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畜産食品生化学
食品は、ヒトの生命維持に必須である(従属栄養)。このため、食品学は、単に食品を構成する素材、その加工、あるいは保存などを対象とするばかりではなく、種々のヒトに関連する学問領域と関連を持つ。
この講義では、畜産食品、特に食肉および肉製品(加工品)について物質的基礎と製造過程における化学的変化を説明し、さらにヒトがこれらを摂取する際に生じる生体反応や生化学的変化についても概括する。
食品とヒトに関連する医学的基礎科目
解剖学:生体の構成要素を体系的に理解する
生化学:生命現象を化学的に理解する
生理学:生命現象を物理学的に理解する
細胞 生物体の基本的構造と機能の単位をなす
血小板 3 μm
卵細胞 200 μm
精子 50 μm(頭部 5 μm)
横紋筋細胞(線維) 10 cm
神経細胞 1 cm
原核細胞:細胞膜以外の膜系欠如
真核細胞:細胞内小器官を持つ
細菌、植物、動物 独立栄養 従属栄養
組織 同一方向に分化した細胞およびこれら細胞が造成した物質が集合
上皮組織:体の表面、体腔の内面、器官表面など自由表面を被う. 扁平上皮、円柱上皮、移行上皮、繊毛上皮
支持組織:体の支持(柱)と結合 結合組織(疎性結合組織)
筋組織 :横紋筋、平滑筋、心筋
神経組織:細胞体と突起
器官 組織の集まり、一定の形態と機能を具えたもの
脳、胃、爪、…
器官系 器官が集まり一定の機能を営む
骨格系、筋系、消化器系、呼吸器系、泌尿器系、
生殖器系、内分泌系、脈管系、神経系、感覚器系
生物体
器官・器官系・組織・細胞
生物体:細胞を基本単位として、4組織10器官系からなる
運動器 骨格系と筋系(神経系)
成人の骨格は約200個の骨と軟骨からなリ、互いに連絡して身体の支柱となる。また、腔を作り臓器を容れて保護している。靱帯や筋との協力で運動器官を形成する。
骨 :リン灰石(hydorxyapatite)、コラーゲン (collagen)
筋 :多核、小胞体
運 随意筋 骨格筋 横紋筋 形
動 心 筋 態
性 不随意筋 内臓筋 平滑筋 的
骨は絶えず改造されている代謝組織である。
骨芽細胞 osteoblast 骨細胞 osteocyte 破骨細胞 osteoclast
緻密骨 compact bone 海面骨 cancellous bone
無機成分 68%
Ca10(PO4)6(OH)2 hydroxyapatite
生体のPの85%は骨中、約700g
他イオンとの置換が生じる 結晶が微細、水和殻形成
身体の無機質の恒常性維持 緩衝系に寄与
有機成分 32%
Type I collagen(生体全タンパク質の30%)骨芽細胞が分泌
ビタミンDは、骨の代謝に必須で、Caの腸管での吸収を促進する。骨に対する直接的な作用は不明の点が多い。
筋
収縮 contraction
単収縮 muscle twitch 1つの活動電位は短時間の収縮を起こし、続いて弛緩する。これを筋の単収縮と呼ぶ。
収縮の型
等尺性 isometric 筋全体の長さを変化させない収縮
等張性 isotonic 一定の負荷に抗して収縮
強縮性 tetanic 刺激が反復し、弛緩が起る前に収縮が反復する。
筋線維の型:ミオシンATPase活性、代謝および収縮様式には幾つかの様式すな わち型が存在する。
赤筋(I型):反応緩慢、背部の筋(姿勢保持等)
白筋(II型):単収縮の持続時間が短い、細かく精巧な運動(手)
I帯 isotropic 等方性 偏光顕微鏡で明るい
A帯 anisotropic 複屈折性 で暗い
筋節 sarcomere Z線間 収縮の基本単位 Z線間の距離が短縮
刺激伝達
運動神経 運動終板motor end アセチルコリン
筋細胞形質膜:横行小管 transeverse tuble (3-4m/s)
筋小胞体 Caイオン放出 0.1μM 10μM
トロポニン troponin 構造変化
