<実験9>牛のルーメン微生物

【要点】 ●牛の胃は発酵タンクである。

     牛の胃に共生している微生物:細菌と原生動物(原虫)について

     ルーメン繊毛虫:オフリオスコレックス科、イソトリカ科について

     牛の胃の役割、ルーメン微生物の役割を考察する。

【目的】*牛のルーメンにいる微生物、ルーメン微生物の種類と生育環境条件について調べる。

    *牛が食べた餌の消化吸収機構について、観察した微生物を含めて調べ、考察する。

【方法】

1.顕微鏡をセットして、スライドグラスにルーメン微生物のいる液を12滴のせ、観察する。倍率を変えて観察、スケッチする。

2.ビオトープの液を藻と一緒にとり、顕微鏡で観察、スケッチする。

【結果】

ルーメンでは主に三種類の微生物が観察できた。繊毛で動く比較的大きいものと、足のようなもので移動するものと、くるくる回るものの3種類が観察できた。これらはスケッチをするのが難しいほど活発に動いていた。400倍で主に観察していたが、この倍率では動いているのは見えるが、スケッチできないという小ささのものも観察できた。1000倍にしてこれらを観察しようとしたが、うまく観察できなかった。

大きさは多少違うが、同じ種類のものが多く見られた。

時間がたつにつれて、これらの微生物の動きが鈍くなっていき、死亡するものもいた。

一番多く観察できた微生物は活発に食事をしていた。

ビオトープの液の中には最初まったく微生物を見つけられなかったが、液を取りなおすことにより、2種類の微生物が観察できた。ミミズのように細長いものと、ミジンコに似たものが観察できた。これらは400倍よりも100倍のほうが観察しやすかった。

微生物はあまり観察できなかったが、藻の仔細な構造が観察できた。

【考察・結論】

ルーメンの中で一番多く見られた微生物は体前部だけに繊毛を持っていたことから、オフリオスコレックス科であるといえる。さらに繊毛は囲口部の一箇所だけにあったことから、エントディニウム属であるといえる。

オフリオスコレックス科について

目;繊毛は極端に少ない。細胞表面に繊毛をもたないものもいる。口部繊毛および体繊毛は房状。口域は収縮性がある。多くの種では囲口部の繊毛を体内に収納できる。ペリクルは一般に強固で、伸びて突起をもつものもいる。多くの種は骨板(skeletal plate)をもつ。
類人猿や草食性の哺乳類の消化管内にいる。
オフリオスコレックス科は1属を除き、他はすべて反芻動物の第一胃(rumen)および第二胃(reticulum)内にいる。

 次の比較的大きなものは、繊毛が体全体を覆っていたことから、イソトリカ科であるといえる。さらに繊毛列が体軸に対して平行に走っていたことから、イソトリカ属であることがいえる。

イソトリカ科について

目:口部域には繊毛が密集している(= vestibulum)。 Polykinetidsはない。細胞全体に繊毛がある。

ビオトープの液で観察されたミミズのようなものはその形態から、線虫の1種ではないかと考える。しかしその動きが早く、細部まで仔細に観察することができなかったので、それ以上の同定はできなかった。

線虫の特徴

体は細長くひも状で,尾部はとがっている。

体はよく曲がるが,伸び縮みはしない。体をくねらせて運動する。

おとなになったとき0.5mm2mmくらいのものが多く,100倍でちょうどよく見えるものが多い。

淡水では浮遊生活をしているものはほとんどなく,水草の間や水底の泥の上などで底生生活をする。

 

 もうひとつの微生物はミジンコの仲間ではないかと考えられる。そして観察された形態から、アオムキミジンコではないかと考える。

アオムキミジンコの特徴

枝分かれした触角(第2触角)はそれほど長くない。 体をおおう殻の腹側はまっすぐで,毛が生えている。 口のところの出っぱり(吻)がある。 体をおおう殻の腹側の後端に,殻刺がある。

殻の色は茶色のときが多い。

おとなになったときにメスは1mm前後かそれ以上のものが多く,40倍〜100倍でちょうどよく見えるものが多い。

湖や池で浮遊生活をしているものが多い。泳ぐとき背中を下にして泳ぐため,アオムキミジンコの名前がつけられた。

もうひとつ観察された藻はアオミドロだったと考えられる。

アオミドロの特徴

細胞は細長い円筒形で,側縁は平行。藻体は1細胞列からなる分枝しない1本の糸状。 属:細長い円筒形の細胞が1列につながった糸状体。細胞内には多数のピレノイドをもったリボン状の葉緑体がある。葉緑体の数は 116本で種ごとに一定している。不動胞子やアキネートもつくるが,普通は接合胞子を3月末〜6, 7月にかけて形成する。世界全体では,約300種が記載されている。日本でも79種が知られている

