢酸をNADHで3-ヒドロキシ酪酸に還元する酵素がある。アセト酢酸の一部は非酵素的に脱炭酸してアセトンになる。アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトンの3者をケトン体と称する。
肝臓の脂肪量の調節因子としてはケトン体が上げられる。即ちケトン体は重要なエネルギー源であるため、血液中のケトン体濃度が低い場合は、エネルギーが不足した状態となり、肝臓での脂肪酸の生成が促進される結果ケトン体濃度は上昇する。逆に高濃度の場合は、肝臓での脂肪酸生成が抑制され、結果的にTG(中性脂肪)が蓄積される。
18.コレステロールの生合成系を説明せよ。また、生体内コレステロールの主な代謝経路を説明し、その代謝産物の機能について説明せよ。
コレステロールの生合成…コレステロールの生合成経路では、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA(HMG-CoA)がメパロン酸に還元される反応が開始過程となる。この反応を触媒するHMG-CoAレダクターゼは、食餌中のコレステロールによって、その活性とその生合成の双方が抑制される。HMG-CoAと構造が一部類似している抗生物質コンパクチンは、この反応を競合阻害するので、高コレステロール血症の治療に有用である。メパロン酸から一部の活性化、縮合および閉環の反応によってコレステロールが生成する。
コレステロールはプロゲステロン、コルチゾール、アルドステロン、テストステロン、エストロンなどの各種のステロイドホルモンの前駆体でもある。各ホルモンはきわめて重要なものであり、それらの合成酵素が1つでも欠損すると、正常な性発育が損なわれるなど様々な先天性症状が現れる。またコレステロールは胆汁酸塩や、カルシウムやリン酸の代謝に必要なビタミンDの前駆体でもある。
ステロイドホルモン名 |
機能 |
プロゲステロン |
子宮粘膜に作用し、卵子着床を可能にする黄体ホルモン |
コルチゾール |
グリコーゲン合成促進、タンパク・脂肪の分解促進するグルココルチコイド |
アルドステロン |
腎臓での各種イオンの再吸収を促進するミネラロコルチコイド |
テストステロン |
男性の二次性徴を発達させる男性ホルモン |
エストロン |
女性の二次性徴を発達させる女性ホルモン |
19.グリオキシル酸サイクルについて説明せよ。
高等植物および微生物に見られる代謝経路。植物種子の発芽時、酢酸を炭素源とする微生物の生育時に誘導され、貯蔵脂肪の利用、C4化合物の生成に寄与する。イソクエン酸リアーゼによるイソクエン酸の開裂、リンゴ酸シンターゼによるグルオキシル酸とアセチルCoAからのリンゴ酸の合成の2反応により、クエン酸回路の脱炭酸過程をバイパスした短絡回路を形成する。この回路の酵素活性はグルオキシソームと呼ばれる細胞小器官に局在する。
20.糖質代謝の概要を説明せよ。
糖代謝は解糖系、クエン酸回路、水素伝達系からなる。
解糖系…無酸素的糖代謝の主要経路で、グルコースまたはグリコーゲンからそのリン酸化中間体を経て、ピルビン酸にまで分解する13種の酵素から形成される酵素系である。1分子のグルコースが2分子のピルビン酸に分割される。反応が行われるときには52kcal/molの自由エネルギーが発生するが、解糖系では2分子のATPが合成される。グリコーゲンから出発した場合は、無機リン酸がホスホリラーゼでグルコース-1-リン酸を形成するため、3分子のATPが形成される。この経路でははじめに2分子のATPを糖のリン酸エステル化に消費し、フルクトースビスリン酸をアルドラーゼで分解する。その後2分子のトリオースリン酸を脱水素する段階で2分子の無機リン酸を結合し、ホスホグリセリン酸キナーゼとピルビン酸キナーゼの段階で合計4分子のATPを得る。この酵素は全てサイトゾルに溶存している。
クエン酸回路…代謝基質をクエン酸を経て最終的に水と二酸化炭素に分解する回路。細胞内の主要な栄養素はまず細胞液で糖、グリセロールはピルビン酸に、脂肪は主に脂肪酸にタンパク質はα-ケト酸にまで分解されてこの回路に入る。そしてその大部分から形成されるアセチルCoAは、クエン酸回路によって炭素部分は脱炭酸され、水素部分は脱水素酵素で主にNADHとしてミトコンドリア内膜の電子伝達系に渡される。この回路はミトコンドリアのマトリクス内に存在するが、コハク酸デヒドロゲナーゼだけはミトコンドリア内膜の電子伝達系に含まれる。回路は、アセチルCoAをオキサロ酢酸と縮合させてクエン酸とし、以後4回の脱水素、2回の脱炭酸を経て、再びもとのオキサロ酢酸を生じる。このオキサロ酢酸を用いて次のアセチルCoAを代謝することができる。この間3種のトリカルボン酸、6種のジカルボン酸を経るために、TCA回路の別名がある。この回路は好気性の異化の中枢回路であって、回路1回路で得られる3分子のNADH2と1分子のコハク酸から11分子のATPを得る。さらにスクニシルCoAシンテターゼの段階でATPに相当するGTPを1分子形成する。一方この回路は同化にも重要な位置を占める。可欠アミノ酸、ヘム合成などの無数の合成反応の基質の供給系となっている。また多くの糖原性物質からホスホエノールピルビン酸を供給して糖新生の出発点となる。
電子伝達系…生体内で基質の酸化還元反応は脱水素、電子伝達、酸素添加の3種ある。この中でエネルギー獲得に関するものは脱水素と電子伝達であって、酸素添加はステロイド合成や解毒に用いられる。電子のみを授受するタンパク質があり、そのうちでヘムをもつものをシトクロムという。シトクロムにはaa3,b,c,c1などがある。ヘムでない鉄を利用する電子伝達体が非ヘム鉄であり、他に銅タンパク質もある。電子伝達系は無数の基質の脱水素で送られてくるHをH+とe−のみを電子伝達体の集合すなわち電子伝達系で酸化する。この電子伝達体は4種の複合体(T,U,V,W)に分かれる。複合体Uは電気化学的プロトン勾配形成はしない。複合体TはFMNと非ヘム鉄を含み、NADHを酸化して補酵素Q(CoQ)を還元する。複合体UはFADと非ヘム鉄を含みコハク酸を酸化してCoQを還元する。こうして生じた還元型のCoQを複合体Vが酸化してシトクロムcを還元する。そして複合体Wすなわちシトクロムオキシダ−ゼが還元型シトクロムcの電子と、H+をO2で酸化してH2Oを生じるのである。CoQは膜脂質に溶けて複合体間の酸化還元を媒介し、シトクロムc は膜間腔の水相に溶けて複合体V,W間の電子を伝達する。
21.デンプンおよびグリコーゲンの代謝(分解系および合成系)に関する酵素の主な調節機構について説明せよ。
筋細胞では血液からグルコースを取り込みヘキソキナーゼでグルコース6-リン酸(G6P)に変えると、これをグルコースに戻せない。ATPに余裕があればG6PからG1Pなどを経てグリコーゲンを合成して貯蔵し、逆にATPの需要が多ければグリコーゲンを分解しG1Pを経て解糖系にG6Pを供給したい。これ調節するのがグリコーゲン分解酵素ホスホリラーゼと、合成酵素グリコーゲンシンターゼである。この両酵素はリン酸基を結合するか、はずすかというリン酸化/脱リン酸の共有結合修飾により調節される。リン酸化型が活性か、脱リン酸型が活性かは各酵素タンパク独自の性質である。ホスホリラーゼはリン酸化酵素(ホスホリラーゼa)が活性なのに対し、グリコーゲンシンターゼは脱リン酸型が活性である。そこで何らかの仕掛けで両酵素を同時にリン酸化型に変えれば合成をつかさどるグリコーゲンシンターゼは不活性となり、もっぱらホスホリラーゼノ作用で分解が進む。逆に両方を同時に脱リン酸すれば、グリコーゲンの分解が抑えられG6Pを原料にせっせとグリコーゲンが合成されるはずである。このかぎを握るのがホルモンである。
多量のATPが必要なとき副腎からエピネフリンというホルモンが分泌され、標的の筋細胞に達し、形質膜を通過してホルモンレセプターと結合してコンフォメーションを変える。コンフォメーションを変えると隣接する不活性型アデニルサンシクラーゼに影響を及ぼしてこれを活性型に変える。この酵素はATPからcAMPを大量生産する。CAMPの役割は不活性プロテインキナーゼAを活性化することにある。CAMPが調節サブユニットと結合して酵素活性を持つ触媒サブユニットを遊離すると多数のホスホリラーゼキナーゼとグリコーゲンシンターゼがリン酸化される。リン酸化されたホスホリラーゼキナーゼはホスホリラーゼbをホスホリラーゼaに変える。こうしてホスホリラーゼとグリコーゲンシンターゼの両酵素が同時にリン酸化される結果グリコーゲン分解系が働き、解糖系に基質が流れ、ATP生産系がフル操業し始める。Gタンパクが結合したGTPを少しずつ加水分解してGDPに変えるとホルモン刺激を受ける前の状態に戻る。
22.ペントースリン酸サイクルの意義について説明せよ。
グルコース代謝経路の1つ。生合成反応に必須の還元力であるNADPH、リボース5-リン酸を他のペントースリン酸の供給を主要な役割とする。グルコース6-リン酸を酸化的に脱炭酸し、リブロース6-リン酸とNADPHを生じる一連の反応と、3分子のペントースリン酸から2分子のフルクトース6-リン酸と1分子のグリセルアルデヒド3-リン酸を生じる可逆的反応からなる。可逆的反応の進行は細胞内のNADP+レベルによって制御されている。
23.糖新生について説明せよ。
