JRA日本中央競馬会特別振興資金助成事業 障がい者乗用馬ならびに在来馬の生産法確立事業

研究集録 『障がい者や初心者に安全な馬の新しい生産法』
~凍結精液による人工授精・受精卵移植法の手引~が完成いたしました。

研究集録 『障がい者や初心者に安全な馬の新しい生産法』凍結精液による人工授精・受精卵移植法の手引


令和2年3月 研究集録が完成いたしました。当研究の詳細がまとめられています。PDFにてご覧いただけます。

日本で24年ぶり、受精卵移植によって4頭の子馬が誕生

事業成果のご報告

ドナー(代理母)による子馬の誕生の様子

日本には、障がい者乗馬に利用される、従順でおとなしい馬が不足しています。また、日本在来馬の中には、保存の継続が危惧されている種もあります。このような、必要とされる、貴重な馬を、短期間で効率的に生産する方法の確立が希求されてきました。

本研究事業では、日本では産業としてほとんど定着していなかった馬の受精卵移植法に着目し、効率的な馬生産方法の確立を計画しました。おとなしい品種と考えられるコネマラポニー種雄馬の凍結精液を利用し、ドナーとなる北海道和種雌馬に人工授精しました。またおとなしいとされる北海道和種の交配を実施し、これらの雌馬子宮から、受精卵を洗浄・回収することを試み、同格雌馬(レシピエント)の子宮に移植し、複数頭の生産を試みました。

2018年、季節繁殖動物である馬の発情を早期に誘発するために、ブルーライトマスクを用いたライトコントロール法を北海道和種に対し実施しました。その結果、サラブレッド種で報告されている成績と同様に、利用価値の高い手法であることが明らかとなりました。

その後、2018年4~8月にかけて直腸検査、発情周期を精査しながら、ドナー雌馬への交配(1回)および人工授精(13回)を実施し、6-8日後に受精卵回収を行い、5個の受精卵の回収に成功しました。回収した受精卵を、発情周期を同期化されたレシピエント雌馬の子宮内に移植し4頭の妊娠を確認し、継続的な検査を行いました。受精卵移植が成功した4頭の内3頭は、同じ父(コネマラポニー種)の凍結精液による人工授精と、同じ母(北海道和種)からの複数回の受精卵回収により得られた受精卵、すなわち全兄弟にあたります。

その結果、2019年4月10日に、日本では24年ぶりとなる、受精卵移植による子馬が誕生しました。
2019年4月26日、27日には母と父が同じで兄弟となる2頭の子馬が誕生しました。
そして2019年7月5日にも兄弟が誕生しました。4月末に産まれた2頭とともに、それぞれ別の3頭の牝馬へ受精卵移植することにより、同一年度に3兄弟として生産された貴重なおとなしい馬の生産に成功しました。

代理母より産まれ起立した直後の子馬

これらの技術や研究事業の過程は、学会発表や発表論文、ホームページや新聞メディア、市民講座、大学関連の事業紹介などにより発表、広報しています。

将来的に障がい者乗用馬や在来馬など、必要となれる馬の効率的生産に利用できる技術となります。
受精卵を提供するだけのドナー馬は、現役を続けながら優秀な遺伝子を伝えられ、受精卵は複数回収できるため、同一年に優秀な子馬を複数生産でき、障がい者乗用馬の循環生産につながる事が実証できました。

一方で、本技術の普及にはいまだいたっておりません。また、発情が同期化された良好なレシピエントが必要であり、凍結保存が難しい現状においては、受精卵が得られたとしても、受精卵移植が失敗に終わることがあります。これらの困難を克服する必要があります。

将来、障がい者や初心者に安全な馬の生産、そして野間馬や木曽馬など頭数が減少している在来馬の保全にも応用できます。

元気に育っている子馬
元気に育っている子馬

新聞記事