<実験8>筋収縮とATP

実験8−1 グリセリン筋の収縮

【目的】*筋肉の構造と収縮のしくみを科学的に理解する。

【原理】 筋肉の収縮と弛緩は、ミオシンとアクチンの相互作用を基本としている。グリセリン筋は、膜構造が壊れて水溶性のタンパク質が失われているが、アクチンやミオシンなどの収縮に必要な構造は残っている。ATP溶液を注ぐと、グリセリン筋は収縮することから、筋収縮のためのエネルギーであるATPの働きを確認することができる。

【方法】

1.50%グリセリン塩溶液の入ったシャーレの中に、調整したグリセリン筋を置く。糸を切る。グリセリン筋を柄付き針で糸状にほぐし、筋繊維の束にする。(結構硬くなっていて、うまくほぐれてくれない場合がある。1cm以上の長さ・1mm以下の太さにすると良い。長いほうが収縮したときに変化が大きいし、細いほうが反応が速い)適当にほぐして、うまくいったものを選ぶのが良い。

2.うまくほぐれたものをプラスチック定規などの目盛がついたものの上に載せ、洗浄液を少量かける。洗浄液を流してから、試験液をたらす。

3.試験液を濾紙で吸い取ってから、長さの測定。1ATP水溶液を23滴垂らす。

4.再び長さを測定して、収縮率()を求める。

【結果】

 最初に測定したグリセリン筋の長さは2.1cmであり、ATP溶液を垂らした後、収縮したグリセリン筋の長さは1.7cmであった。

収縮率(%)=(収縮前の長さ−収縮後の長さ)÷収縮前の長さ×100である。

この実験結果から、収縮率(%)=(2.11.7)÷2.1×100

               =19.04762

               19.05

このグリセリン筋の収縮率は約19.05%であった。

【考察・結論】

 ATP溶液をかけるとグリセリン筋はすぐに収縮した。このことから筋収縮にはATPが大きな役割を担っていることがわかる。収縮した長さは4mmであり、収縮率は約19%であった。もっと長く細い繊維であればより大きな収縮率が得られたのではないだろうか。もっと丁寧に筋繊維をほぐし、より長いもので実験すべきであったように思われる。

*筋肉の構造と収縮のしくみ

横紋筋は多くの核を持った長い多数の筋繊維によって構成されている。筋繊維は、収縮性のタンパク質からなる筋原繊維によってできている。筋原繊維は、明調な単屈折性の横盤と暗調な複屈折性の横盤が、交互に配列しているため横紋を生じている。この明帯と暗帯の間にはZ膜と呼ばれるものがあり、このZ膜とZ膜との間を筋節と呼び筋原繊維の構造上の単位と考えられる。

筋収縮は、ATPAdenosine tri-phosphate、アデノシン三リン酸)のエネルギーを利用して行なわれる。筋原繊維において、ミオシンフィラメントの間にアクチンフィラメントがすべりこむように重なり合うことにより収縮が生じる。ミオシンフィラメントからは多数の架橋(ミオシン分子の一部)がつき出しておりこの部分にATP アーゼの活性中心がある。
 筋に刺激が与えられていないときには、アクチンとミオシンは離れているので、 ATPアーゼは作用しない。筋に刺激が与えられると、次のような変化をして筋収縮が起こる。

1.筋に刺激が与えられると、筋原繊維のまわりにある筋小胞体からカルシウムイオンが放出される。

2.カルシウムイオンにより、ミオシンの架橋(ATPアーゼ)とアクチンが結合し、ATPが分解される。

3.ATPのエネルギーにより、ミオシンの架橋が首を振るように運動して、アクチンフィラメントがミオシンフィラメントの間に滑り込み、筋が収縮する。

4.刺激がなくなると、カルシウムイオンは筋小胞体内にとりこまれ、アクチンとミオシンが離れ、アクチンフィラメントは元に戻る。

また、このようなことからミオシンの架橋はATP分解酵素として働くと考えられている。

【意見・感想など】

目の前で筋肉の収縮を観察できてとても興味を感じた。自分が何気なく動かしている手や足などが同じようなしくみで動いていると思うととても興味深かった。身近なものを題材にした実験はとても面白いと思う。

実験8−2 横紋筋の観察

【目的】筋繊維、横紋筋について理解する。

【方法】

1.グリセリン筋のほぐし損ねの細胞の中から、短くて細いものを選ぶ。

2.そのままカバーグラスをかけて検鏡(軽く押しつぶしても良い)

3.また、別の試料に酢酸カーミンを加えて染色して検鏡。

4.平滑筋(横隔膜)も検鏡。

【結果】

 横紋筋はとても細い筋繊維が何本か集まってひとつの束になっていて、その束にはある一定の長さで節のようなものが観察された。酢酸カーミンで横紋筋を染色して検鏡したが、観察できなかった。

 平滑筋は横紋筋のような節は観察されなかった。一つ一つの細胞が並んでいるのが観察できた。

【考察・結論】

 酢酸カーミンで染色した筋繊維がうまく観察できなかったのは、染色の時間を十分にとらずにすぐに検鏡したため、染色の時間が短く、筋繊維がまだ染色されていなかったためと考えられる。十分な染色の時間をとり、観察していれば核の特徴などが観察されたはずである。