葉緑体は帯状で,らせん状に巻いている。藻体の太さはいろいろで,太い種は肉眼でもはっきり見える。400倍で非常に太く見えるものから細く見えるものまである。

極めて普通に見られる重要な属の1つです。湖,池,水田,河川,水槽などいろいろな水域で見られ,時に大量に発生する。ぬるぬるした緑色の極めて細い糸状の藻として見える。

*ルーメン微生物の種類と生育環境条件

ルーメン内には、多数の嫌気性細菌と寄生性繊毛虫、少数の好気性細菌、寄生性鞭毛虫、真菌およびウイルスから構成されている微生物叢が存在する。この微生物叢は反芻動物の摂取飼料を利用して、いわゆるルーメン発酵と呼ばれる微生物消化を行い、反芻動物と相利の反芻共生関係を営んでいる。

 ルーメン微生物数は宿主動物の栄養条件や生理状態によって変動することがあるが、大まかに言って、ルーメン内容1?中に細菌は1013〜101?、プロトゾアは10?〜10?程度存在している。

 ルーメンプロトゾアは多数の繊毛虫(300種以上)と少数の鞭毛虫(5)の存在が知られている。ルーメン繊毛虫はほとんどが、分類学的に虫体表全面が繊毛で覆われているイソトリカ科と、虫体前部にだけ繊毛を有するオフリオスコレックス科の2科に分けられる。

 ルーメン内細菌は、これまで約30種類が知られているが、それらはいずれも嫌気的に生育できる特徴を持っている。


 ルーメン内のプロトゾアは多様な代謝能を持っており、主要な植物成分をすべて利用することができる。すなわち、セルロース、ヘミセルロース、澱粉をはじめとする炭水化物を発酵し、蛋白を分解する。またある種は脂肪酸を不飽和化することができるし、またいくつかの虫種は不飽和脂肪酸に水素添加することができる。ルーメンプロトゾアのバクテリアの捕食消化や、プロトゾア間の捕食拮抗もルーメン内のプロトゾア機能の重要な特徴である。

*牛が食べた餌の消化吸収機構について

牛は四つの胃を持っており、牛の消化器の中でもっとも重要なのは第一胃である。腸は小腸と大腸からなり、小腸は第一胃に次いで重要な消化器である。小腸は十二指腸、腔腸、回腸からなり、大腸は盲腸、結腸、直腸からなる。

消化の過程

1.第一胃の消化は微生物の発酵による。

 第一胃はさまざまの物質を吸収することができる。第一胃の粘膜には215ミリの大小さまざまの絨毛が密生し胃の内壁をおおっている。これは胃の吸収面積を広げるための装置であり、さまざまな物質が絨毛の表面から速やかに吸収され血中に取り込まれる。

2.発酵によって炭水化物は分解され、三つの酢に合成されてエネルギー源となる。

 炭水化物は牛が生活し生産するための主要なエネルギー源となっている。牛は炭水化物の大部分を第一胃の発酵で消化し、吸収する。

 炭水化物は微生物の働きによって酢酸、プロピオン酸、酪酸という3つの低級脂肪酸に転化される。これらの酸は第一胃壁から直接吸収され、エネルギーとなる。しかしこれらの酸はそれぞれ異なった性質を持っている。酢酸は食酢の成分で、体内で燃焼して熱源となり、プロピオン酸はケトーシスの治療薬と同じ成分で、肝臓でブドウ糖に転化され栄養源となる。酪酸は変敗したサイレージに含まれるものと同一の成分で、それが第一胃壁から吸収されて血中に移行するとき、第一胃壁の働きによってケトン体に作り変えられてしまう。酪酸は性質の悪い酸なので、大量に生産されることは望ましくない。

 牛が健康を保つためには、これら3者が酢酸6・プロピオン酸3・酪酸1の割合で生産されることがのぞましい。

3.タンパク質はアンモニアに分解され、アンモニア利用菌によって微生物体タンパクに合成される。

 タンパク質は体の新しい組織を作るほか、燃えて熱源ともなり、炭水化物や脂肪の不足を補うこともできる。タンパク質の第一胃での消化は、炭水化物と同じように微生物の働きによって行われる。しかしタンパク質は第一胃では吸収できる形になるほどには消化されない。

 タンパク質の大部分は微生物の働きによってまずアンモニアに分解される。そのアンモニアを細菌が利用して菌体タンパクに合成する。さらに原虫が細菌を捕らえて食べ、消化して虫体タンパクにする。タンパク質はアミノ酸になるまで分解されないと吸収されないが、それは第四胃以下の消化器にゆだねられる。