乳酸、アミノ酸、グリセロールなどの非炭水化物基質から新たにグルコースが生成されること。脳はグルコースを唯一のエネルギー源とするため、グルコースの絶え間ない供給が必要である。人においては食後2〜3時間は食物中の消化吸収されたグルコースが、次いで肝臓においてグリコーゲン分解により生成されたグルコースが主要な供給源となる。さらに絶食が続くと糖新生が主なグルコースの供給源となり、一晩絶食後では肝臓から供給される35〜60%が、60時間絶食後では95%以上が糖新生による。糖新生で最も重要な基質は乳酸であり、筋肉、赤血球、腎髄質などの末梢組織で産生された乳酸は血流により運ばれ肝臓で取り込まれ、ピルビン酸を経て糖新生経路により、グルコースへ転換される。このグルコースは再度末梢組織で利用され乳酸が生成される。この肝臓と末梢組織の間をグルコースが乳酸を介してリサイクルする過程をコリ回路と呼ぶ。次に必要な基質はアミノ酸、とりわけアラニンである。筋肉で産生されたアラニンは血流により運ばれ肝臓に取り込まれ、アミノ基転移反応によりピルビン酸となり、糖新生経路によりグルコースに転換される。このグルコースは筋肉で再度利用され、ピルビン酸となり、これがアミノ基転移反応によりアラニンとなる。すなわちコリ回路と同様のグルコース‐アラニン回路が肝臓と筋肉の間で仮定されている。もう一つの基質は脂肪組織での代謝産物であるグリセロールで、肝臓と腎臓に存在するグリセロキナーゼによりグリセロール3-リン酸へ転換され、その後酸化されてジヒドロキシアセトンリン酸となり、糖新生経路の終末の段階を経て、グルコースへ転換される。糖新生経路には可逆的経路が多くあり単に解糖系の逆反応ではない。
生化学レポート2
(学生の好意により掲載)
1. 栄養物(糖質、脂質、タンパク質)は、生体エネルギー(ATP)に変換され利用されている。その代謝経路の概要を図示して示し、ATPの生成過程について説明せよ。その際、代謝上で重要なポイントとなる化合物の構造を図中に記入しなさい。
我々が体内に取り込んだ栄養物はそのままエネルギーとして利用されるのではなく、分解されることではじめて生体にとって利用可能なエネルギー(ATP)に変換される。その過程は、@主に腸で糖質、タンパク質、脂質が、それぞれグルコース、アミノ酸、脂肪酸+グリセロールなどの単純な構成物質にまで分解される消化、Aそれらの分解された物質が細胞内でさらに分解され、アセチル-CoAなどのような共通の低分子物質になりTCA回路において完全に分解される異化、Bミトコンドリア内で、アセチル-CoAのアセチル基が完全に分解されることなどで放出される自由エネルギーを、酸化的リン酸化によってATP合成に変換する電子伝達系の3つの段階からなる。
@ の1、糖質の分解
解糖系
グルコースを嫌気的に乳酸に分解する代謝過程。グルコース1分子の分解により乳酸2分子を生じるが、それに伴って2分子のADPとオルトリン酸(Pi)から2分子のATPが生成する。嫌気的条件下における生体のエネルギー獲得反応のもっとも主要なもので、たとえば動物の筋肉の主要エネルギー源である。広義には、解糖は極めて多くの生物による同経路による糖の分解、すなわち嫌気性微生物による種々の発酵や嫌気的な糖分解のピルビン酸生成までの部分を含む。後者ではピルビン酸は脱水素されてアセチルCoAになりクエン酸回路に入ることによって二酸化炭素まで酸化されるが、このとき解糖で生じたものも含めて、呼吸鎖によって酸化されることになる。解糖系酵素はすべ細胞質液部分に存在し、そこで解糖が行われる。
ATCA回路
解糖およびその他の異化作用によって生じたアセチルCoAを完全に水と二酸化炭素に分解する酸化的過程である。この回路で生じるNADH、FAD還元型は呼吸鎖によって分子状酵素で酸化され、糖・アミノ酸・脂肪酸の完全な分解と最大のエネルギーの引き出しが可能になる。クエン酸回路の他の生理的役割は生体構成物質の合成に原料を供給することで、α-ケトグルタル酸はグルタミン酸、スクシニルCoAはポルフィリン、オキサロ酢酸はアスパラギン酸やヘキソース、などの合成の出発物質となっている。クエン酸回路はミトコンドリア内の溶性部分(ミトコンドリアマトリクス)に局在するが、好気性細菌では膜系に存在する。クエン酸回路が1回転するとアセチル基1つが完全酸化される。
B電子伝達系
解糖や脂肪酸の酸化、クエン酸回路で生成するNADHやFADH2は、他の分子に移りやすい電子対を含む高エネルギー分子である。これらの電子が酵素に移ると、多量の自由エネルギーが放出され、そのエネルギーがATP合成に使われる。酸化的リン酸化とは、一連の電子伝達系によりNADHやFADH2からO2へ電子が渡され、その結果ATPが合成される過程をいう。この過程は好気性生物の主要なATP供給源となっている。 酸化的リン酸化の構造は非常に複雑である。ミトコンドリア内膜のタンパク複合体を通って電子がNADHやFADH2からO2へ流れ、その際にミトコンドリアのマトリクスから外へプロトンが汲み出される。結果として、pH勾配と膜の両側の電位差によりプロトン駆動力が生み出され、ATPはプロトンが酵素複合体を経由してミトコンドリアのマトリクス内に戻る際に作られる。このように酸化とリン酸化は、ミトコンドリア内膜を横切るプロトン勾配によって共役している。 酸化的リン酸化において電子駆動力はプロトン駆動力に変換され、次にリン酸化能へと変わる。酸化的リン酸化の第1段階は、電子が駆動する3つのプロトンポンプ、つまりNADH-Q還元酵素、チトクロム還元酵素、チトクロム酸化酵素によって行われる。これらの大きな膜貫通型複合体は、フラビン、キノン、鉄−硫黄クラスター、ヘム、銅イオンといった複数の酸化的リン酸化中心を含んでいる。酸化的リン酸化の第2段階は、ATP合成酵素が進める。この酵素は、ミトコンドリアのマトリクス内に戻るプロトンの流れが動かす、ATP合成のための集合体である。
@ の2、A、脂質の分解
食物から得られる脂質は、胆汁や膵液にによってグリセロールと脂肪酸に分解され、小腸から吸収され門脈から肝臓へ直接運ばれるものもあるが、ほとんどは腸の上皮細胞でトリグリセリドに再合成されコレステロールやリン脂質と共に静脈に入る。その後血中で分解され各組織に送り込まれそれぞれ働く。脂肪酸は肝臓で代謝を受けてアセチルCoAとなってTCAサイクルに入ってCO2とH2Oに分解され高エネルギーを放出する。
@の3、A、タンパク質の分解
食物から摂取したタンパク質は、生体の消化管の中でプロテアーゼの作用によって加水分解され最終的にはアミノ酸になる。 アミノ酸は、α-アミノ基が除去され、残った炭素骨格は主要な代謝産物に変換される。過剰なアミノ酸のアミノ基は大部分が尿素に変換されるが、炭素骨格はアセチルCoAやアセトアセチルCoA、ピルビン酸、あるいはクエン酸回路の中間体のどれかに変換される。従って脂肪酸やケトン体、グルコースはアミノ酸から生成できる。
2. 真核生物の(A) 遺伝子の複製、(B)遺伝子の転写と翻訳について説明せよ。
(A) 遺伝子の複製
遺伝子の本体はDNAであるが、この複製様式は半保存的複製と呼ばれている。これは2本鎖DNAの1本ずつを鋳型として相補的塩基対が形成されることで、必然的にもとの塩基配列と同じものが容易に得られる複製様式である。DNAの複製は染色体のある特定の複製起点から始まり、そこから進行する。DNA複製には三つの明確な段階がある。
@ 複製タンパク質がDNA複製の起点に正しく集合することで複製が開始する。
A 鎖伸長の段階で、複合体が基質ヌクレオチドを伸長中のDNA鎖に取り込む反応を触媒する。これでDNAは半保存的に複製される。
B 最後は複製終結で、タンパク質複製装置が分解され、あたらしDNA分子が分離する。
@大腸菌染色体の複製起点が一個なのに対し、真核生物の染色体ではDNA合成開始の部位がいくつもある。真核生物においては複製フォークの移動が細菌より遅いが、真核生物のDNAに数多くの独立の複製起点が存在しその複製起点は20〜80個の集団(複製単位)として活性化される傾向にあり、S期の間中、当たらしい複製単位が活性化されすべてのDNAの複製が終わるまで続くので、つまり多数の複製フォークが染色体上で独立に働くため大きな真核生物ゲノムでも原核生物のゲノムとほぼ同じ時間で複製が行われる。
ADNAの新鎖の合成は、伸長しつつある鎖の末端にヌクレオチドを次々と付加することによっている。この重合反応はDNAポリメラーゼと呼ばれる酵素によって触媒される。
真核生物(哺乳類)では、DNAポリメラーゼα、β、γ、σなどが知られている。DNAポリメラーゼは5’→3’の方向へDNA鎖を伸長させる特性を持つ。DNAポリメラーゼが複製フォークで働くためには,DNA二重鎖がヘリカーゼで開裂された後,1本鎖DNAを鋳型として,まず開始鎖(RNA primer(最低4〜5個の塩基鎖))が合成される必要がある。このプライマーが基点となって初めてDNAポリメラーゼが働き,新しいDNA鎖(新生鎖)を伸長させていく。プライマーは役目を終えると除去される。ただし,鋳型となる各DNA鎖の方向性は,複製フォークの進行方向に対して,一方が3’
→5’で,他方が5’→3’と逆になっている。従って,新生鎖の方向性は,前者が5’→3’で,後者が3’→5’になる。ところがDNAポリメラーゼは5’→3’の方向だけに鎖を伸長させる酵素なので,5’→3’の新生鎖は連続的に長できるが,3’→5’の新生鎖は連続して伸長できない。それで,新生鎖の複製方法は,連続的複製と不連続的複製(岡崎フラグメントの延長)にわけられる。
連続的複製: ヘリカーゼ(DNA鎖を一本鎖に分離する酵素)によって一本鎖となったDNA鎖のうち、3’ →5’鎖を鋳型にして作られる新鎖(5’→3’)ではDNAポリメラーゼによる伸長方向が複製フォークの進行方向と同一で、DNAポリメラーゼσによって連続的に複製されていく。この新生鎖はリーディング鎖と呼ばれる。