食肉の化学成分 水分75% タンパク質20% 脂肪3% 灰分1%
タンパク質
水溶性タンパク質:アルブミン(卵白-、ラクト-、血清-)
塩溶性タンパク質:グロブリン
筋漿タンパク質 代謝系酵素、ミオグロビン等
肉基質タンパク質 コラ-ゲン、エラスチン、レテイキュリン
筋原線維タンパク質
脂質
蓄積脂質 皮下、内臓周囲、筋間 中性脂質
組織脂質 細胞成分 リン脂質、糖脂質、コレステロ-ル
融点 牛 40-50℃ 豚 33-46 羊 44-55
馬 30-43 鶏 30-32
炭水化物
グリコ-ゲン、ムコタンパク質
死後硬直
ATPの消失:TCA回路、解糖、クレアチンリン酸からの生産が止り、ATP濃度が低下すると、死後硬直が始る。
pHの低下:グリコ−ゲン、グルコ−ス、ピルビン酸を経て乳酸が蓄積し、pHが低下する。
硬直開始前期(遅延期):ATP濃度が8μM/gに保たれる 筋の伸張性保持
硬直進行期 : 2μM/g以下 伸張性が損われる
硬直完了期 : 0μM/g 完全に伸張性を失う
酸硬直:安静に保たれた動物、硬直発生に時間を要し、進行期が短い。極限 pHは5.7以下
アルカリ硬直:疲労した動物、硬直発生が速く、強く硬直する。極限pHは 6.9以上
中間型:絶食した動物、硬直前期は短いが、進行期は変らない
これらの起因は、と殺時のATP、CrP、グリコ−ゲン含有量による
異常肉
PSE:色が浅い pale、 柔らかい soft、 液汁が多いexudative:と殺時 のストレス等により解糖作用が進みpHが急激に低下した時
DFD:色が暗い dark、硬く firm、乾いた dry:と殺時のグリコ−ゲ ン含量が低くpHが高い
熟成 aging / conditioning
牛 豚 鶏
死後硬直 24 12 3 時間
熟成完了 14 4 2 日
1 Z線の脆弱化:筋原線維の小片化
Caイオンの増加によってZ線構成要素の可溶化
Ca活性化タンパク質分解酵素による分解
2 アクチンとミオシンの相互作用の変化
Mg-ATPaseの維持
カテプシン群によるミオシンの限定分解
3 結合組織の変化
コラ-ゲンの構造変化
プロテリオグリカンの部分的可溶化
熟成機構:カルシウムイオン説、タンパク質分解酵素説
寒冷短縮 cold shortning:牛、羊など赤色筋を屠殺後、10度以下に急冷する と筋線維が短縮しゆっくりと冷却したものよりも硬くなる
起因:硬直前(ATP濃度が高い)に急冷することによってCaイオン保持 能 力を失う
対処:高温熟成、電気刺激
咀嚼 mastication
口腔内で食物を噛み砕き唾液と混和する。選別(石の除去)。
咀嚼運動:固定された上顎に対し下顎の運動により上下顎歯が咬合して、食物を粉砕する。
咀嚼筋
咬筋 M.maseter 下顎挙上
側頭筋 M.temporalis
外側翼突筋 M.pterygoideus medials 下顎前進
内側翼突筋 M.pterygoideus lateralis
舌骨筋群 舌骨上筋
顎二腹筋
茎突舌骨筋
顎舌骨筋
オトガイ舌骨筋
舌骨下筋
肩甲舌骨筋
胸骨舌骨筋
胸骨甲状筋
甲状舌骨筋
歯 二生歯性:乳歯(20)、永久歯(32)
異形歯性:切歯、犬歯、小臼歯、大臼歯
虫歯:乳酸菌が食物のカス(糖質)を発酵し酸を生成し、エナメル質を溶 かす(脱灰作用)
舌 筋性:縦、横舌筋
味蕾 舌神経、舌咽神経 苦味、甘味、酸味、塩味(この順で疲労)
旨味(グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸、コハク酸
渋味、辛味(一種の痛覚、触覚)
嚥下:咽頭粘膜に食物塊や唾液が触れると、この刺激により嚥下反射が生じる
食事以外にも生じている 2400回 / 日
咽頭:口腔、鼻腔の後下部、喉頭と頚椎との間、気道と食道の共通路
唾液 saliva
神経支配(副交感)
耳下腺 漿液腺 25 舌咽神経 α-アミラ−ゼ
舌下腺 粘液腺 5 顔面神経 ムチン
