食品の保存(01)
食品やその素材の保存の必要性:産地から消費地への輸送・食品素材の季節性
農・畜・水産物は基本的に収穫期の季節性を有する。
保存に伴なう変化 @微生物による変化A細胞内での変化B化学的変化C物理的変化
保存方法
1. 水分調整 @水分活性の低下A乾燥
水の存在様式
a自由水 free water 成分間隙に毛管凝縮
b準結合水 semi-bound water 成分と緩やかに結合
c結合水 bound water 成分と強く結合
a 毛管凝集水分 自由水
b 多分子層水分 自由水と結合水の中間=準結合水+結合水の一部
c 単分子層水分 成分の表面を覆う単分子層の皮膜を形成する水
@ 水分活性(Aw)=P/Po P:その温度における食品の水蒸気圧、Po:純水の水蒸気圧
水分収着等温線
A 中間水分食品(IMF)水分20-40%、Aw0.60-0.85 室温貯蔵可能な食品
フルーツケーキ、羊羹、干柿、サラミソーセージ、佃煮
B 塩蔵・糖蔵 浸透圧:1%食塩7.6気圧、2%食塩15気圧、1%ショ糖0.68気圧、
野菜の細胞 約5-6気圧(食塩の溶解度36g/100ml)
C 乾燥
2. 低温 微生物の生育・細胞内変化の抑制
@ 冷蔵 0-10℃、例外:バナナなど熱帯産果実・野菜は低温障害
A 氷温 氷結点から0℃までの未凍結温度領域を氷温域
B パーシャル・フリージング 凍結点よりやや低い温度で保存
C チルド(Chilled) 温度帯の定義無し。チルド・ハンバーグ、ミートボール、
餃子は日本農林規格で0‐5℃
D 冷凍 凍結(一般に‐20℃程度)
3. 加熱 微生物は通常80‐90℃数10分で死滅する。
4. pH 低pHでは微生物の生育が阻止される。同一pHでは強酸より弱酸の方が阻止力が強い。
5.
雰囲気 通常は空気であるが、野菜など呼吸するものには人工的に組成を変え貯蔵する。
CA:(Controlled Atmosphere storage)
6. その他
@放射線照射:日本では、じゃがいもの発芽抑制にコバルト60のγ線15Krad以下のみ
A脱酸素剤:酸素不透過性フィルム内に酸素と結合する物質を置く。鉄系、有機酸塩類系
B濾過滅菌:主としてビールに用いられている。
C燻煙
D保存料:食品衛生法で規制 LD50
食品製造の新技術(02)
1. 膜
@精密膜濾過:0.05−10μmの微粒子を分離。日本酒、ビール、牛乳、水等の除菌。醤油の滓取廃液処理
A限外濾過:孔径0.005−0.05μm、分子量1000-3000程度の高分子分離。飲料の清澄、色素濃縮・精製、チーズ製造(ホエー分離)
B逆浸透:孔径0.0005−0.005μm、半透膜に圧をかけ、溶媒を分離。飲料の濃縮、海水の淡水化。
C電気透析:イオン交換膜で脱塩。オリゴ糖の脱塩、ミネラル除去ミルク
2. 電磁波 電場・磁場の時間的変化として空間を伝播する波動の総称 短波長からγ、X、紫外、可視、赤外線、電波など
@放射線 冷殺菌(乾燥食品、プラスッチク)高エネルギーによる分子構造の破壊
A紫外線 UV-A〜-C(400-315、315-280、280-100nm)260nm付近で殺菌作用最大 殺菌(紫外線)ランプ253.7nmを主成分とするランプ
B 赤外線 熱線、近(0.75-4)、中間、遠赤外線(4-1000μm)。水、生体高分子は 遠赤外線を良く吸収 し発熱する。物体表面の加熱。
C マイクロ波 周波数の高い電波(300MHz−30GHz)。915と2450MHzが頻用:電子 レンジ。
ハイパードライ:減圧、マイクロ波、遠赤外線を同時利用する乾燥法。
3. 超高圧 3000気圧で胞子以外の微生物死滅。加熱殺菌にない生の感覚。
ジャム、フルーツジュース、ハムなどに利用