不連続的複製:もう一方の5’→3’鎖を鋳型に合成されるDNA鎖は3’→5’方向になるが,その方向に鎖を伸長させる複製酵素はない。そこで,DNAポリメラーゼが,複製フォークの進行に逆らって,5’→3’方向に鎖を伸長させることになる。そのため,新生鎖の伸長は途中で中断され,短いDNA鎖が不連続(岡崎フラグメント)に合成される。その後,短いDNA鎖が連結されて,新生鎖が完成する。この新生鎖をラギング鎖(遅延鎖)という。以下は,ラギング鎖の詳しい形成過程である
@ ヘリカーゼで分離された5’→3’鎖は結合タンパク質で補強され,安定な状態になる。
A プライマーゼにより,まず,プライマーが5’→3’方向に合成される。
B このプライマーに続いて,DNAポリメラーゼαにより,新生鎖が5’→3’方向に合成され始める。しかし,先に合成開始点となったプライマーの部位までしか伸長できない。このようにしてできた新生鎖の断片は岡崎フラグメントと呼ばれる。
C 岡崎フラグメントの形成が終了すると,別のDNAポリメラーゼにより,先のプライマーが分解されてDNA鎖に置き換えられる。
D 最後に,DNAリガーゼにより,岡崎フラグメントとCで置き換えられたDNA鎖が連結される。
E 以上の反応の繰り返しによって,1本の連続した新生鎖(全体的には5’→3’)になり,複製が完了する。
(B) 遺伝子の転写と翻訳
@転写:
DNAからRNAを合成する段階を転写という。RNAはDNA鎖を鋳型として作られる。。真核細胞では転写因子が遺伝子の上流のエンハンサ領域に結合し,同時に,プロモーターを読み取ることによって転写が開始される。DNAの鋳型鎖の塩基配列を読み取って相補的なRNAを合成する反応(転写)を触媒する中心となる酵素をRNAポリメラーゼという。ヌクレオチド鎖の合成方法はDNAポリメラーゼの場合と似ているが,RNAポリメラーゼがプライマーを必要としない。真核生物には3種類のRNAポリメラーゼ(I,II,III)が存在し、そのうちRNAポリメラーゼIIがmRNAの転写を行う。RNAポリメラーゼIIは少なくとも10種類のサブユニットをもち、さまざまな調節因子と結合して巨大な複合体(ホロ酵素)を形成する。しかし、これらだけでは転写を開始できない。これらの酵素は、それぞれ異なるプロモーターを認識する因子群と結合して基本転写因子(酵素複合体)を形成する。
RNAポリメラーゼT:核小体に存在。18S、5.8S、28S rRNA前駆体を合成する。
RNAポリメラーゼU:核質に存在。mRNA前駆体(hnRNA)の合成を触媒する。
RNAポリメラーゼIII: 核質に存在。snRNA,tRNAと5S rRNAの合成を触媒する。
真核細胞のゲノムDNAにはタンパク質に翻訳されない塩基配列が存在する。このような配列がそのまま写しとられて生じるRNA(hnRNAという)にはタンパク質の一次構造に対応しない配列が存在することになる。このような非コード領域をイントロンと呼ぶ。hnRNAのイントロン部分は後で切り捨てられる。一方,転写されてはmRNAとして残る部分をエキソンという。真核細胞の多くのタンパク質遺伝子のエクソンはイントロンによって分断されている(イントロンは常にGUで始まり,AGで終わる)。
RNAポリメラーゼIIにより核で転写されたmRNAの前駆体(hnRNA)は、次の3つの過程を経てmRNAになる。核内におけるこの3つの過程をプロセシングという。
@ 5'末端にキャップ構造がつく
A 3'末端にポリ(A)鎖がつく
B イントロン部分が切り離される(スプライシング)
@ 転写の開始とともに行われる。ホスホヒドラターゼ、グアニルトランスフェラーゼ、2種のメチルトランスフェラーゼがこの反応に関与する。真核細胞において、キャップ構造は翻訳の開始信号となる。
A ポリ(A)付加信号(AAUAAA)で指令され、ポリ(A)ポリメラーゼと複数の因子により合成される。ポリ(A)鎖はmRNAの安定性や翻訳効率を高める。ポリ(A)鎖の長さは遺伝子により異なり、50〜250塩基である。
B snRNAをもつ6つのタンパク質 (U1-U6)がイントロン部分を正確に切り離し,エクソンを連結する。この反応は加水分解ではなくエステル交換反応を利用するので,エネルギーを必要としない。
A翻訳:
mRNAを鋳型としてタンパク質がつくられる段階を翻訳(translation)という。タンパク質の生合成にはmRNA以外に、トランスファーRNA(tRNA)やリボソームが必要である。
(1) アミノ酸の活性化
アミノ酸が特異的なtRNAの2'または3' 末端にエステル結合する。開始コドン(AUG) に対応する開始tRNA(tRNAfMet)にはメチオニル-tRNAが結合する。
(2) 開始複合体の形成
はじめにMet-tRNAMet・eIFとGTPとが結合した後、40Sサブユニットと複合し、さらにキャップ結合タンパク質(CBP、eIF-4)と40S開始複合体を形成する(CBPは他のタンパク質因子と一緒に、真核生物のmRNAの5’末端7-メチルグアニル酸キャップに特異的に相互作用する)。この40S開始複合体はmRNAに沿って5’→3’方向に開始コドンに到達するまで移動する。開始コドンを見つけると、リボソーム小サブユニットはMet-tRNAiMetがP部位で開始コドンと相互作用できるような位置をとる。 またこの段階でATPの加水分解が行われ、次にeIF2と結合したGTPをeIF5が加水分解することを引き金に60Sサブユニットが加わり、80Sタンパク合成複合体が完成。タンパク質合成を開始する。複合体形成後、解離した開始因子は次の開始複合体形成に用いられ、1本のmRNAには幾つものリボソーム複合体が形成され、ポリソームを形成する。
(3) ポリペプチド鎖の延長
ペプチド鎖の延長では、アミノ酸が1個ずつN末端からC末端の方向につながる。数個のタンパク性延長因子(EF)が関与し、GTPの加水分解がこれに共役する。延長サイクルには、mRNAの次のコドンが指定するアミノ酸を結合したアミノアシル-tRNAがA部位につくことで始まる。鎖延長の過程では、3段階の小サイクルによって、つぎつぎとアミノ酸が延びかけのポリペプチド鎖に付加する。
@ 正しいアミノアシルtRNAがリボソーム複合体のA部位に位置する。
A ペプチド結合を形成する
B リボソームに対し1コドンだけmRNAを動かす。
最初の鎖延長反応の小サイクルでは、開始時に80SリボソームA部位は空で、P部位はアミノ酸結合の開始tRNAが占めている。それぞれの小サイクルの終わりには、P部位のtRNA分子に付着したアミノ酸残基の数は1だけ増える。まずEF-Tu・GTPはアミノアシルtRNAと結合して三連複合体を形成し、リボソームのA部位にはまり込む。アミノアシルtRNAのアンチコドンとA部位のmRNAのコドンとの間に正しい塩基対ができると、複合体は安定化される。するとEF-Tu・GTPがリボソーム上の結合部位および、P部位上のtRNAと接触できるようになる。この接触が引き金となってGTPがGDPとPiに加水分解され、EF-Tu・GDPのコンホメーションが変化して、結合していたアミノアシルtRNAを解離する。
細胞内にあるほとんどすべてのアミノアシルtRNA分子は三連複合体として存在している。EF-Tu・GTP複合体はtRNA分子の三次構造に共通の特徴を認識して、fMET-tRNAfMet以外のすべてのアミノアシルtRNA分子に固く結合する。よってfMET-tRNAfMetは特徴的な二次構造によって、その他すべてのアミノアシルtRNA分子から識別される。F-Tu・GTPアミノアシルtRNA三連複合体はリボソームA部位に自由に入り込むことができる。
(4)
生合成の終了(鎖終結)
mRNAのコドンがUAG,UAA,UGAの場所にくるとこれらのコドンアミノ酸が対応せず、対応するアミノシル-tRNAが存在しない。すると終結因子(eRF)が働いてペプチドとtRNAの間の結合が切断され、ペプチドがリボソームから遊離する。遊離したペプチド鎖のホルミル基をはずせばタンパク合成が完了する。真核生物ではeRFが全終止コドンを認識する。
3. 以下の語句を説明せよ。
1. アノマー
水溶液中では5個以上の炭素を持つアルドースや6個以上の炭素を持つケトースは、分子内へミアセタール結合によってFisherの投影式のような直鎖構造ではなく環状構造をとる。その際、新たに不斉炭素が生じるため2種類の立体異性体ができ、これら異性体をアノマーという。新たに生じた不斉炭素(環状になった単糖でいちばん酸化されている炭素(二つの酸素原子と結合している))をアノマー炭素と呼び、アノマー炭素に、それからからいちばん遠い不斉炭素についている水酸基と同じ向きにヒドロキシル基が結合していればαアノマー、その逆の場合はβアノマーとよぶ。単糖はα-かβ-Dピラノースの形で描かれることが多いが、炭素5個あるいは6個の糖のアノマーは、平衡状態で存在している。
2.へミアセタール
アルデヒド基とアルコール性OH基間で形成されるエーテル結合の一種を、へミアセタール結合といい、そのような結合を持つ物質をヘミアセタールという。形成されたヘミアセタール基の炭素をアノメリック炭素、OH基をアノマーヒドロキシル基とよぶ。
」
3.リボゾーム
rRNA,タンパク質からなり、細胞質およびER(小胞体)にある顆粒で、主にタンパク質を合成する。その存在状態より次の2通りに型わけされる。
@膜結合型(ERに付着) m-RNAの先端部によって形成されるアミノ酸配列(シグナル鎖)がリボゾームから出たときに、そのシグナル鎖が主体となって、リボソームが小胞体膜に誘導され組面小胞体となる。そのリボゾーム自身が使うのではなく、分泌タンパク質としてタンパク質を合成する。
A遊離型(細胞質に散らばっている) m-RNAにシグナル鎖に対応する塩基配列が存在せず、単独でタンパク質を合成し自身でそれを使う。
4. カルニチン
構造式は次のとうり。
