提案
日本在来馬の保存と受精卵移植の応用
現在の日本には、軽種馬や重種馬、中間種や洋種の乗用馬などが全体の97%を占めるようになった。わずか3%程度の日本在来馬は、ホースセラピーを含めた馬介在活動に適した体格や性質を持ち合わせていると言えるが、その飼養頭数は近年さらに減少傾向にある(日本馬事協会 馬関係資料(令和3年4月版))。1994年には3466頭であったが、2021年時点では1570頭と約30年で半減している(日本馬事協会 馬の統計)。
優秀な乗用馬の雌馬が子孫を残すためには、妊娠により競技や活動のキャリアを中断しなければならない。サラブレッドは基本的にレースを引退して繁殖牝馬に専念するが、乗用馬は現役引退後に繁殖させる場合でも、既に妊娠や出産に適した年齢を過ぎていることが多く、受胎率が低いという問題がある。これらの問題を解決するために、海外では生殖補助医療技術が頻繁に用いられている。他の雌馬をレシピエント(受精卵移植馬、代理妊娠馬)として受精卵移植を行うことで、優秀な乗用馬が自身の活動を中断することなく産駒を生産することができる。また馬は一年一産の動物であるが、一年のうちに複数個の受精卵を回収して移植することで一年に複数頭の生産が可能となり、効率的に増産を進めることができる。牛のように過剰排卵処置ができないことが一つの問題ではあるが、1,2個の受精卵が発情周期毎に得られるとすれば、利用価値は高い。
馬の多様な利活用
ホースセラピーに適した馬を効率的に生産し、馬介在活動として人と馬が障がいをもつ方のQOLの向上をサポートすることは、馬の多様な利活用を目指す中で極めて有用で社会に対する貢献度の高い事業となる。障がい者乗馬にふさわしい乗用馬が少ない日本において、帯広畜産大学の研究グループが、受精卵移植の技術を復活させ、また移植成功率の高い凍結受精卵の作出に成功し、効率的に生産する方法を確立したことは、日本在来馬やセラピーホースにふさわしい馬の生産を目的とした技術として大きな進歩であると考えられる。この流れを積極的に普及させるとともに、残された研究課題である、体外受精という日本で実施されてこなかった技術によりセラピーホースを生産することを試み、併せて本州や離島で飼養されている馬の受精卵を安全に輸送し凍結保存する技術を確立することが、まさに馬が人との絆を構築し、社会に貢献できる手段であると考えられる。これにより、馬資源の少ない我が国においてニーズの高い馬を効率的に生産するという家畜改良の原則目標が実現可能であり、極めて先導性の高くかつ達成の可能性が高い研究事業になりうると考えられる。