顎下腺 混合腺 70 顔面神経
全唾液中%(1.5l / 日)
作用:食物へ水分付与:味覚の発現、嚥下しやすくする
プチアリン=アミラ-ゼ:デンプン、グリコーゲン消化
緩衝作用:胃酸の中和、胸やけ防止、虫歯予防
殺菌作用:口腔内を清浄に保つ
唾液分泌反射:パブロフの実験 唾液分泌 ヒトでは食べ物を見たり匂い を嗅いだり想像したり、で反射
食道 oesophagus
狭窄部 咽頭部、気管分岐部、横隔膜貫通部
蠕動波 peristaltic wave
咽頭と食動の移行部は常に緊張しているが、嚥下によってこ の緊張部は次々と胃方向へ移動し食物を運ぶ
空気嚥下症
飲み込まれた空気は、一部はゲップ、おくび belchingでもど されるが、一部は消化管を進み大腸の水素、硫化水素、メタ ン等の腸ガスとともに放屁される
正常ガス量200ml/day 多くなると痙攣的収縮、腹鳴、腹部膨満
胃 stomach
食道− 噴門−幽門 −十二指腸
胃液 2500 ml/day
塩酸 ペプシンの活性保持
0.17N 殺菌作用
pH0.87 胆汁、膵液分泌促進
粘液:糖タンパク質を主成分とするゲルを作り、胃粘膜から分泌される重曹とともに中性領域を確保し胃粘膜を保護。 エタノ−ル、アスピリン、酢などはこの領域を通過できる
小腸 small intestine
長さ
咽頭、食道、胃 65 cm
十二指腸 25
空、回腸 260 小腸 285 cm
結腸 110
表面積
中空円筒と仮定すると 3300 cm3
輪状ヒダ、絨毛、微絨毛 200万cm3
小腸へ流入する水分 9 l / day 2 l 飲食から
7 l 消化腺から
栄養素の90%は小腸から吸収される
吸収とは消化管から血液あるいはリンパ液中へ移行すること
肥満症 obesity
体重の中で脂肪の占める割合が
男 20% 正常値 12-18%
女 25% 18-24% を超えると肥満
Lean body mass 脂肪なし体重は
男 30才代で急速に低下
女 50-55才まであまり減少しないが、その後、急減、加令に伴い食物摂取 量を低下させることが必要
肥満判定法
肥満度% =(実測体重−標準体重)÷標準体重×100
標準体重=(身長m) ×22
正常 10%以内 肥満ぎみ 10〜20% 肥満 20%以上
BMI (Body Mass Index) = 体重Kg÷(身長m)2
正常 20〜24 肥満ぎみ 24〜26.4 肥満 26.4以上
膵臓 Pancreas
膵液 pancreatic juice 1500ml/day 最大の消化腺
外分泌 タンパク質分解酵素
トリプシン、キモトリプシン
脂肪分解酵素
膵リパ−ゼ
糖分解酵素
膵アミラ−ゼ
至適pH:中性 炭酸塩(HCO3-)を多量に含む
1/10 N NaOH 相当
内分泌
セクレチン、パンクレオチミン
ランゲルハンス島
インシュリン グルコ−ス、アミノ酸、脂肪酸の同化 貯蔵
グルカゴン の異化 遊離
(ソマトスタチン、膵ペプチド)
糖尿病:インシュリン欠乏症
*抹消組織内へのグルコ−ス取込減少
*肝臓から血中へグルコ−ス遊離増大
グルカゴン分泌過剰を伴うこと多 尿へ糖が表れる
肝臓
1.消化腺 胆汁分泌
2.代謝および貯蔵器官
単糖(主としてグルコ−ス)
小腸で吸収 門脈 肝臓 グリコ−ゲン
アミノ酸 脱アミノ
タンパク質合成
3.解毒作用
有害物質 グルクロン酸抱合
エ−テル硫酸抱合 等 尿へ
アセチル化
アンモニア 尿素
4.排泄腺 血中異常物質は胆汁とともに十二指腸へ排泄
5.生体防御機構 クッペルの星細胞 食作用・免疫反応
6.血液腺
フィブリノ−ゲン、ヘパリン、プロトロンビン、ビタミンKが合成、
老弱な血球を破壊
7.血液の貯蔵 血流の調節
胆汁 肝細胞でヘモグロビンから生成される
胆汁酸 タウロコ−ル酸、グリコ−ル酸等の総称
界面活性物質
脂肪の乳化 リパ−ゼ作用の促進
胆嚢 胆汁の濃縮・貯蔵:肝細胞は休み無く胆汁生産
大腸
水分の吸収と糞便形成