脂質代謝において脂肪酸はミトコンドリア内に輸送されるまではエネルギー生成に用いられず、またアシルCoAはミトコンドリア内膜を通過できないので、カルニチンと結合することで内膜を通過できるアシルカルニチンとなる。つまりカルニチンは、内膜通過のために一時的にアシルCoA の代役を果たす担体、脂肪酸のキャリアーとしてはたらいてる。
5.NAD
NAD+の正式名称はニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide)で、補酵素の一種である。各種の脱水素酵素により基質から水素原子1個と電子1個を受け取り、還元型になる(NADの酸化型はNAD+,還元型はNADH) 。
6.FAD
FADの正式名称はフラビンアデニンジヌクレオチド (flavin adenine dinucleotide)である。リボフラビンと2個のリン酸基とアデノシンからなるジヌクレオチド。好気性生物にも嫌気性生物にも広く分布し、FMNと同様に生体酸化における電子伝達に重要な役割を果たしている。すなわちフラビン酵素群の補酵素として働き、基質から電子受容体への電子の伝達に関与する。
7.セントラルドグマ
遺伝子情報の本体であるDNAが鋳型となって相補的なRNA分子のの合成が行われ(転写)、次にこのRNA分子がタンパク質合成の過程(翻訳)でアミノ酸配列を決めるための鋳型となる、といった一連の遺伝情報の流れについての基本概念。
分子生物学のセントラルドグマ矢印は遺伝情報の流れを示す.DNAに存在する遺伝情報が複製の際はDNAへ(円形矢印),遺伝子発現ではRNAに移され,その情報に従って蛋白質ができること,また,蛋白質に流れ込んだ情報は決して核酸側(DNAやRNA)に逆流しないことを教えている
8.エキソンとイントロン
真核生物では、DNA上のRNAに転写される領域の中に実際に翻訳される領域のエキソンと非翻訳領域のイントロンがある。転写終結後の未成熟RNAは、核にいる間にスプライシングによりイントロンが切り出されて、エキソン部分が順序よくつながったが成熟mRNAがつくられる。これは真核細胞の核に存在するスプライソソーム上でおこなわれる。
9.必須脂肪酸
人は体内で糖質・たんぱく質・脂肪から脂肪酸を作ることが出来るが、体にとって必要だけれども、体内で作れない脂肪酸がある。これを必須脂肪酸と呼ぶ。リノール酸・リノレン酸・アラキドン酸等の不飽和脂肪酸がそうで、これは植物性の油脂や魚油に多く含まれている。
必須脂肪酸は、動物の代謝によってプロスタグランジンに転化する。いくつもの種類があり、身体に対する次のようなの生理活性作用を持つ。
・血圧降下 ・血小板凝集抑制 ・腸収縮
・気管支収縮 ・炎症発生に関与 ・血小板凝集を生じる
・子宮への作用 ・血管拡張 ・脂肪組織での脂肪酸遊離抑制、強心
・胃酸分泌抑制
10.必須アミノ酸
生物を構成するタンパク質は20種類のアミノ酸からなっているが、それらのうち動物の体内では合成されないものがある。それが必須アミノ酸である。成人は下の8種のアミノ酸,成長期の幼児では加えてアルギニンもはいる。
アミノ酸名 3 1文字 R
バリン |
Val |
V |
|
ロイシン |
Leu |
L |
|
イソロイシン |
Ile |
I |
|
スレオニン |
Thr |
T |
|
メチオニン |
Met |
M |
|
フェニルアラニン |
Phe |
F |
|
トリプトファン |
Trp |
W |
|
リジン |
Lys |
K |
|
アルギニン |
Arg |
R |
|
生化学レポート3
我々が体内に取り込んだ栄養物はそのままエネルギーとして利用されるのではなく、分解されることではじめて生体にとって利用可能なエネルギー(ATP)に変換される。その過程は、@主に腸で糖質、タンパク質、脂質が、それぞれグルコース、アミノ酸、脂肪酸+グリセロールなどの単純な構成物質にまで分解される消化、Aそれらの分解された物質が細胞内でさらに分解され、アセチル-CoAなどのような共通の低分子物質になりTCA回路において完全に分解される異化、Bミトコンドリア内で、アセチル-CoAのアセチル基が完全に分解されることなどで放出される自由エネルギーを、酸化的リン酸化によってATP合成に変換する電子伝達系の3つの段階からなる。
生物化学課題レポート4
<糖質と脂質の化学>
3.光合成の明反応、暗反応を説明せよ。また、光リン酸化について説明せよ。
光合成は大きく4つの反応系に分けることができる。
@光の吸収:チラコイド膜の膜タンパク質に結合した光の吸収である。クロロフィルはヘムに似た環状化合物であるが、中心にはMg2+があり、中央部の5員環以外にもう1つ5員環がある。吸収された光エネルギーによって、まず電子供与体(緑色植物の場合は水)から無理やり電子を奪い、酸素を発生させる。
2H2O→O2+4H++4e−
そして電子は一次受容体にわたされる。この反応は全てチラコイド膜にある光化学系(photo system)と呼ばれるタンパク質複合体で行われる。
A電子伝達:電子はチラコイド膜にある様々な電子伝達物質を経て最終的な電子受容体通常はNADP+に渡されて、これを還元してNADPHとする。電子の移動と共役して水素イオンがストロマからチラコイド内腔へ輸送される。その結果チラコイド膜を挟んで水素イオン濃度勾配が形成される。
第1・2段階の化学反応をまとめると
2H2O+2NADP+→2H++2NADPH+O2 となる。
クロロフィルの分子構造
BATPの生成:水素イオン濃度勾配に従って水素イオンはチラコイド内腔からストロマへ輸送タンパク質の複合体中を移動する。CF0CF1複合体は水素イオンの移動と共役してADPとPiからATPを生成する。(Piは無機リン酸HPO42− )
H++ADP3=+Pi2-→ATP4−+H2?O
C二酸化炭素の固定:光合成の第2段階と第3段階で生成されたNADPHとATP4−のエネルギーを利用してCO2とH2Oから6単糖合成される。
6CO2+18ATP4−+12NADPH+12H2O→C6H12O6+18ADP3−+18Pi2− +12NADP++6H+
@〜Bまでの反応は全てチラコイド膜のタンパク質によって進められ、直接光エネルギーに依存しているため明反応と呼ばれる。
Cの反応は葉緑体のストロマ可溶性画分に存在する酵素によって行われ、直接には光のエネルギーに依存していないため、暗反応と呼ばれる。
解糖系(glycolytic pathway)と基質レベルのリン酸化
グルコース代謝の最初の段階である解糖でグルコース1分子は3炭素化合物のピルビン酸C3H3O3―2分子に変えられる。これらの反応を解糖系と呼び、この化学反応は細胞質ゾル中で起こり、分子上酸素とは関与しない。解糖の作用は高度に調節されていて、細胞が必要とするATPにちょうど見合うグルコースが細胞内に輸送される。もとの炭水化物と最終産物のピルビン酸の間の代謝中間体の全ては、リン酸化合物である。
グルコース代謝の初期反応の全体の式は
C6H12O6+2NAD++2ADP3−+2Pi2−→2C3H4O3+2NADH+2ATP4− となる。
NAD+・NADP+
基質段階でのリン酸化(substrate-level phosphorylation )
細胞質ゾル中で可溶性酵素によって代謝物質が構造変化を受ける。このリン酸化には2つある。その第1はグリセルアルデヒド‐3‐リン酸デヒドロゲナーゼとホスホグリセリン酸キナーゼによって、触媒される一対の反応によって生じる。第2の反応は発エルゴン反応(exergonic reaction)で、ホスホグリセリン酸キナーゼによってADPに転移され、ATPは生成される。解糖前段階反応でフルクトース1,6‐ビスリン酸1分子は2分子グリセルアルデヒド‐3‐リン酸を生成した。そこでグルコース1分子の分解は2分子のATPを生成したことになる。
5.TCAサイクルと酸化的リン酸化
TCAサイクル(tricarboxylic acid cycle)
この反応系は9つの反応からなる。まずアセチルCoAの炭素2個のアセチル基が4炭素化合物のオキサロ酢酸と結合することから始まる。反応1の産物は炭素原子6個のくえんさんである。反応2と3では単一の酵素アコニターゼによってクエン酸は炭素原子6個のイソクエン酸に異性化される。反応4ではイソクエン酸は炭素原子5個の2‐オキソグルタル酸に酸化される。このとき1分子のCO2が生成され、1分子のNAD+がNADHに還元される。反応5では2‐オキソグルタル酸は炭素原子4個のスクニシルCoAに酸化され、第2のCO2を生じ、またNAD+をNADHに還元する。6〜9までの反応で、スクニシルCoAはオキサロ酢酸に酸化され、最初のアセチルCoAと縮合するのに用いられたのと同じ分子が再生されることになる。同時にFADとNAD+の還元が起こる。スクニシルCoAがコハク酸になるとき(反応6)でGTPの合成が共役する。
O
CH3‐C‐SCoA+3NAD++FAD+GDP3−+Pi2−+2H2O
↓
2CO2+3NADH+FADH2+GTP4−+2H++HSCoA
酸化的リン酸化(oxidative phosphorylation)
電子伝達系の酸化還元反応によって遊離されるエネルギーを用いてADPと無機リン酸からATPを合成する反応。真核細胞内のミトコンドリア内膜あるいは原核細胞の形質膜において見られる。この反応機構は化学浸透圧説で仮定されたように、電子伝達系によって膜の内外にプロトンの電気化学ポテンシャル差が形成され、これを利用してATP合成酵素がATPを合成する。栄養素の大部分は最終的にはTCAサイクルでその水素部分を主としてNADH2の形で電子伝達形に伝えられて酵素で酸化される。
H2O←電子伝達系(シトクロムなど)←O2
↓
電気化学ポテンシャル差(H+濃度勾配+膜電位)
?
