第4話    4月恋の日
『はつこい』と聞いて皆さんが想像するのは当然『初恋』であろう。
ちなみに僕の初恋は小学5年生のとき。相手は近所に住む同級生であった。
などと書いたが当然今回の話は『恋』に関する話ではない。それではどんな話なのかというとそれはお楽しみなのである。
研究室の電話が鳴った。6年生の亜美さんが対応し、先生に引き継いだ。それでもって僕にこう言った。
『動物園からの電話よ。たぶん解剖の以来じゃないかなぁ。』
その瞬間、僕の興奮は最高潮に達した。
『ど、ど、ど動物園ですかぁ?ど、ど、ど、動物園ですかぁ?』
実は僕は子供のころから動物園が大好きで、小学生のころには『動物と動物園』という日本動物園協会発行の雑誌を定期購読していたほどなのだ。
頭の中はもうライオンやゾウやキリンがぐるぐる回っている。僕の頭の中では野生動物といえばサバンナに住む動物であり、すなわちライオンやゾウやキリンやシマウマのことをさす。
『ライオン、キリン、ゾウ、シマウマ』そうつぶやきながら先生の電話が終わるのを待つ僕の興奮はもう爆発寸前である。
そして先生の電話が終わるや否や、早口でまくし立てた。
『動物園からですか?解剖の依頼ですか?』
『そうだ』と答える先生。
『何の解剖ですか?』すかさず聞き返す僕。
すると先生、一呼吸をおいてこう言った。
『コイだ。』
その瞬間、僕の頭の中には『?』マークが100個ぐらい浮かんできた。
どんなに考えても僕の知ってるサバンナには『コイダ』などという生物は存在しない。
実はもう自分でも答えはわかっているのに、心がサバンナから戻ってくるのを拒否している…
しかし、意を決して先生にこう尋ねた。
『池の中を泳いでいる、あの鯉ですか?』
その問いに対する先生の答えは僕を何千kmも離れた広大なサバンナから、研究室へ引き戻した。

『そうだ。魚の鯉だ。』
30分ほどして動物園の職員が到着。
持参したビニール袋の中には60センチメートルはある鯉が2匹入っていた。
しかし非常に臭い。腐敗臭が鼻につく。
何でも池のそばで工事をしたところ、数十匹の鯉が次々を死んでいったらしい。
そんな話を職員の人から聞きながら、目の前の鯉を見つつ、うーんどうしようと考え込む先生&学生軍団。
なぜなら大学で魚に関する講義といえば、5年生の『魚病学』しかなく、しかも外部から専門家を招いて4日間で終わらせてしまう講義だからである。
まずは鯉の体をどう解剖すればいいのかがわからない。
とりあえず先生がおなかを開いてみる。
すると一匹からはものすごい悪臭。どろどろにとけた臓器が流れ出てくる。
どろどろに溶けていては組織診断など下せるわけもなく、ゴミ袋いき。
もういったいの鯉の臓器はとりあえず腐ってはいない。
しかしどれがどの臓器なのかがわからない。僕の知識といえば、
『魚は肺を持たず、えら呼吸をする。心臓は一心房一心室である(ちなみに哺乳類は2心房2心室)。』
という高校生並みの知識でしかない。
皆で図鑑とにらめっこしながら何とか採材完了。
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