4月寝ゲロの日  酒とクローンと僕
目が覚めると、すでに昼の12時。「午前の授業はさぼっちまったなあ。」などと、
ボーっと考える。しかし、起きあがれない。頭が割れるようにいたい。吐き気が凄い。
いわゆる二日酔いってやつだ。
 
なぜ、こんなに二日酔いかといえば、昨夜、自分の住んでいる寮で新入生歓迎行事があったからである。この行事を簡単に説明すると、上級生の部屋を新入寮生が挨拶して回るのである。この時、上級生達は料理とお酒を用意して、挨拶に来たかわいい新入寮生達にふるまうのである。こう説明すると、ふつうの行事なのだが、実際に用意されている酒が凄い。75%のラム酒や、99%のウォッカを持って待ち構えている奴もいたりすのである。(断っておくが、美味しい料理と、ビールや梅酒でもてなす心優しい先輩もいる。)ちなみに、僕が今回用意したのは、49%のジン。これにライムジュースをまぜて、ジンライム(推定アルコール度数40%)を、ふるまった。しかし、心優しい僕のこと。かわいい一年生には少ししか飲ませず、自分だけガブガブ飲む。40%を飲む、飲む、飲む。そのうち、気分が良くなって、「よーし、新入生の振りして、俺も挨拶してまわるぞぉー。」などとばかなことを考え、他の上級生の部屋をまわり、酒を飲む、飲む、飲む。当然、撃沈。記憶など途中でなくなった。そして、2年生に自分の部屋まで運ばれるといういつものパターン。(寮生全員が飲んでしまうと介抱する人がいなくなるので、2年生は、お酒を飲まずに待機しているのである。)ちなみに、前年も同じようなことをして、最後に99%のウォッカを飲んでつぶれている。
そんなわけで、その物凄い頭痛にたえながら、なんとか起きてトイレに直行。とりあえず吐く。再び部屋に戻って、ふとんのなかへ。ここで3年生の時ならば、午後の授業もさぼって、明日の朝まで眠り続ければ良い。しかし、4年生になって研究室に入ったばかりの僕。授業はさぼっても、研究室の仕事まで、さぼるわけには行かない。ちなみに今日は午後4時から牛の解剖が入っている。これにはなんとしても行かなくてはならない。あと、3時間半で少しでも回復することを願って眠りにつく。
3時間半後、はうようにしてふとんを出る。相変わらず、凄い頭痛。気を抜くと吐いてしまいそうだ。しかし、行かないわけにはいかない。ふらふらしながら、研究室に行くと、 みんなすでに解剖の準備を始めている。ヤバい、急がねばと思いつつも、体も頭もついてこない。しかし、この二日酔いは誰にもばれてはならないと、必死に準備を手伝う。そこへ、本日解剖される子牛登場。生後1週間の子牛である。そして、この牛、なんと、クローン牛なのである。(ただし、体細胞クローンでなく、受精卵分割クローン。)なんでも、世界的傾向として、出生時の体重が、ふつうの牛より、クローン牛の方が大きいのだそうだ。その原因を研究している東京の研究所が、十勝で生ませたクローン牛の解剖を、我が病理学研究室に依頼してきたのだ。
病気の牛ではないので、解剖して臓器をとりだして、それぞれの重さを量った後、ホルマリンにつけて研究所の人に渡せば良いらしい。放血も6年生がするので簡単な仕事である。しかし、二日酔いの僕はたっているだけで、もういっぱいいっぱい。取り出した臓器を量りにのせるために2、3歩いただけでもうふらふら。臓器を落としてしまいそう。「二日酔いのせいで臓器を落としたら殺されちまう。」と、歯を食いしばってなんとかその日の解剖を乗り切った。
 そしてこう誓うのであった。「酒なんてもう二度と飲むもんかぁ。」と。しかし、この2ヶ月後に、またも記憶を失う程飲んで、寝ゲロして後輩に運ばれることになることを、この時の僕は知る由もなかった。


しかし、この話はまた別の機会に。というか病理学とは全く関係ないので、話すことは無いはずである。
まーつん