ADP+Pi――――――――――――→ATP
↑ ATP合成酵素 ?
生体の活動(筋運動・合成など)
6.脂肪酸のβ酸化(β oxidation)
脂肪酸のβ位が酸化され、炭素数2の単位で脂肪酸の炭素鎖が切断される反応。
ミトコンドリアではまずアシルCoAがアシルCoAデヒドロゲナーゼによる脱水素反応が起き、続いてエノイルCoAデヒドロゲナーゼによる脱水素反応が、そしてエノイルCoAヒドラターゼによる水付加反応、3−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼによる脱水素反応、3−ケトルアシルCoAチオラーゼによるチオール開裂反応によってアセチルCoAと炭素数が2つ少ないアシルCoAとなる反応。
7.ケトン体生成についての代謝と意義
脂肪酸やピルビン酸の酸化に由来するアセチルCoAの一部を遊離のアセト酢酸やD-β-ヒドロキシ酪酸に転化する酵素系を持っている。遊離のアセト酢酸はアセトアセチルCoAから生じ、他のケトン体もアセト酢酸を前駆体する。
アセトアセチルCoAの一部はミトコンドリアのマトリクスで長鎖脂肪酸からアセチルCoA単位が順次酸化的に除去されたあとの4つの炭素原子から生じる。しかしアセトアセチルCoAの大部分は、脂肪酸化で生じたアセチルCoA2分子がアセチルCoAアセチルトランスファーゼにより縮合して生じる。
アセチルCoA+アセチルCoA⇔アセトアセチルCoA+CoA
この反応で生じたアセチルCoAは次いで脱アシル化されてCoAを失い、遊離のアセト酢酸を生じる。この過程はミトコンドリアのマトリクスにある特別な経路で起こる。この反応は結局、 アセチルCoA+H2O⇔アセト酢酸+CoA となる。
このようにして生じた遊離アセト酢酸はミトコンドリア内膜のNAD系D-β-ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼにより、酵素的に還元されD-β-ヒドロキシ酪酸になる。
アセト酢酸+NADH+H+⇔D-β-ヒドロキシ酪酸+NAD+
この酵素は遊離のD立体異性体に特異的である。この酵素はD-β-ヒドロキシ酪酸CoAを還元しない。これらの反応で生じた遊離のアセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸の混合物は肝細胞から拡散して血液に入り、末梢組織に運ばれる。
末梢組織でD-β-ヒドロキシ酪酸は酸化されてアセト酢酸を生じ、次いでサクシニルCoA(コハク酸CoA)からCoAをもらって、アセトアセチルCoAに活性化される。このサクシニルCoAはα-ケトグルタル酸の酸化(トリカルボン酸サイクル)に生じる。これらの反応で末梢組織内に生じたアセトアセチルCoAは次いでオリシス開裂してアセチルCoA2分子を生じ、トリカルボン酸サイクルに入る。
サクシニルCoA+Pi++GDP⇔コハク酸+GTP+CoA-SH
ケトン体生成の意義
β‐ヒドロキシ酪酸はこのようにして全ての組織のトリカルボン酸サイクルで消費されるが、ある条件下での脳での消費はことに著しい。正常化では脳はグルコースのみを消費するが、長時間の絶食時にはグルコースの供給が限られるので、脳は肝臓で生じたβ-ヒドロキシ酪酸を主な燃料源として利用する。これはアセチルCoAに転化し、次いでトリカルボン酸サイクルに入る。
〈タンパク質と酵素の化学〉
1.アミノ酸の一般にもっている化学的性質と化学構造。また一般的な分類。
同一分子内にカルボキシル基とアミノ基を共有する化合物。カルボキシル基が結合している炭素を基準にしてアミノ基が結合している炭素原子の位置により、α、β、γ…アミノ酸と区別する。αアミノ酸はタンパク質を構成する最も重要なアミノ酸で、
「R−CH(NH2)COOH」 の構造式で表される。構造の最も簡単なRがHであるグリシン以外の各アミノ酸は、少なくとも1つの不斉炭素原子をもち、光学的に活性である。グリセルアルデヒドのD,L型構造に準じて、D,L-アミノ酸を区別する。生体内のアミノ酸はほとんどがL型である。アミノ酸は少なくとも2種のイオン化可能な解離基をもつ両性電解質である。通常生理的pHの範囲ではカルボキシル基はプロトンを放出した形で存在し、アミノ基はプロトンを受容した形で存在する。
分類 |
アミノ酸 |
3文字記号 |
1文字記号 |
脂肪族 アミノ酸 |
グリシン |
Gly |
G |
アラニン |
Ala |
A |
|
分枝 アミノ酸 |
バリン |
Val |
V |
ロイシン |
Leu |
L |
|
イソロイシン |
Ile |
I |
|
ヒドロキシ アミノ酸 |
セリン |
Ser |
S |
トレオニン |
Thr |
T |
|
酸性 アミノ酸 |
アスパラギン酸 |
Asp |
D |
グルタミン酸 |
Glu |
E |
|
塩基性 アミノ酸 |
リシン |
Lys |
K |
アルギニン |
Arg |
R |
|
アミド型 アミノ酸 |
アスパラギン |
Asn |
N |
グルタミン |
Gln |
Q |
|
含硫 アミノ酸 |
システイン |
Cys |
C |
メチオニン |
Met |
M |
|
芳香族 アミノ酸 |
フェニルアラニン |
Phe |
F |
チロシン |
Tyr |
Y |
|
複素環式 アミノ酸 |
トリプトファン |
Trp |
W |
ヒスチジン |
His |
H |
|
イミノ酸 |
プロリン |
Pro |
P |
2.アミノ酸・タンパク質の荷電および電気泳動
アミノ酸やタンパク質など様々な粒子は水中にあっては、等電点と言われる特定のpH以外では、プラスあるいはマイナスの状態になっている。このことを荷電と言う。このようなプラスあるいはマイナスに荷電しているアミノ酸やタンパク質に電場をかけると荷電と反対符号の電極に向かって移動する。この現象を電気泳動と言う。問題の電荷は粒子と行動をともにする領域内でのイオンの分布に依存するので、電気泳動する速さは触媒の塩濃度・イオン組成によって大きく左右される。
3.タンパク質のアミノ組成の意義とその分析法
アミノ酸組成の分析法
アミノ酸組成を決めるにはまずタンパク質をアミノ酸まで完全に分解する。これには強酸で全てのペプチド結合を加水分解する。そしてシリカビーズのカラムにこの遊離アミノ酸の混合物を通す。これは液体クロマトグラフィーとして知られている方法である。それぞれのアミノ酸は特定の速さでカラムから流れ出る。カラムからの溶出物を調べればもとのタンパク質に含まれるアミノ酸の種類とその含量を計算することができる。
アミノ酸組成の意義
分子の元素分析と同じようにタンパク質のアミノ酸組成からおのおののアミノ酸がどれくらい含まれているかという情報は得られるが、どんな順序でアミノ酸が並んでいるかは分からない。これに対してタンパク質のアミノ酸配列は指紋のようなもので、タンパク質の個性つまりアミノ酸の並び方がはっきりする。アミノ酸の並び方が分かれば、人工的にタンパク質を生成できることになる。アミノ酸組成は、アミノ酸配列から簡単に計算できる。
4.タンパク質の構造とそれを保持している機構
4つの階層構造がタンパク質の形を決めている。
タンパク質の一次構造(primary structure)とは、ポリペプチドを構成するアミノ酸残基の直線状の並び方。つまり配列(sequence)をいう。タンパク質のアミノ酸配列決定では、タンパク質を構成しているアミノ酸残基の数や並び方、つまり一次構造を決める。
二次構造(secondary structure)はポリペプチド鎖の一部分の局所的な組織化のことを言う。1本のポリペプチド鎖は全てのタイプの二次構造を含みうる。安定化に寄与する相互作用が何もないと、ポリペプチドはランダムコイル(random coil)構造をとる。しかし安定化に寄与する水素結合が残基間にできると、ポリペプチドの骨格構造は、αヘリックス(α helix, らせん状ポリペプチド)かβ鎖(β stand, 引き伸ばされたポリペプチド)という。二つの幾何学的配置のどちらか一方の形に折りたたまれる。 β鎖は横に会合してβシート(β sheet)を形成する。最後にターン(turn)は4残基でできたU字型のこうぞうで、Uの腕の構造で、Uの腕の間の水素結合で安定化されている。ターンはタンパク質の表面にあって、ポリペプチド鎖の向きを転換させる。
次の階層は三次構造 (tertiary structure) で、アミノ酸残基の三次元的な配置をいう。水素結合で安定化されている二次構造に対して、三次構造は非極性側鎖の疎水相互作用で形成される。αへリックスやβ鎖、あるいはランダムコイルは疎水相互作用で集合して、堅く詰まったタンパク質内部を構成する。タンパク質の大きさや形は、アミノ酸配列だけでなく二次構造の数、大きさ、配置にもよる。1本のペプチド鎖からできているタンパク質、つまり単量体タンパク質 (monomeric protein) では三次構造が最も高次の階層構造である。
多量体タンパク質 (multimeric protein) は、非共有結合で会合した幾つかのサブユニットをもつ。四次構造 (quaternary structure) は、多量体タンパク質中でのサブユニットの数(量比)やその相対位置を表す。赤血球凝集素は同一のサブユニット三つからなる三量体であるが、他の多量体タンパク質では、同一あるいは違ったサブユニットのいろいろな組み合わせが可能である。しばしば、サブユニットの配置は規則的、対称的である。例えば赤血球凝集素三量体は三回回転対称軸を持っている。
また保持する機構に、立体配置(コンフィギレーション)と立体配座とがある。立体配置とは、立体異性体の置換基の空間配置を指す。そのような構造体の相互転化には必ず1本以上の共有結合を切らなければならない。立体配座とは、分子内の単結合のまわりの回転のために、結合を切らずに自由にいくつもの異なった位置をとりうる置換基の空間は位置を指す。