4. 超臨界ガス抽出 気・液相が共存し得る限界の温度・圧力を超えた状態で存在する流体。コーヒーからのカフェイン除去、特定の油脂成分抽出や有臭成分の抽出や除去。
5. バイオリアクター アミノ酸、異性化糖、フラクトオリゴ糖の製造等
6. 低温
@凍結粉砕:低温脆性を利用して粉砕。油分や水分による粉砕不適なものや香り揮散性のもの。
A凍結濃縮 液状食品を部分的に凍結し、溶媒を氷として除去し溶質を濃縮。色 素・ビタミンの分解抑制、 酸化・褐変防止、芳香成分の揮散防止、 微生物汚染防止等。コーヒー、茶、ミルク等の濃縮。
B凍結乾燥 高コスト、良品質。インスタント食品
C氷温貯蔵 細胞の凍結死は0℃以下。0℃から氷結点までの領域で食品を貯蔵する と鮮度良好。CF貯蔵、Controlled Freezing-point storage
7. 無菌包装(aseptic package)滅菌した食品を滅菌した容器に無菌的に充填。
UHT滅菌したミルク、果汁、スープ等の液状食品を過酸化水素、エチレン
オキサイド、放射線等で滅菌した紙パック等の容器に充 填。他に水産練製品、
チーズ、スライスハムが実用化。
8. 加圧押出機(エクストルーダー、extruder)
密閉系の円筒内にいくつかの螺旋(スクリュー)を持ち、食品の粉砕・混合、
加熱殺菌(HTST)、整形等、一連の作業を行う装置。
畜産食品各論
鶏卵 (http://www.ultra-k.com/tamago/)
卵の構造は、卵殻・卵殻膜、卵白、卵黄からなり、それらの割合は約1:6:3である。
○ 卵殻:卵殻は卵の内部を保護する役割を有し、主成分は炭酸カルシウムである。殻には細かな穴が無数に存在し、内部で発生した炭酸ガスを排泄する。殻が完全に密封されていると、中でヒヨコが育つ際に、窒息する。殻を通 して空気は自由に行き来し、水分は自然蒸発する。
○ クチクラ:産み立ての卵の表面はザラザラしている。これは「クチクラ」という皮膜が覆っているためで、細菌の侵入を防ぐ。クチクラはこすったり、水洗いをすれば簡単に落ちてしまう。クチクラが失われた状態で殻に水滴がつくと細菌が侵入してくる恐れがある。
○ カラザ:卵白の白いヒモ状の部分を「カラザ」といい、胚盤を常に上向きに安定させる。
○ 卵白:卵白はカラザ、外水様卵白、濃厚卵白、内水様卵白から成り、約89%が水分である。濃厚卵白は卵黄を包み込むようにして保護し、同時に卵黄が端に片寄らないようにしている。卵を常温で放置すると、濃厚卵白、カラザが水様になり、卵黄を中央に保持できなくなる。卵黄が殻に触れると細菌に汚染される可能性が高くなる。卵白は、二酸化炭素の蒸散とともにアルカリ性となり抗菌性を増す。また、リゾチームの存在により細菌の侵入を防ぐ。卵は一般に腐りやすいと考えられるが、それは殻から出した場合のことで、殻付きで冷蔵管理されれば2〜3週間は保存可能である。産卵直後、卵白は二酸化炭素を溶解させているため白く濁っている。この状態で卵をゆでると膨張により殻はむけにくい。しかし、2〜3日後にはガスが抜けて卵白は透明になり、ゆで卵の殻は剥き易くなる。
○ 卵殻膜:ゆで卵にすると殻ごとむけてしまう薄い膜で、2重になっており卵殻膜と言う。膜と膜の間には隙間があり空気が貯まっている。この部分を「気室」という。気室は産み立の温かい卵にはなく、時間がたって冷めて卵白が縮むにつれ、外から空気が入り込むことで自然に生じる。このため古い卵ほど「気室」は大きくなる。気室・気孔の存在によって殻つきのまま燻製にした卵の中まで香りを染み込ませることができる。
鶏卵の一般成分(g/100g)
水分 蛋白質 脂質 糖質 灰分 kcal
全卵 74.7 12.3 11.2 0.9 0.9 158
卵白 88.0 10.4 --- 0.9 0.9 49
卵黄 51.0 15.3 31.3 0.8 1.7 351
