病理学とは?
病理学 pathology とは、ギリシャ語の"pathos(病気)"と"logica(学問)"という言葉に由来し、その名のとうり『病気の理(ことわり)』を究明する学問です。言い換えれば、病気の本態を究明しようとする学問であり、いろいろな検査方法、機器の発明によって病理学の対象とする領域は時代とともに増加しています。
歴史的には、肉眼病理から始まり、顕微鏡や電子顕微鏡といった観察機器の発明、および組織を薄く切る技術(切片作成技法)や、いろいろな組織を染め分ける技術(染色法)の開発によって、細胞病理学という概念が広まり、形態病理学が確立されました。
今日では遺伝子という概念がさらに加わり、遺伝性疾患に限らず全ての病気について、遺伝子の観点から病気の発生メカニズムや、病態を追求する分子病理学という領域が確固たる地位を得ています。
このほかにも病理学には自然発生疾患を実験動物や培養細胞を使って再現し、病気のメカニズムを解明する実験病理学や、機能の変化に重点をおいた機能病理学といった多岐にわたる学問領域が包含されます。
しかしながら、これらの学問領域は並行して存在するのではなく、互いに密接に関連しています。
ここでは、病理学の中で根幹をなす形態病理学を中心として家畜病理学全般や当講座での仕事について紹介したいと思います。
獣医病理学について
獣医病理学も、病理学(医学)も、対象とする個体が動物かヒトかの違いはあるものの、基本的には同じです。
獣医病理学が対象をする動物種は、両生類、魚類から高等哺乳動物まで多岐にわたり、対象とする疾患は多数の動物固有の疾患だけでなく、ヒトの疾患(モデル動物)をも対象にしています。
主な獣医病理学の分類
- 病理解剖学
- 個体を病理解剖することによって、なぜその個体が死亡したのか、あるいはなぜその個体がそのような病態に至ったかを究明する。
- 外科病理学(生検病理学、病院病理学)
- 生きた個体から摘出された病巣を対象とし、腫瘍(良性 or 悪性)であるのか、炎症であるのか(原因も含めて)といった病変の基本的な性格を判定する。→その個体に対するその後の治療方針を左右する。
- 実験病理学
- 自然発生疾患を実験動物や、細胞を使って再現し、病気のメカニズムを解明する。この分野にも形態病理学が深くかかわってくる。
獣医病理学と臨床とのつながり
肉眼(マクロ)の世界の病理:病理解剖によって、個体の臓器・組織を肉眼的に観察・検査する。
個体の全ての部位について組織検索(ミクロの世界の検索)を行うことは不可能であり、肉眼でしかわからない変化もあるので(カメラでズームしすぎると何だかわからなくなるのと同じ)、病理解剖で、何処が異常か(おかしいのか)を肉眼的に見極めることが重要である。
組織(ミクロ)の世界の病理〜マクロからミクロ(μ:マイクロ)の世界へ〜
作業の流れ
切片を適当な大きさに切り(一部分でその臓器・組織の変化を代表できるように)、固定する(腐敗防止)。
固定組織を整形し、スライドガラスにのる大きさにする。アルコールで脱水、脱脂し、最終的にパラフィンに包埋する。→パラフィンブロックの作成
特殊な装置で(薄切機)4μmの厚さに薄切し、スライドガラス上に貼り付ける。
スライドガラス上のパラフィンをのぞいて(組織は張り付いたまま残る)、色素をかけて染色する(一般的にはヘマトキシリンという紫糸の色素と、エオジンといる赤色の色素の二重染色をする)。
色素で染色した切片にカバーガラスをかけて、光学顕微鏡で観察する。
病理組織検査
病理学検査を助けるミクロの世界の技術
- 組織化学染色
- いろいろな化学反応を利用して、いろいろな物質(糖、脂肪、種種の生体内色素、線維、病原微生物など)を切片上で証明する染色方法。
- 免疫組織学的染色
- 抗原-抗体反応を利用して切片上のいろいろな抗原(病原微生物構成蛋白、細胞構成蛋白など)を証明する染色方法。
病理検索を助けるナノの世界の技術
- 超微形態学的検索法
- 特殊な樹脂に包埋した組織を、特殊な機器で、90nmの厚さに超薄し、特殊な染色を施して透過型電子顕微鏡で観察する方法。
細菌
病理検索を助ける遺伝子の世界の技術
- 遺伝子診断法
- 組織からDNAやRNAを抽出し、遺伝子レベルで異常を検出する方法。
疑われる病原体の遺伝子を検出することにより、感染症の証明に用いたりします。