5.酵素の本体は何か。また酵素の特異性、阻害剤、と阻害機構、酵素反応に及ぼす温度、pHの影響。
酵素とは、生物反応を触媒するために特殊化したタンパク質である。酵素は人工的な触媒剤よりもはるかに高い驚くべき特異性と触媒能を持つ。
酵素の特異性
酵素は基質を選り好みする。この性質を基質特異性という。この性質には程度の差があり、特異性が厳密な酵素はただ1つの物質しか基質にしない。グルコースオキシダ−ゼはグルコースにか作用しないが、へキソキナーゼはそれほど厳格ではなく、グルコース、マンノースなどの幾つかの単糖に作用する。へキソスオキシダ−ゼはさらに特異性がゆるく、単糖ばかりかマルトースなどの二糖にも作用する。また酵素は光学異性体をも識別することができる。このように酵素が光学異性体を識別できる理由は、酵素が基質分子上の少なくとも3個所と相互作用できるような構造を持っているためである。もしも2個所としか相互作用できなかったら、光学異性体を区別することはできない。
阻害剤と阻害機構
酵素に結合して、酵素の働きを抑える物質があり、阻害剤(inhibitor)とよび、結合したら離れない不可逆阻害剤と結合し離れたりする可逆阻害剤がある。可逆阻害剤にはさらに競合阻害剤と非競合阻害剤とがある。競合阻害剤は基質結合部位に結合して基質が酵素に結合するのを邪魔するのでMichaelis定数(Km)が大きくなる。基質が過剰にあると相対的に影響が小さくなるので、最大速度は変わらない。非競合阻害剤は基質結合部位に結合して酵素の効率を低下させるので、最大速度が低下してしまう。
酵素にもたらす温度・pHの影響
化学反応は温度が高くなればなるほど速く進む。しかし酵素で触媒される反応の場合は温度が上がりすぎるとかえって反応速度が低下するので、最大活性を示す温度があり、最適温度という。これを越えると酵素活性は急激に低下して、やがて全く活性が無くなる。これは酵素がタンパク質であるために、高温では立体構造が壊れて変性し、触媒作用が無くなってしまうからである。大半の酵素の最適温度は50℃付近である。また温度同様pHでも酵素の働きは大きく影響を受け、酵素の活性が最も高いpHを最適pHという。多くの酵素の最適pHは体内環境に適合した7付近で、10以上や4以下では活性が非常に低くなる。しかし例外もあり、胃で働くプロテアーゼであるペプシンは、塩酸を含んで酸性になった胃液の中で働くことができるように、最適pHが2付近である。
6.ミカエリス(Michaelis)定数の理論と測定法
ミカエリス定数(Km)とは反応速度vが最大速度Vの1/2になるような基質濃度(〔S〕)である。つまり基質がこれだけあるというときに、酵素は自己の能力の半分を出して働く。つまり1回働いて1回休むという状態にある。Kmが小さいということは基質が少ないうちからよく働くということであり、Kmが大きいということは基質が多くなければ一生懸命ないと働かないということになる。酵素と基質の組み合わせによりKm値は変わり、Km値が小さいほどその酵素と基質とは相性がよい。つまり酵素に適した基質ということになる。
ミカエリス定数は実験的に決められ、操作的に決められる定数である。つまり反応速度が半最大値のときの基準濃度である。よって理想化した条件ではKmは
Km=k−1+k+2/k+1 と表される。
しかし幾つかの酵素反応ではk−1はk+2と比べて非常に大きく、その場合k+2無視しうるほど小さくなるので、上の式は、
Km≒k−1/k+1 に簡略化される。
7.活性化エネルギー、自由エネルギー、高エネルギー結合
活性化エネルギー(activation energy)
活性化エネルギーとは、化学反応において反応物質(分子)中の(あるいは分子間の)特定の結合を切り、新しい状態に移る(新たな結合を生じる)ためには、当該分子がある量のエネルギーをもった不安定な遷移状態(活性化状態)になる必要がある。この状態と基底状態とのエネルギー差を活性化エネルギー[または活性化自由エネルギー(activation free energy)]という。一般に反応速度が温度の上昇とともに速くなるのは、熱の形でこのエネルギーをえる分子の数が増すからである。触媒は、活性化エネルギーを低下させることにより反応を促進する。
自由エネルギー(free energy)
自由エネルギーとは、熱力学の状態関数の一つ。通常の実験条件下における熱力学的平衡の基準を表す。状態が変化可能な系は平衡に近づくにしたがってエントロピーは極大に、内部エネルギーは極小の方向へと変化していき、系が平衡状態になった時に自由エネルギーが極小値になる。すなはち系の自発的変化は自由エネルギーの極小の方向へと変化する。化学反応においても同様で、化学平衡状態では系の自由エネルギーが極小となる。定圧過程に適したギブズの自由エネルギーと、定容過程に適したヘルムホルツの自由エネルギーがある。
高エネルギー結合(high-energy bond)
生体分子の特定の結合の加水分解反応における標準自由エネルギー変化が大きい場合にその結合を高エネルギー結合と呼ぶ。F.Lipmann によりATPのピロリン酸結合やホスホクレアチンのリン酸結合に対して使われたが、今ではリン酸結合以外にも拡張されている。化学構造としては、ピロリン酸やホスホグアニジン酸以外にアシルリン酸やホスホ硫酸などの混合酸無水物、エノールリン酸エステル、チオエステル、スルホニウムがこの結合を含む。
8.補酵素の例をあげて、ビタミンとの構造上の関連とその役割の説明
補酵素の例として、チアミン二リン酸(TPP)を例にあげてビタミンとの関係とその役割をあげる。TPPはビタミンB1(チアミン)ピロリン酸エステルで、チアミンのチアゾール環が脱炭素酸酵素の補酵素作用を営む。ビタミンB1の欠乏は、糖の代謝異常を引き起こし、血中ピルビン酸濃度が上昇して脚気となる。
この補酵素はピルビン酸をアセチルCoAに脱炭素する反応で利用されるピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の3つの酵素の酵素Tの補因子である。この酵素Tがピルビン酸を脱炭酸する。
9.酵素の分類
簡単な多細胞生物でも、体内ではおそらく数千種以上の酵素が働いている。これらの酵素を分類整理するために、触媒する反応を基準として、大きく6つのグループに分ける。そしてそれぞれをさらに中分類、小分類してゆき最終的に全てのここの酵素を4つの数字コードで区別できるようにしている。
酵素の分類表
酵素の分類名 |
酵素の働き |
酵素の種類の例 |
酸化還元酵素 |
水素、酸素、電子などの移動 |
脱水素酵素 酸化酵素 |
転移酵素 |
基(原子団)の移動 |
アミノ基転移酵素 |
加水分解酵素 |
加水分解 |
核酸分解酵素 |
脱離酵素 |
化合物を二重結合を残した状態で分解 |
脱炭酸酵素 |
異性化酵素 |
異性化反応 |
|
合成酵素 |
ATPの分解によるエネルギーを利用して2分子を結合 |
デンプン合成酵素 |
〈核酸の化学〉
1. 核酸のプリン塩基とピリミジン塩基、ヌクレオシドとヌクレオチドの構造と種類の説明
プリン塩基とピリミジン塩基
プリン、ピリミジンはともに塩基性の含窒素複素環式化合物で、プリン塩基はC5H4N4 の構造を持ち、ピリミジン塩基は C4H4N2の構造を持つ。通常構造式では環のC原子とそれに結合したH原子は、省略する。アデニン(A)は6-アミノプリン、グアニン(G)は2-アミノ-6-オキソプリンの構造を持つプリン誘導体である。一方シトシン(C)は4-アミノ-2-オキソピリミジン、チミン(T)は5-メチル-2,4-ジオキソピリミジン、ウラシルは2,4-ジオキソピリミジンの構造を持つピリミジン誘導体である。
プリン ピリミジン
ヌクレオシド
ヌクレオシドとは、有機塩基成分と糖成分が結合したものである。リボヌクレオシンは、プリン誘導体の9位またはピリミジン誘導体の1位のN原子がリボースの1位原子とβ-グリコシド結合を形成することにより結合した化合物である。プリンのリボヌクレオシドにはアデニントリボースが結合したアデノシン(Ado,A)と、グアニントリボースが結合したグアノシン(Guo,G)があり、オシンで終わる名称をもつ。これに対しピリミジンヌクレオシドには、シトシントリボースが結合したシチジン(Cyt,C)と、ウラシルとリボースが結合したウリジン(Urd,U)があり、イジンで終わる名称をもつ。デオキシリボースを含むヌクレオシドには、デオキシという接頭語を付け、例えばデオキシアデノシン(dAdo,dA)のように呼ばれる。ただしチミンとデオキシリボースの結合で生じるデオキシヌクレオシドのことは、例外的にチミジンと呼んでよい。ヌクレオシド中のC原子の位置番号は糖のものには’をつけ有機塩基成分の原子と区別する。天然の核酸中には、通常のA,G,C,T,Uのほかに、構造の違った修飾ヌクレオシドが微量に含まれている。例えば、グリコシド結合がG−NではなくC−C結合になったものや、糖部分や塩基部分にメチル化を受けたものなどがある。
ヌクレオチド
ヌクレオチドとは、ヌクレオシドの糖成分のOH基とリン酸基がエステル結合したものである。したがって、リン酸基が1個結合したリボヌクレオチドでは、2’、3’、5’の3種の異性体が、デオキシリボヌクレオチドでは3’と5’の2種の異性体が存在する。ヌクレオチドを略号で書くときには、リン酸基が5’基に結合したもの(5’-ヌクレオチド)はヌクレオシド略号の左側に、3’位に結合したもの(3’-ヌクレオチド)は右側にpをつけて示すことに決められている。例えば、アデニンの5’-ヌクレオチドには、AMPのほかにpAという略し方もある。ATPはアデノシンの5’位にリン酸が3個結合したものなのでpppAと略してもよい。
