帯広畜産大学家畜病理学教室
Laboratory of Veterinary Pathology, Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine

活動紹介

病理解剖

解剖室

 病気になった動物に対して病理解剖を行い、肉眼的な診断を下します。
 病理解剖に持ち込まれる動物には大抵“臨床症状”を呈している動物達です。病理解剖ではその“臨床症状”の原因が何であるのかを解き明かす第一歩であり、とても重要なプロセスです。

 言葉をしゃべる事ができない動物達が臨床症状を呈するまでには、さまざまな段階があり、また、いくつもの要因が絡まって臨床症状を呈するようになります。
 その要因を病理解剖にて明らかにし、どのようにその要因が絡まりあう事で臨床症状に至るのかを病理解剖の段階で可能な限り明らかにしてゆきます。

 病理解剖は将来企業などで病理研究を行う学生だけではなく、臨床に進む学生にとっても、病気がどのようにしてできていくのかを解明してゆく病理解剖というプロセス、どういう症状のときにどういう病変が形成されていくかを学ぶ事ができる病理解剖は大変有意義です。
 また、後に述べる組織診断に関しても、病理解剖で病変の見極めや分布状況なども正確に把握しておかなければ正確に行う事ができず、肉眼解剖は診断の第一歩として非常に重要です。
 最初の頃はどこが病変なのかさえ分からない事が多いようですが、病理解剖の経験をつむことによってだんだんと違いが分かってゆくようです。

 私たちの教室では、主に牛を中心とする産業動物を対象に病理解剖を行っておりますが、学内・学外からの依頼による犬猫など小動物の病理解剖も行っています。 また、動物園動物の受け入れも行っており、病理解剖段階からの依頼や組織検査のみの依頼もいただいています。
 対象とする動物種の内、特に牛に関して本学内科学教室と密接な協力のもとで臨床検査から病理検査までを一貫して行っています。
 何らかの臨床症状により内科学教室に持ち込まれた牛は、詳細な内科学的検査や検討が行われた後に病理解剖に供されます。 解剖前には内科学教室担当者から、参加者全員に対して検査概要と予想される病態について説明が行われます。 そのため、病理解剖のための解剖ではなく、臨床症状や検査結果に基づく病理解剖となるため、症状や検査結果を説明しうる解剖結果になるのか真剣に解剖に臨むことになります。 また、臨床症状や、臨床検査結果から予想される病態、病理解剖により把握される病態の3つを密接にリンクさせて学ぶことができます。
 実際に病気になってしまった動物を臨床的に精査し、病理学的検索により病態や器質的変化を捉えて学ぶというプロセスは病気を理解するうえでとても重要な事です。 それら一連の流れは、本学が日本でも有数の畜産が発展している十勝に立地し、ご協力いただける臨床現場の先生方がいらっしゃり 、内科と病理が密接に協力するといういくつかの条件が整って初めて行える学習・研究のプロセスです。 この貴重な教育・研究の場を今後とも維持・発展させていくことが重要な事だと考えています。

組織診断

切片

 病理解剖時に採取しておいた、臓器を薄く切って染色し、組織学的な観察を行います。
 病理解剖の段階で、例えば“肝臓”が悪い事によって生じた病気であると分かったとしても、実際肝臓がどう悪かったのかは、肉眼的にはそこまで断言する事はできません。そこで、組織学的な観察を行い、最終的な診断をつけるプロセスが組織診断です。
 単純な染色によって診断がつくこともありますが、症例によっては更に特別な染色を行ったり、電子顕微鏡での観察、抗原抗体反応を利用した免疫染色、DNA・RNAを対象とした処理を施す事もあります。

 この組織学的な診断は“病理形態学”に基づいて行われていますが、この分野は独学しづらいのが特徴です。
 学生は自分自身で観察を行い記録、診断を下した上で、複数の教員から“赤ペン先生”のように観察や診断を添削してもらいます。
 これを繰り返してゆく事で、病理形態学の研鑽を積んでゆきます。

 こうして最終的に下された診断は臨床の先生にも回答を行い、今後の診療に役立てていただけるよう心がけています。

顕微鏡観察

 組織学的な診断は、病理解剖を行った動物以外でも、動物病院で切除され、検査のために送られてきたもの(多くは小動物の腫瘤)に対しても行われており、腫瘍か炎症か、また、良性か悪性かなどの検査をルーチンワークとして行っています。
 この動物病院から送られてきた材料の検査は、できるだけ早い時間で病院に回答しなければならないという性質上、忙しくもあり大変ですが、さまざまな病変、病気を観察するいい機会であり、とても勉強になります。

