研究事業の背景
障がい者乗馬は、心身に障がいがある方が馬に乗る、あるいは触れ合う活動全般を呼び、心身に障がいを持つ人のためのリハビリテーションとして、100年ほど前にイギリスで始まったホースセラピーのひとつである。障がい者乗馬を安全確実に実施することは、幼児や高齢者といった健常者にもその手法を応用することが可能であり、「人生100年時代」をスローガンとした高齢化社会に対する健康年齢の延長を目指すことにもつながるものと考えられる。しかしながら、国内の小格馬と在来馬の割合は、全体のわずか3%程度と低い水準にあり、日本在来馬を基礎とした馬の多様な利活用の発展が希求されている。
申請者は、平成29年度から令和元年度にかけて、安全に実施可能な乗馬の資源確保が非常に難しい状況を鑑み、国内で24年間実施されてこなかった馬の受精卵移植(胚移植)の手法を、障がい者乗用馬ならびに在来馬の生産に利用可能か否かを科学的に実証するために、「障がい者乗用馬ならびに在来馬の生産法確立事業」を実施してきた(令和元年度完了)。その事業実施期間において、衛生条件が確立されフランスからの輸入が可能となった馬凍結精液に着目し、障がい者乗馬の用途に適していると考えられる、コネマラポニー種の凍結精液を利用し、人工授精と受精卵移植技術を用いて、同一年度に特定の母馬の子を複数生産することに成功した。その成果は学術雑誌Journal of Veterinary Medical Science誌(Hannan MA, et al. 81: 241–244, 2019) に掲載され、その成績が高く評価された。
凍結精液による人工授精に続いて、馬の受精卵移植による生産に成功したことは、馬の多様な利活用を目指して、こどもや障がい者が安心して乗れる乗用馬を計画的に生産するために、有用な方法となりうる。