2. 語句説明
セントラルドグマ(central dogma)…遺伝情報の一般原理として唱えられた考え方。すなわちDNAによって担われた遺伝情報は、DNA自身の複製によって、子孫へと維持、伝達されてゆく。その一方で遺伝情報はDNAからRNA、そしてRNAからタンパク質へと伝達、発現していくが、その流れは一方通行であり、いったんタンパク質として発現されると、その情報が核酸に戻されることもなければ、RNAからDNAに戻されることもない。つまり遺伝情報の流れは一方向のみで、逆流することはない。しかし逆転写酵素が存在すると、RNAからDNAという流れが存在する。
DNAポリメラーゼ(DNA polymerase)…EC2.7.7.7.DNA複製においてDNA鎖の伸長を行う酵素。DNAポリメラーゼは5’→3’の方向にのみDNA鎖を伸長するという一般的性質を持つ。大腸菌ではDNAポリメラーゼT・U・Vの3種(真核生物では5種)がある。これらの酵素はいずれもデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)を基質とし、延長しているDNA鎖の3’末端の−OH基にヌクレオチドを結合させる。どのヌクレオチドを結合させるかは鋳型DNAが決める。DNA鎖の延長は5’→3’方向に起き、またすでに合成された鎖の末端にヌクレオチドを付加するが、それ自身でDNA鎖の伸長を開始できず、必ずプライマーを必要とする。この性質をプライマー要求性という。
RNAポリメラーゼ…原核生物のRNAポリメラーゼは1種類で、4個のサブユニットα2ββ’からなるコア酵素と、DNAの転写開始点に結合するσ因子からなる。RNAポリメラーゼがDNAに結合する部位はプロモータ領域である。プロモータは2ヶ所あり、転写開始点の約10塩基上流の−10配列(TATAAT;Pribnowボクッス)と、約35塩基上流の−35配列(TTGACA)である。プロモータ配列が少し変わったり、プロモータ間の距離が変化すると転写効率が変わる。強いプロモータでは2sに1回の割合で転写されるのに対し、弱いものでは10minに1回程度となる。RNAポリメラーゼがDNAに沿って移動、プロモータを認識し、その上のDNA二本鎖をほどく。その数塩基下流のプリン(AまたはG)から合成を開始する。合成されるRNA鎖の5’末端は三リン酸がついたままのpppAまたはpppGである。大腸菌を高温で培養すると異なるσ因子が働き、熱ショックプロモータからの転写で熱ショックタンパク(hsp)がつくられる。
鎖延長が開始するとσ因子はRNAポリメラーゼから離れ、RNA合成はコア酵素により進行する。RNA延長反応では進行方向にDNA鎖をほどきながら進行するが、後ろのDNA鎖は再び巻戻され二本鎖となる。局所的に二本鎖がほどけた部分に転写バルブというRNAポリメラーゼとRNA−DNA混合鎖が複合した構造を形成する。ほどかれるDNA領域は、約17bp、延長反応の速さは約50塩基/sである。RNA合成のエラー頻度は104〜105に1回程度である。RNA合成の終結はRNA−DNA混合鎖が解離し、RNAポリメラーゼガDNAから離れることによって行われる。これはきわめて精密に調節されるが、転写終結にはもっとも単純なGCに富んだ回文領域(ヘアピン構造)に続く数個のU残基による鋳型DNAの配列制御で終結する場合と、ATP分解酵素の1つである終結因子ρ(ロー)因子(タンパク)により終結する場合とがある。
真核生物では3種のRNAポリメラーゼが存在する。RNAポリメラーゼTは核小体に存在し18s、5.8S、28SrRNAの合成を行う。RNAポリメラーゼUとVは核質内に存在する。RNAポリメラーゼUはhnRNAといわれるmRNA前駆体をRNAポリメラーゼVは、snRNA(核内定分子RNA)、tRNA、および5SrRNAの合成を触媒する。転写を開始するためのプロモータ配列は原核細胞と異なり、さらにプロモータ近傍には転写を促進するエンハンサ領域が存在する。
RNAのプロセッシング…tRNAとrRNAのプロセッシング:大腸菌RNAのプロセッシングでは、合成された30SRNAから16S,23S,5SrRNAおよび数種類のtRNAがRNアーゼVの働きによって切り出される。16SrRNAは30Sリボソームサブユニットをつくり、さらに2つのサブユニットが複合し70Sリボソームができる。またtRNAは30SRNA以外にもtRNA前駆体より切断酵素で切り出される。切断酵素の1つは触媒作用を持つRNAを含むRNアーゼPpである。切断後、さらに特定部位のヌクレオシド例えばUはリボチミジンやシュードウリジンなどに修飾される。真核細胞の場合、合成されたtRNAおよびrRNAには、イントロンが含まれ、スプライシング、切り出し、修飾過程を経て成熟型となる。
mRNAプロセッシング:mRNAプロセッシングにはmRNA前駆体のスプライシング(イントロンの除去とその前後のエキソンの再結合反応)、mRNAの5’末端への7-メチルグアノシンキャップ構造の付加、3’末端へのポリ(A)配列の付加、メチル化などの塩基修飾反応が含まれる。狭義のmRNAプロセシングとして、mRNA前駆体のスプライシング反応のみをさす場合がある。
エキソンとイントロン
エキソン:分断された遺伝子で、最終的な成熟RNAとなる部分のDNA配列(RNAにも用いられる)をいう。一次転写産物からイントロン部分が取り除かれ、エキソン部分がつなぎ合わさることにより、タンパク質合成の鋳型となる機能的な成熟mRNAが完成する。
イントロン:真核生物の遺伝子DNA中に存在する介在配列で、一次転写産物には含まれるが最終の機能的な成熟RNAには含まれず、スプライシングにより取り除かれる遺伝子領域をいう(RNAにも用いられる)。植物やテトラヒメナのイントロン中にはそのRNA自体で自己スプライシング機能を持つものもあり、グアノシン要求性からグループT型とグループU型イントロンに分けられる。T型イントロンの除去にはMg2+とグアノシン(GMP,GDP,GTPでも可)要求性がある。U型イントロンの除去にはMg2+とスペルミジンが必要であり、グアノシン要求性はない。U型イントロンの除去には、イントロン中のアデニン残基と2’-5’結合による投げ縄状構造が形成され、高等生物のスプライシング機構に類似している。
核酸分解酵素(ヌクレアーゼ)・・・核酸やポリヌクレオチドのヌクレオチド間を連結するホスホジエチルエステル結合を開裂する酵素、ヌクレオホスホジエステラーゼの総称として用いられる。基質の糖部分に対する特異性でわけるとDNAだけを分解するデオキシリボヌクレアーゼ(DNアーゼ)、RNAに作用するリボヌクレアーゼ(RNアーゼ)、糖部分を識別せずDNAにもRNAにも作用する酵素の3種類に分類される。狭義には単にこの第三の酵素をヌクレアーゼということもある。分解様式で分類するとポリヌクレオチド鎖内部の3’、5’-ホスホジエチル結合を切断するエンドヌクレアーゼと鎖の5’末端または3’末端からヌクレオチドを順次1個ずつ切断していくエキソヌクレアーゼに分けられる。エンドヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼともに分解産物からは5’末端からリン酸基を持つヌクレオチドを生成する5’-p生成酵素と、3’末端にリン酸基を持つヌクレオチドを生成する3’-p生成酵素に分類する。ホスホジエステル結合が加水分解されるときには、酵素の特異性によって5’位にリン酸基が残り3’位にヒドロキシ基が生じる場合と、逆に3’位にリン酸基が残り5’位にヒドロキシ基が生じる場合がある。エキソヌクレアーゼにはほとんど塩基特異性がないが、エンドヌクラーゼには、塩基に非特異的なヌクレアーゼと、ある塩基または塩基配列を認識して核酸中の特異的部分のみを切断するヌクレアーゼの2種類がある。例えばRNアーゼT1はグアニル酸の3’側のみで切断するもので、生じたオリゴヌクレオチドの3’末端はGpである。RNAそれ自身でRNアーゼ活性を持つものもが見出された。
酵素名 |
基質 |
生成物 |
|
エ ン ド ヌ ク レ ア T ゼ |
膵臓DNアーゼT |
一本鎖および二本鎖のDNA |
5’-p、3’-OHをもつオリゴヌクレオチド |
膵臓DNアーゼU |
一本鎖および二本鎖のDNA |
3’-p、5’-OHをもつオリゴヌクレオチド |
|
ヌクレアーゼP1 |
一本鎖および二本鎖のDNA,RNA |
5’-モノヌクレオチド(3’-位のリン酸も分解する) |
|
ヌクレアーゼS1 |
一本鎖のDNA |
5’-p、3’-OHをもつ二本鎖DNA.一本鎖部分からは5’-モノおよびジヌクレオチド |
|
膵臓RNアーゼA |
一本鎖および二本鎖RNA |
3’末端にピリミジンヌクレオチドをもつ5’-OH、3’-pオリゴヌクレオチド |
|
RNアーゼT1 |
一本鎖および二本鎖RNA |
3’末端にグアニンヌクレオチドをもつ5’-OH、3’-pオリゴヌクレオチド |
|
RNアーゼU2 |
一本鎖および二本鎖RNA |
3’-末端にプリンヌクレオチドをもつ5’-OH、3’-pオリゴヌクレオチド |
|
RNアーゼT2 |
一本鎖および二本鎖RNA |
3’-モノヌクレオチド |
|
制限酵素 |
二本鎖DNA |
||
エ キ ソ ヌ ク レ ア T ゼ |
ヘビ毒ホスホジエステラーゼ |
一本鎖のDNA,RNA |
3’-末端から分解して5’-モノヌクレオチド |
脾臓ホスホジエステラーゼ |
一本鎖のDNA,RNA |
5’-末端から分解して3’-モノヌクレオチド |
|
