け上がりで得られる達成感と新しい風景を地元に
研究拠点である『ちくだいKIP』を通し、
時代に必要なものを抽出し提供する地域貢献を
Associate professor Murata Koichiro
村田 浩一郎准教授
大学院時代から構想を練ってきた
総合型地域コミュニティ
「体操競技は100の技をこなしても、1つミスをすれば減点になる。それをクリアするには、失敗から学び成長するしかない。体操で得たこの経験が、自分の人生に大きく影響しています」と語るのは、村田浩一郎准教授。
村田准教授は個人で活躍する高校時代から、体操界から注目されていた。早稲田大学のとある体操部OBもその一人。大学受験に際し、ぜひ部の再生のために入学してほしいと突然の電話を受ける。その熱意に押され一般枠で受験。当初の希望大学にも合格したが、OBの涙ながらの合格の喜びように早稲田を選んだ。大学入学後は体操部の主将を務め、部を1部昇格へ導く。自身も全日本学生選手権のつり輪で5位に入賞するなど、際立った活躍ぶりをみせた。
大学院では学部で専攻したバイオメカニクスの研究を続ける一方、地域のコミュニティで体操を指導。「スポーツで生業を立てる」という構想を固めていった。しかし、現場ではお金の問題が活動の存続を危うくしている現実も知る。「目指したのは“健康”と“楽しい”を結びつけるコミュニティですが、稼いで運営できる事業を念頭におきました」。その構想を形にしたのが、2015年に設立した『ちくだいKIP』。KIPの位置づけは『総合型地域コミュニティ』だ。文科省が推進する『総合型地域スポーツクラブ』からの造語で、スポーツだけに捉われない事業展開をという意図を表した。そしてこのコミュニティの育成的運営こそ、村田准教授の研究活動そのものだ。
体操教室を軸とした『ちくだいKIP』
新たな雇用を生み出す起点にも
2009年、村田氏は本学の体育教員の募集に応募。面接で「ここでは、今までのような研究は続けられないですよ」と念を押されるが、「新しいことをやります!」と宣言。赴任早々、親交のあるアテネ五輪体操の金メダリストを呼び、イベントを開催する。そこで体操の素晴らしさに魅了された当時の在学生、山田共彦さんが本学に体操部を設立。部員11名のうち経験者ゼロ、器具もゼロという不利な条件のもと村田准教授が取り組んだのは、体操をやるための体づくり。1年間のトレーニングを経て、試合に初挑戦。上位には食い込めない結果となったが、その挑戦の場に立てたことが部員の誇りとなった。
2015年、いよいよ温めてきた構想を形にするときがやって来る。『ちくだいKIP』の立ち上げだ。理事には村田准教授に加え、ゼミ生を経て准教授の片腕として成長した山田さんが代表を務めることになる。ちなみに“KIP(キップ)”とは、体操技のけ上がリのこと。け上がりができた時の達成感をKIPを通して感じてほしい、と名づけた。またけ上がりで違う景色が広がる感動を手に入れる“切符”になれば、との願いも込めたという。
「KIPのコミュニティテーマは『つながる感動、みなぎる原動力』。この理念に直接関与する事業だけを行うことにしました。主たる事業は本学の体育講義の空き時間を利用した体操教室。現在1歳から12歳までの会員250名が、体操に楽しく取り組んでいます。コースは未就園児がお母さんと一緒に臨むファミリージム、幼稚園児のキンダー、小学生のジュニアの3つ。おかげさまで会員数は右肩上がり。体操という習い事に潜在的ニーズがあった点に加え、スタッフの熱心な指導とプログラムの魅力、“ちくだい”の安心感が功を奏したのだと思います」と、村田准教授は分析する。さらに選手を目指す子ども達には永きにわたり十勝の体操界を支えてきた「十勝ジュニア体操クラブ」を斡旋。KIPと同じスタッフが指導をし、全道の中学・高校のチャンピオンを輩出している。
「KIPの常勤スタッフは代表の山田ともう一人、体操の道内チャンピオンだった松林。スポーツで食べていくのは大変ですが、有益な人材がその地域で職を得ることは大切です。地元の子どもを指導し、共に夢を追う。そうすることがコミュニティの充実度を高めることに。KIPが新たな雇用を生み出す場となっていることにも、手応えを感じます」と、村田准教授。
学生発案事業で地域を活性化
今後は発達障がい児童の運動プログラム作成にも着手
KIPの事業のもう一つの柱が、学生発案で地域貢献のビジネスを仕掛ける『KIP students』だ。最初のプロジェクトは、地元のボウリング場の集客不足を解消するプラン。テーマパークの旅行券を商品に『ハイ・ボウル(高校生ボウリング大会)』と銘打ったところ、61チームの参加を得た。2016年には農家バイトの一括管理システムが、『北の四大学ビジネスプラン発表会2016』で最優秀賞を受賞。このプランは企業の支援を受け、実際にシステム作りが始動している。
「今後、活動の中心に据えているのが発達障がい児童の運動プログラムの作成です。中でも運動から遠ざかりがちな子たちは、近い将来健康問題にも直面するはず。自分と向き合う『体操』を使って運動の楽しさが湧き上がるプログラムを作っていきます。時代の潮流を感じ取り、必要とされるものを提供するというシンプルな社会貢献こそが私の研究です。これからも失敗からしか学べないという姿勢で、遊び心をもって感動を生み出すことにチャレンジしていきたいですね」と、村田准教授は結んでくれた。
Associate Professor
MURATA KOICHIRO
村田 浩一郎准教授
函館市生まれ。人間科学博士。早稲田大学を経て、2008年に同大大学院人間科学研究科博士後期課程修了。2009年、助教として本学へ赴任し、2015年より現職。同年、総合型地域コミュニティ『ちくだいKIP(きっぷ)』を立ち上げる。高校・大学で活躍した自身の体操経験を生かし、日本オリンピック委員会体操競技強化スタッフ、日本体育協会公認体操競技コーチ、帯広市総合計画策定審議会委員などの要職を務める。夢はスポーツで人の幸せをアシストすること。
Data/Column
体操教室に通う子ども達を対象に、毎年1回開催する『KIPチャレンジ』。体操の金メダリストなどをゲストに迎え、村田准教授がMCを務める。子ども達が自発的にプレゼンテーションするステージであると同時に、あともう少し頑張ったらできることにチャレンジをする場でもある。スタッフもメダリストと一緒にパフォーマンスを披露するので、誰にとっても新しいことに挑戦できる良い機会となっている。