1〜2リットルの粥状液の水分90%が吸収
通過時間
盲腸 4〜6時間、右結腸曲 6時間
左結腸曲9時間、S状結腸 12時間
食物に小玉を混ぜ食べて回収すると
70%は約72時間、100%は約1週間要する
糞便成分 水分 25%
固形分25% このうち細菌が30%
腸内細菌 大腸菌群、各種球菌、ガス壊疽菌
栄養素が細菌に消費される:アスコルビン酸、 コリン 、シアノコバラミン等
細菌が生産する :ビタミンK、ビタミンB複合体
匂い物質 アミン、スカト-ル(decarboxylate)
食物繊維 食品の容積を増す 肥満防止 結腸の運動刺激
結腸癌、糖尿病、冠疾患の発病率低下(疫学調査の結果)
排便 胃結腸反射 胃に食物が入ると直腸の収縮が起こり、便意発生
便秘 個人差あり 2〜3日に1回、日に2回等々 規則性が重要
下痢 水分、Na+、K+が失われ、脱水、血液量不足、低カリウム血症
エネルギ−代謝
解糖
グルコ−スは、2分子のピルビン酸に分解し、ATPとNADHをそれぞれ2分子生成する。嫌気的条件ではピルビン酸は乳酸に還元されてNAD+を回収する。
糖新生
ピルビン酸、乳酸、グリセロ−ル、アミノ酸などの前駆体から主に肝臓と腎臓でグルコ−スを合成する。これら前駆体はオキザロ酢酸を経てホスホエノ−ルピルビン酸に変り、主に解糖経路の逆反応でグルコ−スを合成する。
グリコ−ゲンの分解と合成
肝臓と筋肉に主に存在する。グリコ−ゲンを解糖系で代謝するにはグリコ−ゲンホスホリラ−ゼで分解後、グルコ−ス6−リン酸に変える。合成はグリコ−ゲンシンタ−ゼによる。
脂肪の分解と合成
脂肪酸はベ−タ酸化でC2単位ずつ切り取られアセチルCoAを生成する。アセチルCoAからは別経路で脂肪酸が合成される。
クエン酸サイクル
グルコ−ス、脂肪酸、ケトン体生成アミノ酸の共通分解産物であるアセチルCoAは、クエン酸サイクルでCO2+H2Oに酸化され、NADHとFADH2を生じる。グルコ−ス生成アミノ酸もクエン酸サイクル中間体などを経てこのサイクルで酸化される。
ペント−スリン酸経路
NADPHとリボ−ス5−リン酸は、この経路でグルコ−ス6−リン酸の酸化で生じる。
アミノ酸の分解と合成
アミノ酸はアミノ転移で2−オキソ酸に変り、アミノ基は尿素サイクルで尿素になる。ロイシンとリシンはアセチルCoAとアセト酢酸(ケトン体生成型)のみを生じる。この他は、グルコ−ス前駆体(ピルビン酸、オキサロ酢酸、2−オキソグルタル酸、スクシニルCoA、フマル酸)を生じるアミノ酸や、両者を生じるものもある。
日本の肉食史
旧石器時代
この時代としての可能性のある遺跡は北海道から沖縄まで全国に百ケ所以上あり、食糧としたと考えられる猪、鹿の骨が発見されている。
縄文時代
縄文土器、磨製石器は全国の遺跡から発見されている。遺跡からは、貝、魚、海獣(イルカ、鯨、トド)、鳥類(雉、鶴、鴨)、野獣(猪、鹿、猿)の狩猟や、木の実やワラビ、ユリなどの採取が推定されている。さらに、粟、稗、蕎麦、イモの焼畑農法の存在も考えられている。
弥生時代
約3-4千年前(縄文後期)、農耕と家畜飼育が始る。水田稲作が大陸から北九州へもたらされる。遺跡からは食べたと考えられる野獣の骨が見つかるが、牛、馬を食糧とした形跡はない。農耕用の貴重な動物であったと考えられる。牛馬は埋葬された形跡もある。
古墳時代
馬が戦闘用に広く利用された。米は支配者階級の常食となる。中国大陸の帰化人は、牛、馬、豚、犬等を食用とした。大和朝廷は、仏教を興隆するために(米の収奪)、殺生禁断令[牛馬犬鶏猿の宍を食うことなかれ]を発した。狩猟による野獣は一般には認められていた。
奈良時代
中央集権的律令国家が成立。貴族は米、庶民は雑穀を主食とした。米は租税として中央へ集中した。米の生産を重要視したため農耕用牛馬の殺生が禁じられた。
平安時代
殺生禁断、肉食禁止、放生が度々布告された。
鎌倉・室町時代 武士の興隆。野鳥獣の摂取は盛んであったが、家畜を食べたという記録は少ない。
江戸時代
