問題
前事業において、輸入凍結精液を利用し、人工授精と受精卵移植技術を用いて、同一年度に3頭のレシピエント(代理母馬)から生まれた3頭の全きょうだい子馬の生産に成功した。障がい者乗馬に適した体高130-140cmのおとなしい馬は全国で不足しており、全国のライディングクラブ等でも所有したい種類の馬となっている。これら必要とされる乗用雌馬が現役活動を引退することなく、受精卵移植の技術によって子馬を複数頭生産できることが明らかとなり、さらなる研究事業の進展が期待されている。
一方、残された問題として、受精卵移植技術の全国的な普及はもとより、受精卵移植技術を効率的に活用するための課題もあり、大きな支障となっている。
- 受精卵移植は、一般に、ドナー馬の子宮から洗浄回収された受精卵を、レシピエント馬の子宮に移植する技術である。しかし、発情周期が同期化されたレシピエント馬が準備できない場合、レシピエント馬に移植しても成功率が低下することがこれまでの研究から知られている。レシピエント馬はドナー馬の排卵から1日早い~2日遅い排卵となるように調節しなければならない。そのためドナー、レシピエントともに発情誘起薬を投与するが、発情・排卵までに日数には個体差があることや、発情が誘起されないこともあり、より精度の高い同期化方法の検討が必要と考えられる。また、1頭のドナーにつき、1頭のレシピエントを用意する方法は非効率的であり、レシピエントを2頭以上準備することが有効であるが、レシピエント馬を準備するオーナーの負担が大きくなり得策ではない。それを解決するために、いつでも受精卵を受けいれることができるレシピエント牧場の存在が有効であり、欧米では数百頭規模のレシピエント牧場が存在する。受精卵移植のレシピエントの適性として、ドナーと同等の体格の馬が理想であることから、乗用馬の生産にサラブレッドをレシピエントとして飼養管理することも可能であると考えられる。
- 障がい者乗用馬などの貴重な特質を持つ馬や、希少な日本在来馬などの効率生産のために受精卵移植を利用することが有用である。しかし、得られた受精卵を安全かつ正確に遠隔地に運び、そのまま受精卵移植を実施し、それらをできるだけ簡便な方法として実施できることが望ましい。国内の馬生産産業では、これまでの歴史の中で、冷蔵や凍結精液を輸送することは行われているが、受精卵を輸送し、レシピエント馬のいる現地で直ちに受精卵移植を実施した研究は皆無である。海外では、一定温度で受精卵を輸送する
- 馬凍結受精卵作出技術の検討;得られた受精卵を半永久的に凍結保存し、必要な時期にレシピエントに移植する方法を確立することができれば、貴重な、あるいは希少な馬の生産効率改善として画期的な手法確立の礎となり、極めて先導性の高い研究事業となる。