大腸菌エキソヌクレアーゼT |
一本鎖のDNA |
3’-末端から分解して5’-モノヌクレオチド |
|
大腸菌エキソヌクレアーゼU |
二本鎖のDNA |
3’末端から分解して5’モノヌクレオチドが生成し、一本鎖DNAが残る |
遺伝子の組換え・・・相同性のある1組の遺伝子群、または相同性のない遺伝子の間で乗換えが起こり、新しい組み合わせの遺伝子群を生じること。試験管内でDNAリガーゼの作用により外来のDNA配列をファージやプラスミドなどのベクター分子を組み込んだDNA標本が生じる。外来DNA配列はベクターの助けを借りて適当な細胞に導入されさらにタンパク質として発現される。
ベクター・・・宿主細胞の中で複製可能なDNA分子で、外来DNA配列の運搬体の役割を果たす。自己複製能力のあるプラスミド、ファージ、ウイルス、YACを改良して作られる。DNAが染色体に組み込まれると染色体そのものがベクターとなる。ベクターの条件は、@細胞内で複製し、娘細胞に安定して分配され、A制限酵素部位を持ち、Bその存在やクローニングの成否をモニターできる選択マーカーを持つことだが、この他C細胞から容易に回収できるということもよいベクターの条件である。
クローニング・・・クローンを得ること。@細胞の場合は1個の細胞に由来する均一な細胞集団を得ることをさす。A遺伝子の場合は、特定のDNA配列を分離することをいう。それがcDNAの場合はcDNAクローニングと呼ぶ。遺伝子のクローニングは、ベクターに組み込んだDNA断片を宿主細菌に導入し、目的とするDNA断片を含むコロニーあるいはプラークの分離による。
遺伝暗号・・・mRNAの塩基配列とタンパク質のアミノ酸配列の対応関係を遺伝暗号といい、コドンと呼ばれるmRNA上の連続した三つのヌクレオチド(トリプレット)が一つのアミノ酸を規定する。4しゅるいの塩基に可能な64個のコドンのうち61個はアミノ酸に対応するコドンで残りの3個は対応するアミノ酸がなく、タンパク質合成を終止するコドンである。メチオニンとトリプトファンはそれぞれ1つしかコドンがないがそれ以外のアミノ酸に対応するコドンは縮重していて、複数個存在し同義コドンという。タンパク質合成は通常メチオニンのコドンAUG(まれにGUG)から始まりじいのコドンに対応するアミノ酸がペプチド結合で順次結合することにより進行する。コドンは5→’3’の方向に3塩基ずつ区切って読まれ、塩基が重複して読まれたりコドン間に余分な塩基が存在することはない。
遺伝暗号表
U |
C |
A |
G |
|
U |
UUU Phe UUC Phe UUA Leu UUG Leu |
UCU Ser UCC Ser UCA Ser UCG Ser |
UAU Tyr UAC Tyr UAA 終止 UAG 終止 |
UGU Cys UGC Cys UGA 終止 UGG Trp |
C |
CUU Leu CUC Leu CUA Leu CUG Leu |
CCU Pro CCC Pro CCA Pro CCG Pro |
CAU His CAC His CAA Gln CAG Gln |
CGU Arg CGC Arg CGA Arg CGG Arg |
A |
AUU Ile AUC Ile AUA Ile AUG Met |
ACU Thr ACC Thr ACA Thr ACG Thr |
AAU Asn AAC Asn AAA Lys AAG Lys |
AGU Ser AGC Ser AGA Arg AGG Arg |
G
G |
GUU Val GUC Val GUA Val GUG Val |
GCU Ala GCC Ala GCA Ala GCG Ala |
GAU Asp GAC Asp GAA Glu GAG Glu |
GGU Gly GGC Gly GGA Gly GGG Gly |
ヒストン・・・真核細胞の核内に広く存在し、DNAとイオンを結合している塩基性タンパク質。DNAはヒストンとの規則的な結合により折りたたまれる。その複合体の基本構造単位はヌクレオソームと呼ばれる。ヒストンは通常5種の成分H1,H2A,H2B,H3,H4からなり、H1以外は重量比でほぼ等量存在する。ヒストンの特定のアミノ酸鎖にはメチル化、アセチル化、ADPリボシル化、リン酸化などの多様な修飾が起こることが知られており、クロマチンの高次構造形成や、遺伝子発現調節、細胞周期調節などと深く関わっていることが知られている。
クロマチン・・・染色質ともいう。真核生物の核内で塩基性色素で濃く染色される物質。本来は顕微鏡下で核内に分散して存在する構造体と定義され、分裂期における凝縮した構造体である染色体として区別されていたが、現在では生化学的な解析DNAとからヒストンを主成分とし、加えて非ヒストンタンパク質、RNAを含む複合体を指す語として用いる。細胞周期および遺伝子の活性化、不活性化に対応して構造的に著しい変化を遂げる。
3. タンパク質の合成の開始、延長、終始機構の説明
原核生物のタンパク質の合成の開始には、mRNA、N-ホルミルメチオニル-tRNAMetと大小のリボソームサブユニットが開始複合体を形成する必要があり、この際3種の構成因子(IF1,IF2,IF3)が不可欠である。はじめに、IF1,IF2,IF3と30sサブユニットが複合体をつくり、続いてIF2とGTPの結合、さらにmRNAとN-ホルミルメチオニル-tRNAMetが加わり、IF3が解離し、30Sタンパク合成開始体となる。このときIF2の役割は、N-ホルミルメチオニル-tRNAMetの認識であり、tRNA中央部のアンチコドングループのCAU配列(アンチコドン)が開始コドンAUGと逆方向に塩基対を形成して、mRNAと結合する。つまりtRNAのアンチコドンがmRNAのコドンと相補的な塩基対を作ることで対応するアミノ酸が正確に決定される。30Sタンパク合成複合体は50Sサブユニットと結合し、IF2中に含まれるGTPアーゼが作用し、GTPがGDPと無機リン酸に加水分解され、その結果IF1とIF2も解離して70S開始複合体が完成、タンパク質合成の準備が整う。このときリボソーム上にtRNAが結合する部位はA部位(アミノアシル部位)とP部位(ペプシジル部位)の2ヶ所で、N-ホスミルメチオニル-tRNAMetはP部位に、次のコドンに対応するアミノアシルtRNAはA部位にくる。このようにタンパク質の合成開始には開始複合体の形成が必要である。
真核生物の翻訳開始は基本的に原核生物と同じでA部位、P部位などの役割も変わりない。しかしより複雑で10種の開始因子(真核開始因子、eIF)が必要である。はじめにMet-tRNAMet・eIFとGTPとが結合した後、40Sサブユニットと結合し、さらにキャップ構造タンパクと結合したmRNAと開始複合体を形成する。この際複合体をまとめるためのeIF3と開始コドンのAUGを探すための駆動エンジンとして働く4種のeIFが必要である。またこの段階で原核生物では見られないATPの加水分解が行われる。次にeIF2と結合したGTPをeIF5が加水分解することを引き金に60Sサブユニットが加わり、80Sタンパク合成複合体が完成。タンパク質合成を開始する。複合体形成後、解離した開始因子は次の開始複合体形成に用いられ、1本のmRNAには幾つものリボソーム複合体が形成され、ポリソームを形成する。
ペプチド鎖の延長では、アミノ酸が1個ずつN末端からC末端の方向につながる。数個のタンパク性延長因子(EF)が関与し、GTPの加水分解がこれに共役する。延長サイクルには、mRNAの次のコドンが指定するアミノ酸を結合したアミノアシル-tRNAがA部位につくことで始まる。子ドンがUGG(トリプトファンコドン)ならばTrp-tRNAがEFTu・GTP複合体と結合して、tRNA・EFTu・GTP複合体をつくり、これが70SリボソームのA部位に結合する。するとEFTuのGTPアーゼ作用によりGTPが加水分解され、EFTuとともにリボソームから離れる。ここでリボソーム自身のもつペプチジルトランスファーゼ作用が働き、P部位のfMet-tRNAのN-ホルミルメチオニル残基がA部位のTrp-tRNAとペプチド結合を形成し、fMet-Trp-tRNAを生じる。こうしてペプチド鎖は、tRNAに乗ったままN末端からC末端の方向に合成されていく。
N-ホルミルメチオニル基をはずしたtRNAをリボソームからはずすためのエネルギーは、延長因子EFGとGTPがリボソームに結合し、EFGのGTPアーゼの作用でGTPがGDPに分解して供給する。それとともにA部位で合成されたばかりのペプチジル-tRNAがP部位に移り、同時にmRNAも1コドン分だけ位置がずれる。この段階をトランスロケーションという。こうして1サイクルが回る。次は空いたA部位にその次のコドンによって指定されたアミノアシル-tRNAが付き、P部位のペプチジル-tRNAからペプチドを受け取って、ペプチド鎖の延長を繰り返す。長いmRNAでは多数のリボソームがついてポリソームを形成し、同時に何本ものペプチド鎖の合成を起こす。ペプチド結合を1個形成するのに、高エネルギーリン酸結合は4個も消費される。
真核延長サイクルは、原核延長サイクルと実質同じで、eEF1がEFTuとEFTsの機能をもち、eEF2がEFGの代わりに働く。
ペプチド終止構造・・・mRNAのコドンがUAG,UAA,UGAの場所にくるとこれらのコドンアミノ酸が対応せず、対応するアミノシル-tRNAが存在しない。すると終結因子(原核細胞ではRF1とRF2)が働いてペプチドとtRNAの間の結合が切断され、ペプチドがリボソームから遊離する。RF1はUAG,UAAに、RF2はUGA,UAAに働く。遊離したペプチド鎖のホルミル基をはずせばタンパク合成が完了する。真核生物ではeRFが全終止コドンを認識する。