肉食や皮(殺生を伴う)をけがれとする、仏教の日本的教えが庶民へも浸透する。4つ足動物の肉を食べるとけがれる。
明治時代
天皇が牛肉を食べ、僧侶が肉食妻帯を許される。肉食忌避は表面上なくなるが、戦後まで忌避感は残っていた。
明治5年(1872)長崎でハム製造開始。
日本の肉食文化は、歴史的に石器・縄文時代の狩猟に始り水田稲作の渡来による中央権力による忌避感の誘導(商品作物としての米(租税)の重要性の増大)、明治の文明開化による肉食の肯定、所得倍増による経済の発達、による影響や環境的圧力(高温多湿、海)により形成されたきた。
老年病(成人病)
疫学的に、加齢に伴い一定の比率で増加する病気、減少することなく増加する病気をいう。
脳血管疾患、心臓病、癌、肺炎
3 2 1 1 事故等 1 その他 2
全年代合計は癌が第1位である
脳梗塞 日本型 頭蓋内の動脈 脳の細動脈 塩分
半身付随等
米国型 頭蓋外の動脈 頚動脈 コレステロ−ル
死亡
高血圧自然発生ラット
通常食 83%
+1% NaCl 100%
+大量の肉 2%
筋肉色素
食肉(筋)の色調は、ヘムタンパク質であるミオグロビン(Mb)とヘモグロビン(Hb)の含有量とそれらの誘導体の構成割合で、ほぼ決定される。
ヘムタンパク質は、可視部で独特のスペクトルを示す。生筋では還元型、酸素型、メト型の3種類の誘導体が混在し、これらの典型的な色調は、それぞれ紫赤色、鮮赤色、茶褐色である。この他に、食肉としては、加熱肉の灰褐色や加熱塩漬肉のピンク色などがある。
生物は、嫌気的な生活から開放されて好気的に進化した際にエネルギ −を効率的に利用できるようになった。例えば、グリコ−スを利用する とき、酸素を使うと嫌気下の18倍のエネルギ−が得られる。脊椎動物 が酸素を全身に運搬するのに次の2つの方法が工夫されている。
循環系:心臓脈管系、単に拡散によって酸素を運ぶなら生物の大きさは 直径1mm以下である
運搬体:HbおよびMb、もし血中にHbがなければ血液1lに酸素は5 mlしか溶解しないが、通常、血中には250mlの酸素が溶存し ている。
ヘムタンパク質の定量
ヘムタンパク質は、可視部に吸収スペクトルを示すので、これを利用して分光光度計で吸光度を測定することによって定量することが可能である。
一般に、可視部に吸収スペクトルを示すものは、安定な誘導体に変換・固定して分子吸光係数(1M溶液の吸光度:1cmセル)を用いて算出する。ヘムタンパク質の場合は、簡便法として誘導体に変換せずに等吸収点(isobestic point)である、525nmの吸光度から定量することができる。
ヘムタンパク質誘導体の存在比率
生肉では、ヘムタンパク質の誘導体は、酸素型、還元型、メト型の3種で、それぞれ特徴のある吸収スペクトルを示す。これら3種の誘導体の等吸収点は525nmで、酸素型と還元型の等吸収点は、507,552,571nmなどである。この等吸収点でメト型と比較すると571nmの吸光度の差が大きい。この分光特性を利用すれば、全誘導体の中でメト型が占める比率が計算できる。
[肉色の固定]
KNO
3(硝酸カリウム) → KNO2(亜硝酸カリウム)+H2O
細菌等の還元作用
KNO
2 + CH3-CHOH-COOH → HNO2(亜硝酸)+ CH3-CHOH-COOK
3HNO
2 → HNO3(硝酸)+ 2NO(一酸化窒素)+ H2 O
metMb + NO → metMbNO → MbNO (ニトロソミオグロビン)
還元剤(Sys、アスコルビン酸等)
畜産食品と健康
日本人のコレステロ−ル恐怖症は、根拠に乏しい。食品中のコレステロ−ル量や血清コレステロ−ル濃度に異常に関心を示す。このため、食事脂肪に対し細心の注意が払われ、バタ−の代りにマ−ガリンが、牛豚肉に代りに鶏肉が消費されている傾向が顕在化したといえよう。
コレステロ−ル含有量(100g当り)
鶏 50− 80 mg (手羽110)
豚 50− 65
牛 50− 70
羊 75
鶏卵 470
