研究内容 Research

このページでは研究室で行っている研究について紹介します。

研究テーマは食品汚染や食中毒の原因となるカビ毒(マイコトキシン)およびその産生真菌、ズーノーシスを含む真菌感染症の原因となる真菌を対象として研究を行っていきます。これらの研究を通じて、動物衛生や畜産・食品の安全性の向上、そして私たちの健康に貢献していきたいと考えています。

現在、研究室ではこれまでに豊留が行ってきたAspergillus fumigatusと血清の相互作用に関する研究を中心に行っています。特にバイオフィルム形成への寄与に関する分子レベルでの解明を中心に研究を行っています。

また、カビ毒産生菌として重要な位置を占めるAspergillus flavusについて、特に本邦の臨床分離株を用いた研究を計画しています。

さらには新たに問題になりつつあるアフラトキシン以外のカビ毒やズーノーシスを含む真菌感染症原因真菌として重要なA. fumigatus以外の病原真菌についても研究を行っていく予定です。

血清添加により形成されたA. fumigatus菌体外マトリクス
ウシ胎児血清を添加して培養したAspergillus fumigatus菌糸周囲にはこのような網状の菌体外マトリクスを伴うバイオフィルムが形成される。

真菌とは

 一般にカビや酵母、キノコの仲間を総称して真菌と呼びます(例外もあり、例えば「○○カビ」と呼ばれていてもカビの仲間では無いものもいます)。
 真菌は非常にありふれた存在で常に身の回りにいます。一部はコウジカビAspergillus oryzaeやいわゆるパン酵母Saccharomyces cerevisiaeなどのように発酵食品製造に用いられたりしています。
 ただし、ごく一部の真菌は病気を起こし、これらをまとめて病原真菌と呼んでいます。病原真菌が感染して起こる病気を総称して真菌症(真菌感染症)と呼びます。またやはり一部のカビがカビ毒(マイコトキシン)と呼ばれる毒素を作って食品や飼料を汚染し、問題となります。

Aspergillus fumigatusバイオフィルムの形成を促進する宿主因子の解析

 Aspergillus fumigatusはアスペルギルス症の主要な原因真菌です。アスペルギルス症は、特に免疫の低下したヒトや動物で感染を起こして、重篤な場合には全身に感染が広がり、死に至らしめることもある病気です。鳥類を中心に動物でもアスペルギルス症は広く見られ、鳥類の中でもペンギンなどが罹りやすいとされています。これら真菌の胞子は環境中に広く存在しており、免疫能が低下したヒト・動物が吸入することで呼吸器に入ります。健康なヒト・動物では免疫機能により速やかに排除されますが、たびたび繰り返しているように免疫機能が低下しているとこれら真菌が定着・感染を起こします。
 全身の免疫機能が低下していないが、結核後の空洞などが肺に存在する場合などにもA. fumigatusが感染することがあります。多くの場合、菌球と呼ばれる真菌細胞と宿主成分からなるカタマリを形成しますが、この菌球は近年ではA. fumigatusが感染の過程で形成するバイオフィルムの一種と考えられるようになってきました。形成された菌球に居るA. fumigatusへの抗真菌薬の効果は限定的であると考えられるため、A. fumigatusバイオフィルムの形成機構解明が治療法や治療薬開発に大きく貢献すると期待されている。
 私たちはこれまでにヒトやウシの血清成分を添加して培養することにより、A. fumigatusがバイオフィルム構造を形成することを報告してきました[Int. J. Med. Microbiol., 2012, PubMed]。この報告の中で、血清の糖タンパク質フェツインAがA. fumigatusにバイオフィルム様構造形成を誘導すること、バイオマス増大や菌糸の分枝を促進することを報告しました。フェツインAは菌糸に結合することもわかっていますが、どのようなメカニズムで結合するのかやこの結合が重要な役割を果たしているのか、といった点は分かっていません。現在、様々な手法を使って解析を進めています。これらの分子レベルでの解明を進めて、バイオフィルム形成を伴うA. fumigatus感染の治療に役立つ情報を提供したいと考えています。   

アゾール系抗真菌薬耐性に関する研究

 真菌症の治療には抗真菌薬と呼ばれる真菌の増殖を止めるもしくは真菌細胞を破壊する薬が使われます。
 アゾール系抗真菌薬は真菌感染症治療の主力薬剤の一つです。ヒトや動物のアスペルギルス症の治療にも用いられています。病原真菌の生育を抑えますが、長期に使っていると病原真菌が薬剤耐性を獲得することがあります。私たちもこれまでに薬剤治療中の患者さんからアゾール耐性を獲得したアスペルギルス症原因菌を分離し、報告しています[J. Infect. Chemother., 2016, PubMed]。この耐性A. fumigatus株はアゾール系抗真菌薬が標的とする酵素(Cyp51A)に点突然変異(G448S)が生じていました。この変異は薬剤治療中に生じて、病原菌に耐性を付与したと考えられます。
 このような薬剤治療が引き金となって耐性化が生じることは知られていましたが、近年になって野外環境中でアゾール耐性株がひろがっていることが分かってきており、世界的な問題となっています。この野外環境で広がっている耐性株は標的酵素Cyp51Aの点変異とともにそのプロモーター領域に数十塩基対の繰り返し配列(タンデムリピート、TR)を持つことが特徴です。ユーラシア大陸を中心に報告がなされてきましたが、私たちのグループを含めて日本からの報告も少しずつ増えてきています[J. Infect. Chemother., 2017, PubMed]; [Med. Mycol. J. 2017, PubMed]。海外の報告では農産物(球根)などを介して広がっていることが報告されており、モノやヒトの移動とともに広がっていることが推測されています。私たちが報告したTR耐性株も日本で分離されましたが、いくつかの遺伝子領域を調べると海外で報告のあるTR耐性株と近縁との結果が出ています。
 今後の日本での耐性株の拡がりなどに注意が必要と考えており、研究室では今後も関連した研究を続けて情報提供を行いたいと考えています。

石鎚黒茶の発酵に関わる真菌の解析(作成中です)

その他の研究紹介ページ(作成中です)