 タンパク質の消化はこのような過程を経るため、順タンパク質以外の非タンパク態チッソ化合物をも利用できるのである。

4.微生物は第四胃の塩酸で溶解され、さらに腸の消化で高級アミノ酸となって栄養化される。

 第四胃の内壁には、第一胃から第三胃にはない分泌腺があり消化液を分泌し、物質の吸収はしない。このため第四胃は腺胃または真胃と呼ばれる。

 第四胃から分泌される消化液の主なものは、塩酸とペプシンである。つまり第四胃は主としてタンパク質を処理する消化器である。前胃の発酵で増殖した原虫や細菌などおびただしい数の微生物に、塩酸を作用させて殺し、殺した微生物の体をタンパク質分解酵素で解体して腸に送る。

5.      腸は炭水化物、脂肪、タンパク質を消化液の酵素で消化する。

 第四胃に続く十二指腸では、消化液の中に含まれる酵素によって最も強力な化学的消化が行われる。まず十二指腸の上部に胆管と膵管が開口しており、胆汁と膵液が流れ出してくる。膵液は炭水化物、脂肪、タンパク質を消化する酵素を多く含んでおり、胆汁は胆汁酸の働きで膵液内の消化酵素の作用を増強させる。共に重炭酸ナトリウムを含んでいるのでアルカリ性で、第四胃から送られてきた酸性の胃内容を中和し、消化酵素が働きやすい状態にする。

 腸液も炭水化物、脂肪、タンパク質を消化する酵素をふくんでおり、腸内容をその化学的な作用で、吸収できる段階にまで消化する。第一胃で消化しきれなかった炭水化物は、ブドウ糖、果糖、ガラクトースに、脂肪は脂肪酸とグリセリンに変えて吸収しエネルギー源とする。また、タンパク質はアミノ酸に変える。

6.消化器から吸収された物質は肝臓で検査をうけてから全身に配られる。

 肝臓は牛の体の中で最も大きな腺臓器であり、体重の1%あまりの重量がある。

 肝臓は、その働きが多種多彩にわたる重要な臓器である。肝臓の働きを整理してみると、ひとつは消化や栄養に関する働きと、もうひとつは血液の保全に関する働きとの二つに分けられる。

消化や栄養に関する働きでは、@消化液(胆汁)の分泌、A毒物の処理、B養分の貯蔵と放出、C血中アミノ酸量の調節などがあげられる。

@について:胆汁は肝細胞で作られる黄褐色のアルカリ性の液体で、消化液と肝臓の排泄物を含んでいる。堪能に集められて濃縮され、胆管を通って十二指腸に流れ出る。胆汁の成分は胆汁酸で、十二指腸に分泌された膵液中の消化酵素を活性にし、その消化作用を増強する。また、脂肪が消化されてできた脂肪酸を乳化して水になじみやすくし、その吸収を助けている。

Aについて:消化器から吸収した物質は血液に溶け込んで門脈に集められ肝臓に運ばれる。門脈は無数に枝分かれして毛細血管となり、肝臓の細胞の間隙に血液を流し込む。肝臓には星細胞と呼ばれる毒物を処理する細胞があり、流れてきた門脈血の中にもし毒物があれば、それを無害な物質にしてしまう。検査を受けきれいになった血液は合流して肝静脈に集まり、心臓を通って全身へと送り出される。

このように肝臓は体の中の関所のような役目を果たしており、生体が毒物に冒されるのを防いでいる。これは肝臓の多彩な働きの中でもっとも重要な働きである。

上記のような牛の消化吸収機構の中で最も重要なのは第一胃の消化である。第一胃には多種類の膨大な微生物が棲息していて、胃に送られた餌の組成を分解したり合成したりしてもっと単純な形の別な物質にかえながらどんどん増殖する。私が見たルーメン微生物も活発に餌をとりこんでいた。ルーメン発酵の現場を観察することができたのだと思う。牛は複胃生物であり、同じ哺乳類とはいえ、私たち人間とは消化の過程が違うのだなと実感した。

【意見・感想・反省など】

ルーメン内の微生物はどれも活発に動いていて、牛の胃の中もこのような状況なのだと思うと不思議な感じがした。共生の関係を少し見ることができたのではないかと思う。

ビオトープを観察したとき、最初全然微生物を発見できなくてとても困った。藻の観察がとてもよくできたのがうれしかった。

牛の消化吸収機構を調べてみて、とても複雑だなと思った。その消化の過程でルーメン微生物は牛の健康にも関与してくる重要な生物なのだとわかった。今まで知らなかったことを知ることができてよかったと思う。

【参考文献】

「新 乳牛の科学」  津田恒之監修 柴田章夫編 1990年 農山漁村文化協会

「乳牛の生理と飼養」 松浦健二著 昭和59年 農山漁村文化協会

http://130.158.208.53/WWW/index-J.html