 また、当教室は実験動物病理標本交見会や獣医病理研修会を通じて多くの研究機関から送付されてくる切片を回覧、検討する事でも診断技術の向上を図っているほか、病理に関わる沢山の人たちと交流する事ができ、貴重な財産となっています。

病気の研究

 基本的には症例を報告する症例報告が病理の世界では一番重要なものですがそれ以外でも、主に病気の成り立ちについてさまざまな研究が行われています。
 手法としては、切片上で様々な病原因子を描き出し、病変の形成との関係を暴きだす方法や、自然症例で観察された病気を実験的に再現することで行う研究などがあります。
 研究室に入った当初は上記二つの項目の勉強を頑張りますが、その中でめぐり合った珍しい病気を症例報告としてまとめて見たりするうちに段々と研究にシフトしてゆきます。
 実際の研究については、各教員のページをご覧いただきたいのですが、まだ作成中なので、近年の卒業論文のテーマについて記載しておきます。

平成29年度
・子牛の小脳皮質変性症に関する病理学的検討(S.Fujii)
 :Pathological study on the cerebral abiotrophy in calves
・ホルスタイン成長不良子牛のAPOB遺伝子遺伝子型分類に基づく病理学的研究(H.Irie)
 :Pathological study on the ill-grew calves based on the APOB geno-typings.
平成28年度
・牛の圧迫性脊髄症に関する病理学的検討(T.Kikuchi)
 :Pathological study on the compression myelopathy in cows.
・ウシAAアミロイドーシス発症例におけるSAA遺伝子の多型調査(R.Fujita)
 : Surveillance on the gene polymorphorisms of SAA in AA amyloidosis-developed cows.
平成27年度
・ウシの糸球体傷害に関する病理組織学的検討(Y.S.Iwasawa)
 :Pathological study on the glomerular damages in cows.
・ウシの唾液腺部未分化腫瘍に関する病理学的研究(S.Nakagun)
 : Pathological study on the madibular undifferenciated tumors in cows
平成26年度
・ホルスタイン牛における心筋症の病理学的研究(D.Kumagai)
 : Pathological studies on cardiomyopathy of Holstein-Friesian cattle
・悪性上皮性腫瘍を認めた同居ライオン2頭に関する病理学的研究(R.Ninomiya)
 : Case studies and pathological studies on 2 cohabited lions with malignant epithelial tumors.
・ネフローゼ症状を示さない非典型的牛AAアミロイド症症例における腎病変移管する病理学的研究(K.Motomura)
 : Pathological studies on nephrotic lesions of atypical and asymptomatic bovine AA amyloidosis
平成25年度
・牛AAアミロイド症におけるアミロイド沈着組織に関する検討(Y.Itoh)
 : Studies on distribution of amyloid deposits in bovine AA amyloidosis
・心奇形罹患牛での肺小動脈病変に関する病理形態学的研究(K.Sugimoto)
 :Patho-morphometrical studies on arterial lesions in cattle with cardiac anomaly
平成24年度
・牛ウイルス性下痢症ウイルス持続感染子牛でみられた中枢神経白質異栄養症に関する病理学的研究(T.Ueno)
 : Pathological studies on leukodystrophy of CNS in BVDV persitantly infected calf
・リスザルにおけるトキソプラズマ症の集団発生報告とその病理学的研究(H.Goyama)
 : Case study and pathological studies on epidemic outbreak of toxoplasmosis in squirrel monkey
平成23年度
・猫のパピローマウイルス関連皮膚腫瘍に関する病理学的研究
 : Pathological studies on papilloma virus-related cutaneous tumor in cat
・ネコのワクチン接種部肉腫に関する病理形態学的研究
 : Morphological and pathological studies on feline vaccine-associated sarcoma
平成22年度
・犬の皮膚骨腫に関する病理学的研究
  : Pathological studies on canine cutaneous osteoma
・牛の鼻腔内腫瘍の病理学的及び原因学的検索
  : Pathological and aetiological studies of intranasal tumor in cattle
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・牛の視覚路に関する比較病理学的研究
  : Comparative-pathological studies of optic pathway in cattle
平成21年度
・ウサギの実験的アミロイドーシス発症モデルの開発に関する研究
  : Studies on deveolpment of experimetal rabbit amyloidosis
・子牛の周産期神経疾患に関する病理学的研究
  : Pathological studies on perinatal neurological disorders in calf
平成20年度
・犬パピローマウイルス関連皮膚疾患に関する病理学的研究
  : Pathological studies of canine papilloma virus-related skin disease
・黒毛和種牛の視覚路変性に関する病理学的研究
  : Pathological studies on degereration of optic pathway in Japasese black cattle
・牛に見られる血管壁の硝子変性に関する病理学的研究
  : Pathological studies of vascular hyaline degeneration in cattle