筋子 510 日本食品脂溶性成分表
いか 300 科学技術省資源調査会編(平成元年)
うに 290
日本人の1日当りの食肉摂取量は、約70g
米 国 320g
欧 州 200g(以上)
ハワイの日系人 脳卒中頻度半分
平均寿命 3年長い
日 本 ハワイ
エネルギ−(Kg) 2132 2274
総蛋白質(g) 76 94
動物性 40 71
総脂肪(g) 36 86
糖質(g) 335 260
アルコ−ル(g) 28 13
コレステロ-ル(mg) 457 545
食肉に換算で 青少年 130 中年 100 老年 60g
肉の防腐剤
肉の匂が悪くなること
脂質の酸化、細菌の増殖
脂肪 脂肪組織 トリグリセリド(TG)
筋肉中の脂質(膜結合脂質) リン脂質、リポタンパク質、 TG
飽和脂肪酸
不飽和脂肪酸 酸素と結合して遊離基(ラジカル)を生じ
脂肪酸化物や二量体を作り肉の匂を悪化させる
亜硝酸塩の利用:肉製品の他に、魚の燻製、サラダ、おしんこ等
亜硝酸塩の毒作用
亜硝酸塩が有毒な理由:メオHb、メトMbが形成されること
酸素との結合能を失う
中毒症状:頭痛、耳鳴り、吐き気、血圧低下、皮膚の紅潮
治療法:酸素吸入、1%メチレンブル-(1-2mg/kg 静注、5mg/kg 経口)、輸血
食肉での亜硝酸中毒は軽度の場合が多いが、薬害(亜硝酸アルミ、ニトログリセリン)の際にはひどいこともある。
亜硝酸塩の発癌性
亜硝酸塩を長期間摂取すると癌が発生することがある。亜硝酸自体に発癌作用が認められるわけではなく、第二級のアミンと作用しニトロソアミンを生じるため発癌性がある。
R − R −
R NH+NO2 R N−NO+OH
第二級アミン ニトロソアミン
ニトロソアミンの生成を防止するためには、亜硝酸塩とともに三酸化二窒素(N2O3)を入れる良い。
アメリカで使用されている酸化防止剤
BHA(t-ブチルヒドロキシアニソ-ル)
BHT(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン)
これらの化合物は、OH基をもち、Hを脂肪酸ラジカルに渡してもとの脂肪酸に戻す。また、これらは、米国食品医薬品局が安全性を認めた食品のリストであるGenerally Recognized As Safe list (GRAS)に収載されている。
BHAのLD50は2000μg/g(ラット、経口)
BHTは、食品の脂肪含有量の0.02%まで使用可能。LD50は1700μg/g(ラット、経口)
平均的米国人は、0.5mg/kg/日摂取、年間使用量270t(BHT)
調理の科学すべての食品は、ヒトの口に入るまでに必ず何等かの手が加えられ、食物となる。米は炊いて御飯にしなければ食べられない。食物の形にする最終段階を調理という。食物の目的は栄養であるが、ヒトの動機はほぼ嗜好にある。ヒトが要求する栄養物質は原始時代から不変;体内へ取り込む基本物質が変ったということなく、組合わせや存在状態が変ったにすぎない。
物理学:洗う、浸す、切る、混ぜる、つぶす、冷やす
物理化学:加熱(焼く、揚げる、蒸す、煮る、ゆでる、炊く)
調理はヒトの食べ物の範囲を大きく広げたが、生理機能の一部を退化させてしまった。挽き臼:歯、なべ、かま:胃、醗酵食品:消化酵素
和 素材中心 淡泊 季節の新鮮材料
色、形を重視 生ま物
洋 加熱法中心 濃厚 肉と野菜
香り重視 ソ−ス
中 調理中心 味付 乾燥物、保存材料
味を重視 煮物、揚物
筋肉性食品
食 肉 魚 肉
種類 牛、豚、鶏 季節ごと多種類
生産性 飼育可能 生産不安定
季節性 変動少ない 種類、成分等変動
筋線維 長い、硬い 短い
死後硬直 緩慢 急速
味 穏やか イノシン酸
匂い 穏やか トリメチルアミン
調理 スパイス等で変化 刺身、塩焼 (注:加熱有無)
特徴 加熱法 素材、色、形
食肉は、硬直、熟成等時間を要するので食べごろを見計らう。
魚肉は、硬直が速く軟化がはじまると魚臭がでるので硬直中にたべることが多い。