卵 殻:無機質 91%(炭酸カルシウム98.4、炭酸マグネシウム0.8、燐酸カルシウム0.7%)、
蛋白質 6.4%
気孔:7000−17000個、大きさ、外側15-65μm、 内側6-23μm
クチクラ:蛋白質85%、脂質3%、糖質5%
平均厚さ10μm 、無定形物質;産卵時に分泌された粘液が乾燥したもの。産卵直後、気孔閉鎖
色 素:卵殻の色は、プロトポルフィリン(茶)、ビリベルジン(青)、その亜鉛キレート(緑)の3種が
主要。白は色素量が少ない。
卵殻膜 :蛋白質90%。内外2枚の膜。外60、内卵殻膜20μm。さらに限界膜が卵白と結合。
卵白:濃厚、外水溶、内水溶卵白、カラザ層、カラザ:57、23、17、2、0.5 (重量比)
卵白蛋白質
ovaalubumin
ovotransferrin
ovomucoid
lysozyme
ovomucin
ovoinhibitor
ovomacroglobulin
cystatin
riboflavin biding protein
avidin
他:チアミン、ビタミンB12結合蛋白質
卵黄:黄色卵黄(97%、濃淡2色の黄色卵黄が交互に層状に配列)、白色珠心(テラブラ)、
白色卵黄(3%、テラブラから胚盤までの円柱状)
卵黄膜:内外2層の膜。約50mg、厚さ14μm。
卵黄蛋白質
lipovitellin
phositin
low density lipoprotein
livetin
riboflavin biding protein
他 レチノ−ル、ビオチン結合蛋白質
卵黄脂質
英国鶏卵産業協会(BEIC)のウェブニュースによると、鶏卵栄養センター(米国ワシントン州)のD・マクナムラ博士は、英国王立医学協会に「鶏卵のコレステロールに対する不安が払拭されてきたことにより、ここ10年間で卵を使ったメニューが確実に復帰してきている」と報告した。同氏は、医学協会が開いたフォーラムで「食品中のコレステロールは心臓病のファクターなのか?」と題した講演を行い、米国農務省、鶏卵業界、アリゾナ大学などの協力の下でリサーチした結果について「血中コレステロールを上昇させる主要因は食事中に含まれるコレステロールではなく飽和脂肪である。その飽和脂肪については、鶏卵における含有量は比較的低い」と報告。また、同氏は約11万7000人を対象に調査した結果、1日1個以上の鶏卵(高コレステロール食品)の摂取と心臓疾患の間には、特に因果関係が認められなかった」と指摘した。
1968年から30年来、卵や肉には「高コレステロール食品なので、心臓病や動脈硬化の危険を高める」との学説が常につきまとっていた。この説は、もはや「信仰」といってもよいほど浸透している(ちなみに鶏卵業界がサルモネラの危機に直面し始め、免疫弱者が非加熱卵の摂食を避けるように言われ始めたのは約20年前のことである)。しかし、これら食材は貴重なタンパク源であると同時に、ビタミンA、D、EおよびB群を豊富に含有し、また亜鉛、カルシウム、鉄をはじめとしたミネラル源でもあるため、とりわけ児童の成長には必要な栄養源である。また、卵は1個平均約80カロリーで、含まれる脂肪の大部分が不飽和脂肪酸であるため、健康的かつバランスの取れた食材といえる。
マクナムラ博士は「食品中のコレステロールを抑えることが、心臓や血管系の疾患の予防につながることを科学的に証明できるデータはほとんどない。特に鶏卵は、コレステロールを含んでいる反面、飽和脂肪の含有量が少ないため、(肉や卵の摂取量を)必要以上に制限する事は不当ではないだろうか」と提唱。英国で鶏卵のコレステロール含有量を考慮して週に3個が摂取リミットとする学説が定着していることについては、「(コレステロール=心臓疾患のリスク、という学説は)古い信仰でしかない。例えば、日本は世界有数の鶏卵消費国ではあるが、同時に心臓病の罹患率が最も低い国の1つでもある」と指摘した。