横紋筋と平滑筋でだいぶ違っていた。同じ筋肉ではあるが、その働きによって構造が大きく違ってくることがわかった。細胞の大きさや形態などが大きく違っていた。

*横紋筋・筋繊維・平滑筋について

骨格筋は複数の核を持つ円柱形の骨格筋繊維(筋細胞)から構成されている。運動神経に支配され、意識的に動かせる随意筋である。骨格筋織維は、太さ10100μm、長さは10cmに達するものもある。多核細胞であるのは、個々の細胞が融合し細胞質が混合しているからである。このため、細胞質の主体である収縮性の夕ンパク質からなる筋原繊維を一つの筋繊維内に多量に有することになる。敏速で強い収縮を可能にするとともに、疲労しやすい性質をあわせもつのはこのような理由による。袋状の筋形質膜で囲まれた筋繊維内にはタンパク質の合成に必要な遺伝情報を蓄積する核や、筋肉運動のエネルギー源となるアデノシン-’-トリリン酸(ATP)の合成器官であるミトコンドリアなどの他に、収縮の担い手となる筋原繊維が多数含まれている。

顕微鏡で観察すると、低倍率では筋繊維そのものが観察できる。高倍率(400600倍程度)では、繊維の長軸に対し垂直に走っている横紋を観察することができる。この横紋は筋原繊維を構成するアクチンとミオシンという二種類のタンパク質が規則的に配列しており、太いフィラメントであるミオシンの部分は暗く(暗帯)、ミオシンと重ならない細いアクチンフィラメントだけの部分は明るく見える(明帯)ことの結果である。

筋肉中のタンパク質は大別して3種にわけられる。第一に筋形質タンパク質でエネルギー代謝系に関わる酵素が大部分を占める水溶性画分、ついで筋原繊維タンパク質で収縮の担い手となる塩溶性画分、三つ目が筋基質タンパク質で筋膜の構成成分である不溶性画分である。それぞれのタンパク質の分画は溶解性状の違いをもとに行われている。此の中で筋肉中に最も多く含まれるのが収縮に関係する筋原繊維タンパク質である。

 平滑筋は横紋をもたない筋繊維(筋細胞)から構成される筋肉で、進化的には横紋筋より原始的なものと見なされている。主な存在場所は、セキツイ動物の内臓(心筋を除く)や血管壁などであり、自律神経の支配をうけ意志とは無関係に収縮する不随意筋である。平滑筋繊維は単核で細長い紡錘形の細胞である。大きさはさまざまで、長さ約20nmから0.5mmにいたるものまであるとされているが、直径数μm長さ100μm程度のものが多い。収縮は骨格筋に比べてゆるやかだが、疲労しにくく持続的にくりかえされる。

【意見・感想など】

染色してから細胞を観察するときは今度から十分な染色の時間をとろうと思った。全体的に観察しにくかったが、横紋筋と平滑筋の違いが観察できてよかった。

【参考】

http://www.aichi-c.ed.jp/contents/rika/koutou/seibutu/se1/kin/kin.htm

http://www.st.sophia.ac.jp/scitech/scitech/no12/no12toku.html#sec02

実験8−3 精子の運動とATP

【目的】*いろいろな精子の形態、精子の鞭毛運動について理解する。

    *筋肉運動との違いを理解する。

【方法】

1.マウスの精巣と精巣上体より精子を取り出し、顕微鏡で形態を観察して動き方を観察する。

2.精子のスケッチをする。

3.精細管細胞の染色像のスケッチをする。

【結果】

【考察・結論】

 無数の精子が観察でき、その多さに圧倒されたが、生殖のためには数多くの精子が必要なことが理解できた。マウスの精子は頭部が釣り針のように曲がっており、ヒトの精子の形態と異なっていた。観察した精子はほとんど死んでいたが、生きているものもいた。その生きている精子で運動が観察できた。鞭毛はとても長くて細く、それを動かして前進していた。

 精細管細胞にも多くの精子が観察できた。精細管細胞で精子をつくっていることがわかった。鞭毛だけが多く見られた部分もあった。

*精子の鞭毛運動について

精子は受精のために特殊化した細胞であり、生物の一生のなかで唯一個体を離れて重要な任務を果たす細胞である。そこには、洗練された運動装置である鞭毛、遺伝情報を小さく畳み込んだ精子頭部、卵と遭遇し合体 するために必要な先体部が存在し、受精を可能にしている。

哺乳類精子の運動はもっと複雑である。精嚢からの分泌液には、果糖が多く含まれており、これは細胞内部に栄養源をもたない精子の鞭毛運動を起こすエネルギー源に用いられる。精巣で完成した精子は,運動能はほとんどもっていない。精巣上体を通過して始めて運動能が付与され,精嚢,前立腺などからの分泌液に希釈されると活発な運動を開始する。さらに雌性生殖器内で受精能獲得と呼ばれるプロセスを経て初めて受精が可能になる。受精能獲得の過程で,鞭毛は超活性化と呼ばれるタイプの運動を呈する。精子の運動活性化には精子鞭毛のタンパク質のリン酸化が重要な役割を演じている。

精子の鞭毛運動を担っているのは、モータータンパク質の一つ「ダイニン」である。ダイニンはATPを加水分解することによって得られるエネルギーを力学エネルギーに変換して運動を行う。ダイニンは微小管上を滑るように移動する。ダイニンは、鞭毛の骨格タンパク質である9本の微小管上に並び、力を出して隣の微小管との間に滑りを起こす。この滑り運動が微小管の間で調節される結果、鞭毛全体は波のようにしなやかな屈曲を周期的に形成する。この鞭毛の高速の振動波によって水流が作られ、その結果精子は推進力を得て卵に向かって泳ぐ。

【意見・感想など】

 精子があまりに多すぎて観察しにくかったが、少ないところを使って観察した。精細管細胞も観察しにくかったが、興味を感じた。

【参考】

 http://www.adm.u-tokyo.ac.jp/adm/k-kouen/dai-gokai3.html